第24話 白い純潔、黒い愛情。
ニーナは、黒薔薇のラミィによって、木造の港湾倉庫へと強引に連れ込まれた。
本来この倉庫は、船舶で運ばれてきた輸出入貨物を一時的に保管するためのものだが、ダウトの使者が占領してからは、ラミィの私室として使われている。
強奪した金品は、手下たちがすぐに飲み食いで使い果たしてしまうため、倉庫としての本来の役割は既に失われていた。
では、代わりに何を保管しているのか。
「これは……檻、ですか?」
「仲良くしてやんな。これはあたいが捕まえた動物たちだ」
それは、ラミィが乱暴に捕らえた森の動物たちの「収容所」でもあった。
小鳥は高く立てられた止まり木に乗せられ、足首を紐で括り付けられている。
森を駆け回っていたはずの兎や狐も、木彫りの檻に閉じ込められていた。
そして、ニーナやラミィを上回る巨躯を誇る牡鹿は、首輪を嵌められ、重い鎖で繋がれていた。
――これらは皆、過酷な環境によって歪んだラミィの「愛情」ゆえに拘束されていた。
「さぁさぁ、シカノコちゃん! あたいの前で踊ってみせな!」
ラミィは無理やり鎖を引っ張り、ナイフの先を突き立てて脅す。怯えて暴れる牡鹿の姿を嘲笑った。
「下手に動いてみろ、あたいが殺してやるよ! アハハハ!!」
「やめて! 虐めないで、乱暴しちゃダメ!」
ニーナはラミィの横暴を止めようと、牡鹿の前に立ちはだかった。
「何だと!?」
それに対し、ラミィはナイフを振り上げて、ニーナに刃を向けようとした。
それを目の当たりにした動物たちは、無意識に目を逸らしたり、怯えて暴れたりしている。しかしニーナは屈することなく、両手を広げて必死に牡鹿を護ろうとした。その目頭は熱く潤んでいる。
「…………チッ」
その様子に、ラミィの苛立ちは収まり、ナイフを腰の鞘に戻した。
「まぁ、今日の所は許してやるよ。どうせこれから、あたいと一緒にこの倉庫の中で暮らすんだからな」
「そんな! じゃ、御主人様との交渉は!?」
「んなもん、ウソっぱちに決まってるだろ! あたいはアンタみたいな娘が『気に入った』んだよ。これからはずーっと、アンタはあたいのモノだ!」
そう言いながら、ラミィはニーナの両足に足枷を付けた。
「……どうしよう。このままじゃ、御主人様のところへ行けない……!」
ラミィに拘束され、その場に蹲るニーナ。彼女が俺のことを案じるたびに、ラミィの機嫌は目に見えて損なわれていく。
「さっきから口を開けば、御主人様、御主人様って! 一体あの男の何なんだよ、小娘!」苛立つラミィを、ニーナは目に涙を溜めながら睨みつけた。
「私は小娘じゃない、ニーナって名前があるの! 御主人様は、私たち騎士団が忠誠を誓う主です!!」
ニーナの迫力にたじろぎながらも、ラミィは続けて彼女に問う。
「……ふん、そうかい。それで、ニーナもさっきのデカブツ騎士みたいに、主人のカードから召喚されるのかい?」
「はい。私は【スペード2】の騎士です」
「それで、アイツにいい風に『使われて』いるのか。馬鹿なことさ」
「……馬鹿なこと、ですって?」
ニーナは無神経なラミィの態度に気が障った。
俺がニーナを「道具」として扱うのを嫌うように、ニーナもまた、他人から道具扱いされることを何よりも嫌う。しかし、ここで暴力に訴えても解決にはならないと、彼女は握り締めた拳を緩めた。
「私の御主人様は、私のことを『道具』として扱ってなどいません。仲間として、私を『勝利の切り札』だと信頼してくれています。いくら貴方でも、御主人様を馬鹿にすることだけは許しません!」
「……そんなに、アイツの事を信じてるのか」
すると、今度はラミィの方から、殺意を消してニーナの元に寄り添った。
「じゃ、最初から話しな。ニーナにとって、御主人様はどんな奴なのかを。何もかも……!」
♤
――舞台は変わって、俺とジンの二人きりになった波止場。
波打つ海の青に、張り詰めた緊張を解しながら、俺は白薔薇のジンの面を向ける。
「わたしも悪いことをしましたね。交渉相手に脅しをかけても、良い答えは得られない。盗賊のやり口が癖になってしまいました」
ジンも俺に対して、警戒心を解こうとしてるのか。殺意の気配もなく歩み寄る。
「……本当は、盗賊なんてやるつもりはなかったんだろう?」
「今更、生き方を変えられませんよ。生きるために始めた盗人稼業でしたから」
「…………」
――俺は、人の心理をも天秤に掛ける賭博師だ。前世では、そんな相手の『嘘』『ハッタリ』を見破り続け、勝負をモノにしていった。
その勘は転生しても変わらない。白薔薇のジン、俺には奴の一寸の『嘘』が視える。
「妹のラミィが、あんな捻くれ者になったのを悔やんでもか?」
「……何ですって?」
「あんたは血を流すのを嫌う男だ。汚れのない純白のタキシードがそれを物語っている。
その上、人のモノを奪わないと生きていけない環境の中で、ラミィは独占欲に執着するようになった。ニーナを引き連れた時の彼女の顔、凄く羨ましそうにしてたぜ」
一瞬、ジンの顔が曇るところを俺は見逃さなかった。図星のようだ。だが彼は焦燥の気を掻き消して、平静を装う。
「……ふっ、何を根拠にそんなことがわかる。それでどうするんだ、わたしたちと手を組むか、断るか!?」
流石に、ただ煽るだけじゃアイツの真意は暴き出せないか。ならば……!
「ん、何をしている?」
「何って、アンタの狙ってるトランプカードを出してるんだ。ちょっと待ってな」
俺はデッキから53枚のカードを取り出し、慣れた手先で束をよく切った。
1枚足りないのは、ゴードンの時に【クローバー5】を使って消費させたからである。
「―――ちょっと、ゲームしないか?」
「な、何!?」
突然の展開にジンは驚く。そして読者の皆も驚いたことだろう。
俺は非戦闘の手段で、ジンの『嘘』を暴くためのトランプゲームを仕掛けた。
これは俺なりの……ギャンブラーとしての矜持を懸けた、交渉だ……!!
「アンタが俺の答えを求める前に……俺が、お前の『本音』を聞き出させてもらうぜ。
―――『セブンスペード』ってゲームを、知ってるか?」
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