第22話 白薔薇と黒薔薇の盗賊
――崩れ落ちた『コントラクトブリッジ』から、間一髪で用心棒のアンドロスを救い、全員がホイスト港の地にたどり着くことができた。
あの時、ゴードンの『神通力』が無かったら、俺はアンドロスもろとも転落していただろう。九死に一生を得たが、火事場の馬鹿力を使ったせいで体力は限界ギリギリだ。大の字で倒れ込む俺に、ニーナが提案した。
「御主人様、既にアンドロスさんの殺気は感じられません。ここは一旦、ゴードンさんをカードに戻しては如何ですか?」
「……そうだな。お陰で適材適所がよく分かったよ」
スペード5の装甲騎士・ゴードンは、戦闘に特化したタイプだ。
機動力は絶望的だが、城壁顔負けの防御と攻撃力、そして窮地を救う神通力。まさにスート騎士団の誇り高き『砦』だ。脅威が去った今、顕現させ続ける必要もない。
「ニーナの言う通りだ。場にそぐわぬ時に、我を無理に留め置く必要はない」
ゴードンは引き際をわきまえていた。
「すまないな、ゴードン。お前の力を発揮しにくい場所で呼び出しちまって。でも、凄いパワーだったぜ! 次も頼りにしてる」
「……構わぬ。我は戦いの中にこそ生きる砦。主が窮地の折、再び喚ぶがいい」
寡黙な表情の端を上げ、静かに笑みを浮かべるゴードン。必死にアンドロスを助けた俺を、護るべき主と認めてくれたのだろうか。
「ありがとな、ゴードン。ゆっくり休んでくれ!【ダウンカード】、スペード5!」
呪文を詠唱すると、ゴードンは緑の光柱に包まれ、一枚のカードへと戻っていった。
「さて、と……」
まだやることが残っている。
救い出した用心棒・アンドロスだ。彼は戦士としての矜持を傷つけられたのか、顔を伏せて項垂れていた。
「……召喚士。何故、某を助けた? 貴殿を狙っていた者など、放っておくのが得策であろうに……」
「二度も同じことを言わせるな。放っておいていい命なんてどこにもない。それに、お前には聞いておきたいことが山ほどあるんだ」
俺は無理やりアンドロスの顔を上げさせ、正面から問い詰めた。
「お前、この地域に居座っている『盗賊団』とつるんでるって話は本当か?」
「…………どこで、その話を?」
「親切な村人たちからだ。お前は旅人だけでなく、王国の兵士からも無差別に武器を奪っている。何かの後ろ盾があるはずだ。お前にそれを命じた黒幕が、この先にいるんじゃないのか?」
「………………」
アンドロスは沈黙した。主に口止めされているのか、一向に口を割る気配がない。
「そうかい。じゃあ、直接確かめてみるまでだ!」
「あぁ、待たれよ!」
制止を振り切り、ホイスト港の正門へ向かおうとしたその時――。
「―――その必要は、ない」
鋭い声と共に、一輪の白い薔薇と黒い薔薇が交互に地面へ突き刺さった。
見上げれば、門の上に二つの影。背後からの陽光が、長い影を橋の先まで伸ばしている。
影は天を舞い、アクロバティックな三回転を経て俺たちの眼前に降り立った。
黒と白のゴシックカラーで彩られた、男女二人の盗賊だ。
「親玉様のお出ましってわけか」
「貴方たち、何者ですか!?」
ニーナがレイピアを引き抜き、警戒を強める。しかし、二人は不敵な笑みを浮かべて名乗りを上げた。
「わたしは、【白薔薇のジン】!」
「あたいは、【黒薔薇のラミィ】!」
「「我ら、愛に生き、愛の為に使命を果たす盗賊団【ダウトの使者】なり!!」」
……随分と気障な連中だ。
男のジンは、盗賊というより怪盗を思わせる白タキシード姿の優男。
対するラミィは、銀髪をフードから覗かせ、黒ビキニに短パンという露出の激しい格好をしたギャル風の女だ。
だが、見た目に惑わされるほど俺は素人じゃない。彼らの眼差しには、獲物を狙う冷徹な殺気が宿っている。
この俺から『何を搾り取ってやろうか』と、舌なめずりするような欲望の眼だ。
「……それで? 用心棒をコテンパンにされた仕返しに来たのか?」
「はぁ? あたいは、あんな武器マニアに興味なんてねーし!」
「落ち着け、ラミィ。我らが雇った用心棒とはいえ、見ず知らずの者に命を救われたのだ。相応の礼をしに参じたまで」
盗賊なりに筋は通すということか。
「本来なら外来者は一人たりとも通さぬつもりだったが、アンドロスを救った礼だ。お前たち三人を港へ通してやろう」
理に適った提案だが、引っかかる。それをポーキーが先に指摘した。
「ちょっと待ってくんろ! いつからこの港が、お前ら盗賊のものになったんだべ?」
「そうですよ! 港の人たちの了解は得たんですか!?」
ニーナの抗議に、ラミィが嘲笑を浴びせる。
「ばっかじゃないの!? 盗賊のあたいたちに『はい、そうですか』って港を明け渡すわけないだろ!」
「そ、それじゃ……まさか!?」
「『ダウトの使者』が、このホイスト港を占領した。命が惜しくなければ好きに通るがいい。―――その、不思議なカードを携えてな……!!」
ジンとラミィの狙いは、最初から俺のトランプカードだった。
逃げようにも背後は崩落した橋だ。
「…………お前らからの礼なら、喜んで受けてやるよ。白薔薇と黒薔薇の盗賊さんよ!」
俺は無意識に懐のカードを握りしめる。
二人の盗賊に誘われるように、俺たちはホイスト港の奥へと足を踏み入れた。
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