第30話 争いが生み出すアンバランス
ジンとラミィのメルド兄妹を仲間に加えた俺たちは、ホイスト港を後にした。
ジンたち率いる『ダウトの使者』は、同胞の盗賊たちと用心棒のアンドロスに港を託して解散した。
いずれ起こすプレジデント王国の革命に備え、情報収集の拠点として、また兵士たちに悪用されないための縄張りとして、港を本部にレジスタンス活動を営むようだ。
俺たち一行は、王都を中心に西へと足を運ぶ。
まるで、この世界の何処かで、不条理な世を嘆く声に誘われるかのように。
♤
――この世界の自然は、俺みたいなやさぐれた男の心をも癒す。
前世のように金や将来、世間の目を気にせずに済む分、心に余裕が生まれる。
その余裕が出来ると、辺りの風景も鮮やかに俺の心を打つ。
澄み渡る青空、靡く緑の草原、そびえ立つ鈍色の山々。
彩りに富んだ景色は、常に無機質なカードとチップを見つめていた俺のようなギャンブラーが、如何に狭い世界で生きていたかを思い知らされる。カジノのボードの緑より、自然の緑の方が目の保養にもなる。
どうせなら、一度死ぬ前にこの感動を味わいたかったけどなぁ……。
「さっきから何をしみじみ語ってんだべ?」
「……あ?」
「ずっと独り言を言っていますよ。景色がどうとか、緑がどうとか」
ニーナ、ポーキー。二人揃って俺の感慨に浸る語りにツッコむんじゃねぇよ!
「「ほら、それも!」」
お前等なぁ……。
とまぁ、こんな感じで三人で戯れながら西へ、西へと異世界の風を受けて歩いていく。きっとジンとラミィも、俺たちと同じように希望に向かって歩いている事だろう。
大いなる自然が、俺たちを鼓舞していく。
これから先に前途多難な事が起きても、我らがその苦しみを癒してあげよう、と。
俺たち【革命】を起こす者に対する、せめてもの応援だと思った。
……何で、俺がそんな事を思ったかって?
それはその先の道が、数日前までプレジデント王国と他の国の兵士とが戦い合って荒れ果てた戦場の跡だったからである。
「…………やっぱり、避けては通れないよな。何れは目の当たりにすると思ってた」
死屍累々とした兵士たちの亡骸、血溜まり、火器の影響で焼却された不毛な大地。
今直ぐにでも後戻りしたい程に、破壊された景色は『地獄』と呼ぶのが相応しい。
「そんな……ひどい……!」
「っ…………」
ニーナは余りの惨状に目を塞ぎ、ポーキーは唇を噛み締めながらも、二人は散っていった兵士に黙祷を捧げる。同じ戦場を生き抜く戦士としての礼儀である。
「なぁポーキー。争いを起こしている上の連中は、国のために戦って死んだ兵士のことをどう思ってるんだろうな?」
「そりゃ人それぞれだべ。命を懸けた者を悼む奴もいれば、駒としか思わん奴もいる。どっちにしても、国のために死ねるなら本望だと思っている奴が、こうして兵士をやってるんだ」
「戦って死ねるなら、本望……?」
ニーナはその考えに『違う!』と訴えたそうにしていたが、躊躇っていた。
おそらく召喚主である俺に忠誠を誓う騎士である以上、もし『俺の為に死ね』と命令すれば、それに従うしかないというジレンマがあったからだろう。
冗談じゃない。そんな命令、口が裂けてもするものか。
俺とニーナは死線を潜り抜けて、一緒に頑張ろうと決めたんだ。他の12人の騎士だってそのつもりだ。
絶対に、あの屍と同じ末路にさせたくない……!
そんなニーナも、俺と同じくネガティブな思考を振り切り、話題をある方向へずらして導いた。
「御主人様、これだけの戦の後です。この近くに生存している兵士たちを手当てする救護所があるはずです。……行ってみませんか?」
「んだな、何処かでテントを立てて応急処置をしてると思うだ」
ニーナとポーキーが兵士たちを救うことに肯定する中、俺は黙々と思索を巡らせる。
もしその兵士たちがプレジデント王国の者だとすれば、王族撃破の何らかのヒントが得られるかもしれない。若しくは俺の仲間に加わることも有り得る……と、考えてる最中。
「ジョー、人助けを『損得』だけで考えるもんじゃねぇべ」
「うっ……、何で分かったんだ?」
「お前が口角を上げる時は、何か企んでる時だ。今は王国のことなんて気にする場合じゃねぇ。たまには『善意』だけで人を救ってみるもんだべ」
「善意、か……」
これは、ポーキーに一本取られた気がした。ジンとラミィを仲間に入れた時も、一寸でも『得策』と思ったから行動した。
そんな損得ばかりで動いていたら、何れはニーナにも信頼を失う羽目になる。それをポーキーは迅速に見抜いていたのだ。
「ポーキーの言うとおりだ。今は人の命が最優先だもんな。急いで救護所に向かおう!」
「御主人様!」
「それこそ、我が親友だべ!」
俺たち三人は、善は急げと救護所と思われる拠点へと突き進む。辺りを見渡し、三角テントや王国の旗など目印になるものを探す。
「……あっ! 皆さん、ありましたよ!!」
ニーナが指差す北北西。プレジデント王国の国旗を掲げた、簡易的なテント群が見えた。
急いで駆け寄ると……そこもまた、別の意味での地獄だった。
「水……水をくれぇ……!」
「傷口が塞がらねぇよ〜」
「いっそ、殺、せ……!!」
プレジデント王国兵士の苦痛のうめき声。血腥い臭いや看護師の怒号が飛び交うあまりにも劣悪な衛生環境。
これを、俺たち三人が来た所で何が出来るというんだ……?
「……せめて、美人のナースの一人くらいいてもいいのにな」
「何を言ってるんですか、御主人様?」
俺が漏らしたしょうもない下心。だがそれは『言霊』となり、思わぬ奇策を生むことになる。
その鍵を握るトランプカードは―――【スペード6】。
5人目のスート騎士の活躍だった……!!
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