第36話 ギャンブラーVS100の死霊兵
――ドクター・クラウンの暗黒魔法を、身体を覆っていたバリアごと破壊したニーナ。
彼女は、俺が3枚のカードを使った【スリーカード】によって放った超必殺技に驚く間もなく、人質に取られていたラミィを救出した。
それだけ彼女の怒りも爆炎の如く燃え上がっていたのだ。これほど勇ましい彼女を見るのは久方ぶりだ。
「ラミィさん、大丈夫ですか?」
ニーナにお姫様抱っこされたラミィは、顔を真っ赤にしながらも、大好きな彼女に助けられた安堵から大粒の涙を流す。
「あーーーん!! 怖かったよ、ニーナあああああ〜〜っっ」
アイツ、ニーナの前じゃホントに子供に戻るんだから。頭を撫でられる姿は、まるで幼子のようだ。
だが、ドクター・クラウンの方は、バリアを破壊された衝撃で腕を押さえながら悶えていた。
「な、何だでや、今の技は……? あんなの、貴様の思考には無かったぞ……!?」
クラウンは読心術で俺の手筈を把握したつもりだろうが、一つ誤算があった。
「そりゃ読めるわけねぇよ。【スリーカード】は今初めて出した技だ。正真正銘のぶっつけ本番だぜ……!」
ギャンブラーの気まぐれから繰り出した大技が、クラウンの読心術を打ち破った。人質も取り返し、形勢は逆転した……はずだった。
「……その割には足元がフラフラのようだがの、召喚士くん」
「っ……!」
クラウンの奴、細かいところまでよく見てやがる。
【スリーカード】の代償として凄まじい魔力を消費し、立っているのがやっとの状態であることを奴は見抜いたのだ。
「なるほど。お前さんの魔力など、底が見えたわ。既に俺の罠の手中に嵌ったとも知らんでな!」
「何だと? 罠ってどういうことだ!」
「この酒場の地下に何があるか、今から見せたるわ! まぁ良う目ぇ擦って、地獄を味わうが良いでよ!!」
ドクター・クラウンが両手を広げ、強く念じる。掌から放たれた禍々しい紫色の瘴気が、床を通り抜け地面の奥深くへと染み込んでいく。一体、何が起こるのか……?
―――バキッ!!
「!?」
酒場の床を突き破り、腐りかけた手が下から這い出してきた。
その手は瞬く間に増え、床一面を不気味な無数の手が埋め尽くす。そこから次々と頭が突き出て、俺たちの前に姿を現した。
まるで墓場から蘇ったゾンビ……いや、服も肉も腐り果て、骨が剥き出しになった『本物』の死霊だ。
元はこの街で朽ち果てた兵士の死体。それをクラウンが操り、死霊兵として蘇らせたのだ。
「これが、暗黒魔法の『死霊術』か……!!」
クラウンが繰り出した悍ましい魔法の力に、俺の身体に戦慄が走る。
「どうだ、俺のネクロマンシーは? このまま死霊どもに地獄へ送ってもらうがいいや!」
既に酒場内は死霊兵で埋め尽くされていた。窓の外を覗けば、外にも溢れかえった連中がドアを叩き、建物を包囲している。
内外合わせて死霊兵の数は、ざっと100体。質より量で攻めるクラウンの不敵な笑いが、俺たちを絶望へと追い込んでいく。
「なんてこった、袋のネズミとはこの事だべ」
「どうしますか? 御主人様……」
ポーキーとニーナが不安を押し殺しながら俺の指示を待つが……、俺の状況も絶望的だ。
【スリーカード】の消費魔力は、連番コンボの【シークエンス】の3倍以上。
もう一人スート騎士を召喚しようものなら、確実に俺が先にぶっ倒れる。
ニーナとロクサーヌの二人だけで、100体の死霊兵を相手にするのは、あまりに多勢に無勢だ……!
「諦めては駄目だ、ジョー!!」
希望を見失いかけた俺たちに届いたのは、ジンの一声だった。
――ズバッ!!
暗がりの酒場に、ナイフの刃が閃く。死霊兵の腕を鮮やかに切断するその斬れ味。ジンの短剣術にはさらに磨きがかかっていた。
「わたしたちも戦うぞ。生命を弄ぶ輩相手なら、思う存分刃を振るう所存だ!!」
そしてもう一人。ニーナに助けられたラミィが、兄に続くように立ち上がる。兵の喉をナイフで引き裂き、乱暴に四肢を切断する荒削りな戦闘スタイルで一矢報いようとする。
「あたいだって、ニーナを護るんだ!!」
これがジンとラミィの初戦闘。二人とも軽い身のこなしで剣術を振るい、バッタバッタと死霊兵を薙ぎ倒していく。非常に頼もしい戦力だ。
「……私も、黙って見ているわけにはいきませんね!」
「その通りだ、オイラだって戦うだ!!」
その気合に押され、ニーナもポーキーも己の武器を握りしめて加勢する。
それに比べて俺は……カードも満足に出せない、ただの足手まといだ……!
「ちくしょう、もっと俺に魔力があれば……!!」
悔しさに拳を握りしめる俺の手を、ロクサーヌが優しく包み込んだ。
「自分を責めてはなりません、主様。貴方の強い意志がここまで皆を動かしたのです。貴方が授けた勇気は何物にも勝りますわ」
「……済まない、ロクサーヌ……!」
無力な俺とロクサーヌは、迫りくる死霊兵を必死に払い除けるのが精一杯だった。そんな不甲斐なさを、クラウンは見逃さない。
「何だ貴様? 大口を叩いた割には大したことないのう」
「うるせえ! 訛りピエロが口出しするな!」
「戦う力の無い奴がどれだけ吠えても、能無しと同じだがや。そこのデカいおっぱい女も同様にな! ハハハハハ!!」
―――プチンッ。
一瞬の出来事だった。俺のすぐ近くで、何かが『キレる』音が聞こえた。
その直後、ニーナが突然顔を青ざめて震えだした。
「た、大変……! ロクサーヌ姉さんの前で、とんでもないことを言っちゃった……!!」
何のことだ? と一瞬理解が追いつかなかったが、隣に立つロクサーヌの様子が急変していることに気づき、背筋が凍った。
「…………誰が【デカいおっぱい】だ?」
……あれ? ロクサーヌの穏和な口調が消えている。
それどころか、凄まじい『覇気』を放ち、鋭い眼光でクラウンを射抜いているではないか……!!
「私の胸をよくも侮蔑したなああああああ!! ―――赦さんッッッ!!!!」
次の瞬間、ロクサーヌのドレッシーな服が光を帯びた。穏やかな雰囲気は一変し、彼女は『武闘派』のスタイルへと姿を変える!
これぞ即ち、【ロクサーヌ・バトルモード】とでも言うべきか!?
「この世に蔓延る穢らわしい獣ども! 我が聖なる力の元に天誅を下す!! そこへ直れェェェッッ!!!」
―――キャラ、変わりすぎだろぉ!!?
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