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ギャンブラーと13人のスート騎士団〜転生召喚士はトランプカードで異世界に【革命】を起こします〜  作者: Kazu―慶―
第1章:大富豪編

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第17話 ふくよか兵士の希望

 ――異世界の夜が更ける。


 激闘を繰り広げた高原地帯を後にし、俺たちは一旦、討伐依頼を受けた村へと帰還した。


 村の入り口では、遠くから俺たちの戦いを見守っていた住民たちが、手厚い歓迎で迎えてくれた。




 村長を筆頭に、村人たちは精一杯の感謝を込めて、収穫したばかりの野菜を差し出してくれた。だが、泥のついた生野菜をそのまま受け取っても、旅の道中では保管も難しく、すぐに腹を満たすには心許ない。




「ちょっと待ってけろ、ジョー。オイラならその野菜で、めっちゃ美味い料理が作れるべ!」


「本当か!?」


 ポーキーは、軍隊で『小荷物隊バゲージ・トレイン』と呼ばれる後方支援職に就いていた。戦闘は不向きだが、兵士たちの胃袋を支える調理に関しては、紛れもないプロだった。




「村で大根がたくさん採れたなら、コンソメでじっくり煮込んだスープが一番だべ。それとオイラのリュックに残ってたベーコンが……あ、あっただ! あと人参があったら持ってきてくんろ!」




 俺がギャンブルのプロなら、ポーキーは料理のプロだ。


 村からの僅かな提供物である大根と、彼が非常用に忍ばせていた肉や調味料。それらを鮮やかな手つきで鍋に放り込み、またたく間に食欲をそそる香りを漂わせる。


 これには俺もニーナも、村の人々までもが、吸い寄せられるように目を輝かせた。




「……なぁ、ニーナ。スートの騎士団には、ポーキーみたいな料理番の騎士はいないのか?」


「それが、いないんですよ。13人全員が戦闘の専門家で、食事は二の次と考えていましたから。でも……」


 ニーナは我慢できず、差し出されたスープを一口頬張る。すると、戦いの疲れで強張っていた顔が、みるみるうちに綻んでいった。




「とっても……美味しい、ですっ♡」


「マジか! どれどれ……」




 満面の笑みを浮かべたニーナに誘われて、俺もスープを口に含んだ。その途端、久方ぶりに味わう「安らぎ」が全身を駆け巡った。




「うんめぇ……。身体の隅々まで、命が染み渡っていくようだ……!」


 ポーキーと初めて出会った、あの薄暗い城下町の酒場で出された料理とは雲泥の差だ。




 温かなスープに溶け出した野菜の甘みと、肉の重厚な旨味。鼻を抜けるコンソメの香りに、ピリリと効いた胡椒、そして仕上げのオリーブオイルが全体を鮮やかにまとめ上げている。


 これらが見事な調和ハーモニーを生み出し、枯れかけていた俺たちの生気を力強く呼び起こしていく。


『五臓六腑に染み渡る』とは、まさにこのことだった。




「さぁ、村の皆もいっぱい食べてくんろ! 遠慮は要らねぇべ。おかずはさっき仕留めた鴨で作った、南蛮漬けだべや!!」




 ポーキー・テイルスの大盤振る舞い。俺たちのみならず、村の人々にも盛大に奉仕する慈悲深いふくよかな兵士。


 戦争が蔓延る異世界の片隅に、ひと時の平和が確かにそこにあった。




 ♡




 スープをご馳走になり、村のご厚意で寝床として小屋を貸してもらった。


 ニーナは戦い疲れたのか、横になるなり爆睡してしまった。当の俺はというと、身体は疲弊しているはずなのに、妙に目が冴えて寝付けなかった。




 ポーキーのことが、気になり始めていた。


 何であんなにも人思いで、損得を考えず他人のために尽くせるアイツが、なぜ兵士なんてやっていたのか。


 俺は、隣で横になろうとしていたポーキーに声をかけた。




「……なぁ、ポーキー」


「何だべや、ジョー?」




 この問いは、ポーキーの過去を否定することになるかもしれない。しかし、こんなにも良い奴だからこそ、確かめておきたいことがあった。俺は思い切って切り出した。




「ほんと、戦争ってくだらねぇよな。お偉いさんは美味い飯にもソッポ向いて金のことばかり。お前みたいな良い奴も、関係ねぇ住民も、兵士に駆り出されて国の為に死んでいく。……お前、何で兵士になろうとしたんだ?」




 ポーキーは案の定、答えに躊躇った。暫くして、その重い口が開いた。




「……生きるためには、仕方のねぇことだったんだ」


「…………生きる為、か」




「こんなデブのオイラを無理やり徴兵して、断ろうものなら『反逆罪で打ち首だ』って脅されて……。料理の腕だって、兵士長に『お前は戦力にならねぇから飯炊きでもしてろ』って放り出されて、必死に磨くしかなかった悲しい技術だべ。戦場のキャンプで、せめて仲間の兵士たちには美味い飯を食って、一瞬でも嫌な戦争を忘れてほしいって……そう思って作ってたのに。なのに、何でオイラだけが生き残っちまったんだろうなぁ……!」




 ……聞くべきじゃなかったかもしれない。しかし、王国の闇を映し出す過去の先には、彼の切実な希望が灯っていた。




「だけんども、そんな自棄になってた時にジョーが現れて、オイラの気持ちは変わったんだ。だってそうだべ? 【革命】を起こす召喚士なんて、まるでお伽話みてぇじゃねぇか」


「…………?」




「こんな絶望ばっかの世界に、カードで騎士を呼び起こすとか、魔法を出すとか、夢物語だと思ってたもんが、現実に居たと分かったんだべ! これは奇跡だなや。本当にお前なら、世界をひっくり返せるんじゃないかと思うんだ!」




 ポーキーは俺に、そこまでの期待を寄せているのか。


 俺はそんな大それた召喚士じゃない。今日だって一歩采配を間違えれば、全滅もあり得た。そんな俺を、今も信じてくれるのか。




「何だべ、まだ自分を信じられねぇのか?」


「!?」


「今日はニーナちゃんたちを信じてたから勝てたんだろうに。何で自分の事も信じねぇんだ?」




「……じゃあ、お前はどうなんだ?」




「言うまでもないべ。―――オイラは、ジョー・カーティスの事を、一生信じる。お前はオイラの『希望』だ。お前なら絶対に【革命】を起こせるだ!」




「ッ…………!!」




 …………馬鹿野郎。今日だけで何回俺を泣かせる気だ。


 異世界に転生して、初めて出会った仲間がお前で良かったと、心の底から思い知らされた。




 カードで運命が決まっても、人の縁だけはどう転がるか分からない。俺とポーキーが出会えたことこそが、この世界での最大の幸運だ。




 高く積み上げられたカジノチップの山なんかよりも、数億倍も価値がある。俺は今、最高に幸せだ……!!

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