第3話 我ら、スートの騎士団
「何? ニーナの他にも、12人も仲間がいるのか!?」
「そ、そんな事より! 早くこの森を抜けましょうよ! またゴブリンが襲ってこないとも限らないし、ね? ね?」
ニーナは咄嗟に話題をはぐらかし始めた。明らかに『今は召喚しないで、お願い!』と言わんばかりの顔で俺に訴えかけている。
―――召喚できる騎士が、ニーナを含めて13人か。
1つのスート(絵柄)にA、J、Q、K。そして2から10の数字カード。合計枚数は13枚。
おそらく、それぞれの札に違う騎士が割り当てられている仕組みなんだろう。
そういえば、ニーナは『スペードの2』の騎士だと言っていた。
ポーカーやスペードにおいて、『2』は一番弱い数字とされることが多い。
もしこの世界の仕組みがトランプのルールに準じているのだとしたら、俺がニーナの前でエースやキングを召喚しでもしたら、彼女の立場がなくなってしまう。それは不憫だ。他の騎士を呼ぶのは、本当に窮地に陥ってからにしよう。
「……あ、そうだ! ニーナ、お前怪我してんじゃねぇか。手当てしないと」
「だ、大丈夫です! これぐらいの怪我、御主人様を護るためなら……!」
見え透いた痩せ我慢だ。先程の不甲斐ない戦いに責任を感じているのだろう。根は真面目なようだが、自己犠牲が過ぎるといつか身を滅ぼすぞ。
RPGなら薬草やポーションがありそうなものだが、あいにく手元にはトランプしかない。
……待てよ。スペードの2でニーナが召喚され、ダイヤの2でニーナに攻撃魔法を使わせることができた。ということは、スートごとに役割が決まっているんじゃないか?
スペードが召喚、ダイヤが攻撃魔法。なら、ハートは――回復魔法か?
俺は試しに【ハートの2】を取り出し、ニーナに向けて発動させた。
『【ハート2―ヒーリング・チャージ―】!!』
無機質な音声が響くと同時に、カードから溢れ出した癒しの光がニーナの身体に吸い込まれていく。
「……!? 身体の痛みが消えていく……!」
ゴブリンに殴られた傷や腫れが、数秒もしないうちに完治した。
「ふっかーつ! ありがとう、御主人様!」
「気にするな」
天真爛漫な笑顔を見せられると、こちらまで悪い気はしない。
「それにしても御主人様、召喚されて間もない私に攻撃魔法を指示したり、回復魔法まで使いこなすなんて。もうカードの扱いをマスターしちゃったんですか?」
「いや、俺も無我夢中で……正直、使いこなせている実感はない。ニーナ、お前はこのカードのこと、何か知ってるのか?」
「詳しくは分かりませんが、基本の仕組みなら教えられますよ!」
それを早く言ってくれ。俺は早速、ニーナからカードのレクチャーを受けることにした。召喚士が召喚騎士にチュートリアルを受けるというのも、妙な話だが。
♢
ニーナの説明をまとめると、スートの役割は以下の通りだった。
『スペード』は、ニーナのような騎士を呼び出す【召喚】。
『ダイヤ』は、召喚した騎士に放たせる【攻撃魔法・技】。
『ハート』は、騎士を癒やし強化する【回復・補助魔法】。
『クローバー』は、騎士の【武器や特殊能力】の発動。
2から10の数字はそれぞれの効果の強弱や種類を表し、A、J、Q、Kの絵札は、俺自身が経験を積まなければ扱えない上級カードらしい。
「じゃあ、この2枚の【ジョーカー】は?」
「あわわわっ、それは気軽に使っちゃダメです!!」
俺がジョーカーを取り出そうとすると、ニーナが血相を変えて制止してきた。
「どうしてだ?」
「ジョーカーは、いわば『諸刃の剣』なんです。絵札よりも強力な力を発揮しますが、使うと御主人様の命に関わるほどの反動があるって言われていて……!」
なるほど、ギャンブルと同じで、使いどころを間違えれば破滅を招くというわけか。
「よし、大体の使い方は分かった。あとは森を抜けて食料を確保して……どうした、ニーナ?」
突然、ニーナが俺の前で厳かに跪いた。
「紹介が遅れてしまい、申し訳ありません。私、ニーナを筆頭に、主である『ジョー・カーティス』様のトランプ召喚騎士として、改めて忠誠を誓います。
――我ら13人、この世に革命を起こす【スートの騎士団】が、命を懸けて貴方をお護りします!!」
……改めて驚いた。前世で金儲けの道具に過ぎなかったトランプに、これほど誠実な騎士たちが宿っていたとは。
女神が言っていた『世界に革命を起こす者』。その目的を果たすには、彼女たちの力が必要不可欠なのだろう。
『革命』が何を指すのかはまだ分からない。だが、せっかく掴んだ二度目のチャンスだ。騎士団の名を汚さぬよう、このカードを全力で使いこなしてやろうじゃないか。
―――ギャンブラーは、諦めが悪いんでね。
「分かった。これからもよろしく頼む、ニーナ」
俺は跪くニーナの手を取り、力強く握手を交わした。異世界の夕陽が沈み、夜の帳が下りようとしている。俺たちは急ぎ足で、ゴブリンの潜む森を後にした。
「……ところで、やっぱり騎士団の中じゃ、ニーナが一番弱いのか?」
「だからっ! 私は弱くないんだってばー!!」
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