第39話 カードの中の世界
――俺たちは強くなる。
そう誓い合い、廃墟の町を後にして旅を続けていた。
しかし、以前とは異なり、明確な目的があるわけではない。
プレジデント王国の革命から一旦離れ、行く先々で人々を襲う魔物の討伐に明け暮れる日々が続いていた。
ドクター・クラウンのような強敵が、いつ再び目の前に現れるか分からない。
チームはそれぞれの役割を果たしつつ、着実に経験を積んでいく。
ニーナは剣技を磨き、ジンとラミィの兄妹は連携して魔物の発生源を偵察する。そしてポーキーは、美味い飯を炊き上げる。
「何でオイラだけ炊事なんだべ?」
「分かってねぇな、飯は戦いの『要』だ。腹が減っては戦はできねぇ。ポーキーだからこそ任せられる重要任務だぜ」
「まぁ、ジョーが言うなら何でもええだ。戦うより飯作る方が性に合ってるべ」
親友を無理に戦わせるわけにもいかない。クラウンの件もある。
一方、俺の課題はトランプカードを使いこなすことに尽きる。現在判明しているコンボは以下の通りだ。
・同じ数字を2枚組み合わせる【ペアコンボ】。
・同じ数字を3枚揃える【スリーカード】。
・同じスート(絵柄)で3枚の連番を揃える【シークエンス】。
他にも強力なコンボが隠されているはずだ。
特殊なコンボによる魔法や技は絶大な威力を誇るが、その分魔力の消費も激しい。
これらのコンボを連発し、スート騎士を自在に召喚できるほどの魔力を蓄えなければ、この先の戦いにはついていけないだろう。
もっと、もっと魔力が欲しい……ッ!
♤
修行と戦いの日々が続き、平穏な日々に慣れ始めたある日のこと。
今日は趣向を変え、ニーナ以外の騎士も積極的に活用しようと考えた。スート騎士を数人召喚し、パーティ編成を試してみることにしたのだ。
選んだのは、ニーナに加えて【スペード3の騎馬騎士・サンダー】と、【スペード4の天馬騎士・シルヴィー】。一方は粗野なヤンキー、もう一方は高飛車な女。若手騎士たちの再登場だ。
サイクロプス戦以来となる顔合わせ。連携して戦う姿は頼もしいが、戦い終われば口喧嘩ばかりなのが玉に瑕だ。
そんな中、何かに痺れを切らせたサンダーがニーナに問いかけた。
「てかさぁ、ニーナ。お前、いつになったら『カードの中』に戻るんだよ?」
「……なによサンダー、藪から棒に」
「言われてみればそうですわ! あなた、御主人様に最初に召喚されてから、ずーーーっと『こっちの世界』に居座り続けているじゃないの!」
「シルヴィーまで!」
二人の追及に、俺もふと疑問を抱いた。
俺が転生してから約二週間。ニーナはその時からずっと召喚されたままで、今日まで同じ時間を過ごしてきた。
『…………御主人様と一緒に。いつも、いつでも、側にいたいから…………!!』
ニーナの告白を受けて以来、彼女をカードに戻すことなど考えもしなかった。
彼女自身も、戻る気など毛頭ないだろう。
だが、一度気になると納得するまで収まらないのが俺の性分だ。俺はニーナに尋ねた。
「……なあ、前から気になってたんだけど、『カードの中』ってどんな世界なんだ?」
「どんな世界って……初めて召喚された時、お師匠様が思念を送って自己紹介したでしょう? あの場所が、私たちの居る世界なんです」
「あの宮殿が、お前たちの拠点なのか!」
転生直後、スート騎士団の長【スペードA】の思念によって見せられた、白亜の宮殿。
あそこは13人の騎士が住まう異世界の城なのだろう。カードは分かれていても、根底では一つの世界を共有しているのだ。
――あの場所に、まだ見ぬ8人の騎士が控えていると思うと、男心が疼く。
「……そういえば、お前のことを【K】様が呼んでいたぞ」
「…………へっ!?」
サンダーの言葉に、ニーナの肩がビクッと跳ねた。
「わたくしも聞きましたわ。スート騎士団の中で、一年に一度の【健康診断】を受けていないのは貴女だけだって!」
「けんこうしん……ふええええええええ!!?」
健康診断だと? どこのホワイト企業だ。
ニーナは急に青ざめ、頭を抱えて叫んだ。
「ちょっと待って!? 締め切りはいつまでなの!?」
「明日までですわ」
「どうしよう〜! K様は掟に厳しいから、期限を破ったらどんな罰が……! 懲罰房なんて嫌ぁぁぁ〜〜〜!!」
これほど狼狽えるニーナを見るのは初めてかもしれない。だが、放っておくわけにもいかない。
「ニーナ、すぐにカードに戻って健診を受けてこい」
「でも、御主人様が……」
「俺のことは気にするな。終わったらすぐに召喚してやるから」
「………………」
俺への忠誠心が強いニーナは、激しいジレンマに揺れていた。だが、やがて義務感が勝ったようだ。
「……分かりました。終わったらすぐに呼んでくださいね。約束ですよ!」
「もちろんだ。俺に二言はない」
俺はデッキから【スペード2】のカードを取り出し、送還の術式を起動する。
「………………【ダウンカード】! 『スペード2』!!」
『絶対、呼んでくださいねーーーー!!』
一瞬の躊躇いの後、詠唱を完了させる。ニーナの姿が光に溶け、初めてカードの中へと戻っていった。
「…………………………」
たかが騎士を戻しただけだというのに、これほどの喪失感に襲われるとは。
そんな俺の感傷を余所に、サンダーとシルヴィーは、何やら良からぬことを企むような笑みを浮かべていた。
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