第35話 復讐の暗黒魔術
――道化の仮面と黒マントで身を隠し、未曾有の魔力で俺たちを翻弄するドクター・クラウン。
何故か、俺の思考をも見通すこの男。対峙する前から彼の正体を知りたがっていた事も見透かす。彼はラミィを人質に、酒場の中の椅子に腰掛けながら、徐々に自分の過去を曝け出した。
「除隊処分を受けた後、俺は故郷である西の大陸の『オハリヤ地方』へと戻ったんだ。オハリヤ地方に伝わる黒魔術の極致とも言われる魔法を会得するためにだ。悪魔をも恐れる暗黒魔法をよ!」
ここからも、俺たちがドクター・クラウンの話を整理して説明しよう。
♢
――戦争に使った禁断魔法によって、顔も身体も潰され、五体満足に動けなかった彼は、プレジデント王国によって流刑に処されようとしていた。
500人以上の人々を皆殺しにした彼が、何故死刑に出来ないかというと、彼自身が魔導師であること。そしてオハリヤ地方の魔法使いは呪怨の歴史が深い血筋の持ち主であること。
流刑とはいえ、彼にとっては瀕死の重傷を負ったまま故郷に帰ることになる。これは非常に幸運な結果となった。
故郷に戻った彼は、何の因果か黒魔術の神髄とも言える禁断魔法を伝授する教団に誘われた。既に戦争で絶望に染まっていたクラウンことジョセフは、教団の長にこう諭された。
「ジョセフよ、貴様の思念には凄まじい『怨』が染まっている。その怨念はやがて黒魔術において強大な力を生成する。ならば、己の持つ黒魔術を最大限に極めてみないか?」
長の一声に対し、既にジョセフの腹は決まっていた。
『愚問だぎゃ。俺は強大な力を蓄えて、あの王国に復讐する。それが俺の使命であり、『未来』でもあるんだわ!!』
ジョセフは教団に入り、死に物狂いで黒魔術の全てを会得しようとした。満身創痍の体に鞭打って、復讐のためだけに。
黒魔術の主な要素としては5つ。
死者の肉体・魂を操る『死霊術』。
悪魔と取引し、強大な力を借りる『契約・悪魔召喚術』。
呪いなどで精神的ダメージを与える『呪詛・因果操作』。
生命の理を歪める『吸命・生体変化』。
人の自由意志を奪い、意のままに操る『精神支配』。
これらはいずれも私利私欲のために理を歪める不道徳な術であり、魔法界では禁忌の『暗黒魔法』として忌み嫌われている。
だがジョセフは、底なしの復讐心だけでその全てを飲み込んだ。
その技巧は、召喚された悪魔が恐怖のあまり発狂し、自らの首を鎌で切り裂いて供物となるほどに、狂気に満ちていた。
――入団してから3ヶ月、ジョセフは一気に長に代わって教団のマスターとして昇格。
その祝として、マスターとして相応しい衣装を贈呈される事になった。
教団員たちが、丹精込めて黒魔術の魔力を込めた黒鉄色のプロテクターを生成し、焼け爛れたジョセフの身体を包んでいく。
――そして最後に、道化師の仮面。その性質はダイヤモンドよりも硬い神の金属である『オリハルコン』で造られている。
しかしこれには、曰く付きの呪いが憑いていた。
血の赤と、闇の黒。これらが混ざり合う道化の仮面を付けた者には人道を捨て、二度とその仮面を外せなくなる。
悪魔の契約にも似た呪いだったが……ジョセフには最早関係の無いものだった。
『人道を捨てる? 願ってもないことだ。仮面も取れんほうが都合がええ。このフザケた面を被って、人の不幸を特等席で笑うてやるわ!』
そして仮面を取り付けた時、まるで主を待っていたかのように顔にピッタリとくっつき、一生離れなくなった。
プロテクターと頭を、黒いマントとフードで覆った瞬間、黒魔導士『ジョセフ・クロマティ』という男はこの世から消えた。
―――【ドクター・クラウン】として、新しく生まれ変わったのだ。
ドクター・クラウンは完全に暗黒魔法の力を手に入れ、オハリヤ地方最大の黒魔導士にもなった。
彼はその魔法の力でプレジデント王国を服従させ、何れは世界そのものを意のままにしようと誓った……!!
♡
――ドクター・クラウンの自分語りが終わったのは、たったの5分。
俺はその間に彼を倒す手段を必死で考えた。
彼の魔法の一つである『読心術』で悟られないように、彼の過去や暗黒魔法の盲点や、今いるパーティメンバーの個性を合わせて、打開策を考えた。だが……。
「昔話を終えても、俺を倒す術が見つからないと見えるな。違うか?」
「ッ…………!!」
ドクター・クラウンの読心が、全てを物語っていた。
「まぁ、ええ。お前たちは俺と同じくプレジデント王国を憎む身のようだな。その無礼、今は水に流してやろう」
「何……?」
「俺の邪魔をしないことと、『傘下』として手を組むと約束するなら、命だけは助けてやる。どうだポーキー、貴様も命は惜しかろう?」
「ぐぐっ……!!」
不敵に笑うクラウンに、ポーキーは歯茎に血を滲ませるほどに苦虫を噛み潰す。ここまでの屈辱を味わわせる奴に、親友として黙ってみていられない。
「ポーキー、分かってるぜ。お前の言いたいこと。今度は俺が、怒りを引き受ける」
「ジョー……!」
ポーキーに代わり、俺がクラウンの前に立ち、フザケた面に中指を立てて豪語する。
「お前と一緒になろうなんざ―――死んでも願い下げだ、このピエロ野郎ッッ!!!!」
そして、カードを3枚発動させる。
そのカードは、『スペード2』『ダイヤ2』『クローバー2』のスリーカード!
ニーナは瞬時にクラウンとラミィの懐に辿り着き、臨戦態勢に入っていた……!
「―――スペード2、ダイヤ2、クローバー2! 【THREE CARD】発動!!」
生命を軽蔑するようなクソ野郎には、とびきりの奥義でブチのめしてやる!!
「―――『烈火快傑斬・炎怒スラッシュ』!!」
レイピアに宿った爆炎の柱が、ニーナの一閃と共に空間を焼き切る。
―――ゴォォォオオオオオオッッッ!
ドクター・クラウンの右腕を狙った一撃は、絶対防御のはずの暗黒魔法を紙のように切り裂き、溶岩の如き熱波を撒き散らした。
衝撃によって腕が離れたことにより、人質に取られていたラミィは解放され、直ぐ様ニーナが彼女を抱き抱えた。
――そして俺も、快感にも似た恍惚で叫ぶ。
「暗黒魔法バリア、敗れたりぃぃぃいい!!」
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