第16話 いつでも、私は貴方の側に。
――サイクロプスとの激闘の末、ようやく勝利を掴み取った俺たちと、三人のスート騎士。
前世では縁のなかった極限状態の疲労に、俺は身体を起こせるようになるまで夕刻までかかった。
ようやく自力でカードを確認できるほどに気力が戻った俺は、とどめの【シークエンス】に使ったスペードカードを眺め、思いに耽る。
(スペードカードは、召喚にも技の強化にも使える『要』だ。だが、無闇には使えない。召喚で体力を激しく消耗したし、さっきの【シークエンス】はその三倍は削られた。カード自体は消えないとはいえ、今後は使い所を考えないとな)
スペードカードは『切り札』であり、『命』そのものだ。もし俺が焦燥に駆られてカードを粗末に扱えば、ニーナたちの命は無い。
ニーナたちの命は、俺の命だ。召喚士の誇りにかけて、俺が彼女たちと、未だ素性の知らぬ残り十人の騎士と共に戦い抜いてみせる。
―――たとえ、どんなに癖の強い奴らであろうとも。
「ねぇねぇ、サンダー、シルヴィー! さっき私のこと褒めてたでしょ? もっと聞かせてよ!」
「はぁ? 調子乗ってんじゃねーぞ、ニーナ!」
「あんな一ツ目の化け物なんて、大したことありませんわ! 私だけでも充分倒せましたのに!」
「何よー! ペガサスを落とされてぴーぴー泣いてたのは、シルヴィーじゃない!」
「アクエリアは悪くありませんっ! サンダーが早いうちに魔物を片付けないからですわ!」
「俺様は関係ねーだろ!? 文句ならニーナに言えよ!」
「私のどこに文句があるのよ!?」
「「そもそも、ニーナが弱いから!!」」
「もーーーっっ!! 私、弱くなんかないんだもんっ!!」
……さっきまでの『三位一体』の絆はどこへやら。
戦いが終わった途端、俺の体力が回復するまでの退屈しのぎに口喧嘩か。
『喧嘩するほど仲が良い』と言えば聞こえはいいが、耳元で騒がれては堪忍袋の緒も切れそうだ。……いや、もう限界だ。疲労とストレスで爆発しそうだ。
「黙れ、お前らーーーーーッッ!!!!」
俺の怒鳴り声に、三人は反射的に居住まいを正し、俺に向かって跪いた。
「……ったく、少しは俺を敬え。満身創痍の主人の前でギャーギャー騒ぎやがって。俺を何だと思ってるんだ?」
「口うるさい旦那」
「クソ生意気な殿方」
いっぺんどついたろか、サンダー、シルヴィー。
「ご、ごめんなさい、御主人様。私が変な話題を出したから、二人が……」
二人と対照的に、オロオロしながらニーナが深く頭を下げていた。
だが、こんな俺のために、三人は命を懸けて戦ってくれたんだよな。
…………なら、頭を下げるべきは俺の方だ。
ニーナよりも深く、土下座せんばかりの勢いで彼女たちに謝罪した。
「ニーナ、サンダー、シルヴィー。俺が不甲斐ないばかりに、お前たちをぞんざいに扱って、危ない目に遭わせてしまった。本当に申し訳ない……悪かった…………っ!!」
カードから召喚される騎士にも『命』はある。それを軽率に扱った自分への罪悪感から、涙がこぼれ落ちた。激戦で掘り返された土の上に、雫が滴る。
「御主人様……!」
ニーナはその涙にもらい泣きし、ポーキーは深く頷きながら温かく見守っていた。
「……まぁ、その、なんだ。確かにアンタは口うるさいけど、アンタの心の熱さは、俺様には充分伝わってるぜ」
「生意気な殿方の涙なんて、見たくありませんわ。……凡人は凡人らしく精進なさい。そうすれば、また私が助けてあげますから」
一方は無鉄砲、一方は高飛車。だが、その芯には確かな温かさがある。俺はそれを、もう理解していた。
「――じゃ、俺様たちはそろそろ帰るわ!」
「……は、帰る? どこへ?」
サンダーが突然言い出したことに、俺は目を白黒させた。
「何を仰ってますの。貴方の出したカードに決まってますわ!」
……あぁ、そうか。カードから召喚したのだから、カードの中が彼らの拠点なのだ。
出すのは簡単だったが、戻し方はよく分かっていない。悩む俺にニーナが助け舟を出した。
「御主人様、そういう時は【ダウンカード】と唱えるんです。その後に、スペード3、スペード4と宣言すれば、サンダーとシルヴィーを戻すことができます」
「なるほど。じゃあ……」
俺はトランプのデッキを二人の元に掲げ、詠唱する。
「二人とも、またよろしくな! 【ダウンカード】! 『スペード3』、『スペード4』!」
詠唱と共に、二人の周囲を光の柱が照らし出す。姿が消える間際、サンダーはサムズアップを送り、シルヴィーはスカートの裾を摘んで優雅にお辞儀をした。
その光はカードの裏面へと吸い込まれ、二人はカードの中へと帰っていった。
「さて、あとはニーナも……?」
騎士を戻せるなら、ニーナも一度休ませようと思った俺。だが、当の彼女は地面に蹲り、丸まっていた。
「何してんだ?」
「……見て、分からないんですか?」
「体育座り」
「そうじゃなくて! 私はカードの中に戻りたくないんです!!」
ニーナは、召喚されてから一日以上を俺と共に過ごしたせいか、特別な思いを抱いているようだった。
「なんでまた……。まさか、俺の体力消費を気にしてるのか?」
「馬鹿味噌垂れ! 分かんないのか? ニーナちゃんの口から直接聞いてみんしゃい!」
ポーキーが焦れったそうに口を挟んできた。余計に混乱した俺は、改めてニーナに問いかける。
「…………御主人様と一緒に。いつも、いつでも、側にいたいから…………!!」
「―――!」
ニーナの瞳には、また大きな雫が溜まっていた。
ニーナはどこまでも一途なのだ。真剣で、真っ直ぐで、どれだけ貶されても折れない強い心を持っている。
彼女は、俺と共に旅をし、共に戦い、守り抜くことを決めているのだ。
だったら俺も、ニーナと共に運命を共にする覚悟を決めよう。
『スペード2、ハート2! 【PAIR COMBO】発動!!』
「!?」
二枚のカードでペアコンボを発動させる。回復魔法である『ハート2』を『スペード2』で強化し、完全回復魔法『マックス・ヒーリング・チャージ』をニーナへと放った。
「御主人様、一体……!?」
サイクロプスとの戦いで傷ついたニーナの鎧と身体が、癒しの波動に包まれ、瞬く間に再生していく。
「全く世話の焼ける騎士だよ、お前は。俺と一緒にいたいなら、元気でいてくれなきゃ困る。――一緒に、頑張ろう!!」
「…………うわぁ〜〜〜いっっ!!」
粋な計らいに、ニーナは嬉し涙を流しながら俺に抱きついてきた。……気付かなかったが、鎧の下に隠れた果実は、存外に豊かに実っているようだ。
泣き虫だが天真爛漫、そして不屈の闘志を持つスペード2の騎士・ニーナ。
俺は彼女と共に、そしてカードに眠るスートの騎士たちと共に、この世界を突き進む。
【革命】を起こす旅はまだまだ終わらない――!
「……腹減ったなぁ」
「待ってました! さっき仕込んだ鴨の南蛮漬けがあるべや、一緒に食うだか?」
「さっすが、ポーキー!!」
勿論、旅はポーキーも一緒に、な!




