第17話 ふくよか兵士の希望
――異世界の夜が更ける。
激闘を繰り広げた高原地帯を後にし、俺たちは一旦、討伐依頼を受けた村へと帰還した。
村の入り口では、遠くから俺たちの戦いを見守っていた住民たちが、手厚い歓迎で迎えてくれた。
村長を筆頭に、村人たちは精一杯の感謝を込めて、収穫したばかりの野菜を差し出してくれた。だが、泥のついた生野菜をそのまま受け取っても、旅の道中では保管も難しく、すぐに腹を満たすには心許ない。
「ちょっと待ってけろ、ジョー。オイラならその野菜で、めっちゃ美味い料理が作れるべ!」
「本当か!?」
ポーキーは、軍隊で『小荷物隊』と呼ばれる後方支援職に就いていた。戦闘は不向きだが、兵士たちの胃袋を支える調理に関しては、紛れもないプロだった。
「村で大根がたくさん採れたなら、コンソメでじっくり煮込んだスープが一番だべ。それとオイラのリュックに残ってたベーコンが……あ、あっただ! あと人参があったら持ってきてくんろ!」
俺がギャンブルのプロなら、ポーキーは料理のプロだ。
村からの僅かな提供物である大根と、彼が非常用に忍ばせていた肉や調味料。それらを鮮やかな手つきで鍋に放り込み、またたく間に食欲をそそる香りを漂わせる。
これには俺もニーナも、村の人々までもが、吸い寄せられるように目を輝かせた。
「……なぁ、ニーナ。スートの騎士団には、ポーキーみたいな料理番の騎士はいないのか?」
「それが、いないんですよ。13人全員が戦闘の専門家で、食事は二の次と考えていましたから。でも……」
ニーナは我慢できず、差し出されたスープを一口頬張る。すると、戦いの疲れで強張っていた顔が、みるみるうちに綻んでいった。
「とっても……美味しい、ですっ♡」
「マジか! どれどれ……」
満面の笑みを浮かべたニーナに誘われて、俺もスープを口に含んだ。その途端、久方ぶりに味わう「安らぎ」が全身を駆け巡った。
「うんめぇ……。身体の隅々まで、命が染み渡っていくようだ……!」
ポーキーと初めて出会った、あの薄暗い城下町の酒場で出された料理とは雲泥の差だ。
温かなスープに溶け出した野菜の甘みと、肉の重厚な旨味。鼻を抜けるコンソメの香りに、ピリリと効いた胡椒、そして仕上げのオリーブオイルが全体を鮮やかにまとめ上げている。
これらが見事な調和を生み出し、枯れかけていた俺たちの生気を力強く呼び起こしていく。
『五臓六腑に染み渡る』とは、まさにこのことだった。
「さぁ、村の皆もいっぱい食べてくんろ! 遠慮は要らねぇべ。おかずはさっき仕留めた鴨で作った、南蛮漬けだべや!!」
ポーキー・テイルスの大盤振る舞い。俺たちのみならず、村の人々にも盛大に奉仕する慈悲深いふくよかな兵士。
戦争が蔓延る異世界の片隅に、ひと時の平和が確かにそこにあった。
♡
スープをご馳走になり、村のご厚意で寝床として小屋を貸してもらった。
ニーナは戦い疲れたのか、横になるなり爆睡してしまった。当の俺はというと、身体は疲弊しているはずなのに、妙に目が冴えて寝付けなかった。
ポーキーのことが、気になり始めていた。
何であんなにも人思いで、損得を考えず他人のために尽くせるアイツが、なぜ兵士なんてやっていたのか。
俺は、隣で横になろうとしていたポーキーに声をかけた。
「……なぁ、ポーキー」
「何だべや、ジョー?」
この問いは、ポーキーの過去を否定することになるかもしれない。しかし、こんなにも良い奴だからこそ、確かめておきたいことがあった。俺は思い切って切り出した。
「ほんと、戦争ってくだらねぇよな。お偉いさんは美味い飯にもソッポ向いて金のことばかり。お前みたいな良い奴も、関係ねぇ住民も、兵士に駆り出されて国の為に死んでいく。……お前、何で兵士になろうとしたんだ?」
ポーキーは案の定、答えに躊躇った。暫くして、その重い口が開いた。
「……生きるためには、仕方のねぇことだったんだ」
「…………生きる為、か」
「こんなデブのオイラを無理やり徴兵して、断ろうものなら『反逆罪で打ち首だ』って脅されて……。料理の腕だって、兵士長に『お前は戦力にならねぇから飯炊きでもしてろ』って放り出されて、必死に磨くしかなかった悲しい技術だべ。戦場のキャンプで、せめて仲間の兵士たちには美味い飯を食って、一瞬でも嫌な戦争を忘れてほしいって……そう思って作ってたのに。なのに、何でオイラだけが生き残っちまったんだろうなぁ……!」
……聞くべきじゃなかったかもしれない。しかし、王国の闇を映し出す過去の先には、彼の切実な希望が灯っていた。
「だけんども、そんな自棄になってた時にジョーが現れて、オイラの気持ちは変わったんだ。だってそうだべ? 【革命】を起こす召喚士なんて、まるでお伽話みてぇじゃねぇか」
「…………?」
「こんな絶望ばっかの世界に、カードで騎士を呼び起こすとか、魔法を出すとか、夢物語だと思ってたもんが、現実に居たと分かったんだべ! これは奇跡だなや。本当にお前なら、世界をひっくり返せるんじゃないかと思うんだ!」
ポーキーは俺に、そこまでの期待を寄せているのか。
俺はそんな大それた召喚士じゃない。今日だって一歩采配を間違えれば、全滅もあり得た。そんな俺を、今も信じてくれるのか。
「何だべ、まだ自分を信じられねぇのか?」
「!?」
「今日はニーナちゃんたちを信じてたから勝てたんだろうに。何で自分の事も信じねぇんだ?」
「……じゃあ、お前はどうなんだ?」
「言うまでもないべ。―――オイラは、ジョー・カーティスの事を、一生信じる。お前はオイラの『希望』だ。お前なら絶対に【革命】を起こせるだ!」
「ッ…………!!」
…………馬鹿野郎。今日だけで何回俺を泣かせる気だ。
異世界に転生して、初めて出会った仲間がお前で良かったと、心の底から思い知らされた。
カードで運命が決まっても、人の縁だけはどう転がるか分からない。俺とポーキーが出会えたことこそが、この世界での最大の幸運だ。
高く積み上げられたカジノチップの山なんかよりも、数億倍も価値がある。俺は今、最高に幸せだ……!!
小説を読んで『面白かったぁ!』と思った皆様、是非とも『★★★★★』の評価、「ブックマーク追加」や感想・レビュー等を付けて、応援してください!




