第14話 起死回生のペアコンボ
『――全く。見習いとはいえ、とんだ無茶をやらかしたもんだ』
『わらわの可愛い同胞たちを粗末に扱うからですわ。貴方一人の力でどうにかなるものでもありませんのに』
『御主には協調性が足りないのだ。カードの利点ばかり気に掛けよって。何故我が騎士団の力を信じてやらんのじゃ』
―――俺の視界は、ブラックアウトした漆黒の空間。しかし死んだ感覚とはまた違う。
恐らく、咄嗟に3枚のトランプカードを発動した時に起きた脳を刺すような激痛と、蓄積された疲労によって意識を失ったのだろう。
それを証拠にさっきから、出来の悪い弟に説教する兄・母・父のような声が、耳元からしつこく響いている。前世の親父にだって、こんなにガミガミ言われたことはないぞ。
『『『誰が家族ぐるみの説教だ?』』』
って、俺の心の声が聞こえてるのか。じゃあ、お前らは一体……誰だ?
『俺たちは、お前がカードで【J】【Q】【K】と呼んでいる者たちだ』
ジャック、クイーン、キング……。あの時、意識を失う直前に無我夢中で繰り出した3枚のカードか!
俺はこの時、ニーナやサンダー、シルヴィーよりも格上のランクに位置する「スート騎士」の存在を知った。だが、その姿もシルエットも見えない。ただ俺の心に直接語りかけてくる。
『愚か者! まだ半端な貴方がわらわの姿を拝もうなど、無礼にも程があるわ』
『それに御主はまだ、我が騎士団の力を一寸も発揮できておらぬ。我が名を語るにはまだ尚早であろう』
高圧的な女性と、高貴な雰囲気を漂わせる男性。あんたたちがクイーンとキングってことか。
『オイオイ。俺たちの王と女王に対して随分と態度がデカいな、アンタ』
じゃあ、お前がジャックか。……てか、元は俺が所有していたトランプだ。どう話そうが俺の勝手だろ。
『その所有者が、修羅場に焦って【リボーク】を起こすかえ?』
……何だと、クイーン?
『トランプの力は有限だ。御主がカードを使うたびに気力体力は著しく削られ、消費したカードは光の粒子となって消滅する。それは一日経たねば復活せぬ』
キングの助言を聞いて、合点がいった。
この一日の間にサンダーとシルヴィーを召喚し、他の魔法カードも乱用したせいで、俺の体力は底を突いていたのだ。RPGで言うなら、MPが枯渇した状態。
そこへ、レベルの足りない俺がハイランクのカードを無理やり引き出したことで【リボーク】――つまりペナルティが発生し、意識が飛んだというわけか。
『現状把握だけは達者だな。だが、今すぐ復帰したところで状況は変わらねえぜ?』
どういう意味だ、ジャック。
『はっきり言ってやる。俺たちはお前の【道具】じゃねえ! お前と運命を共にする【同志】だってことを忘れるな!!』
…………俺の心に宿っていた「蟠り」。
金を儲けるために使っていたトランプのカード。そこから騎士が召喚された時、ニーナやサンダーたちが現れた時、俺は心のどこかで「これは使える」と打算的に考えていた。
転生した世界をゲームのように捉え、効率だけで物事を見ていたんだ。
……そんな主に、騎士たちが忠誠を誓うはずがない。
『否だ。我らスートの騎士団は、「心」を持たぬ主に力は貸さぬ。だが、これから騎士たちをどう活かすかは貴方の熟練次第だ。無論、今からでも遅くはない』
『真剣勝負もポーカーも、闘いは最後まで分からぬもの。相手が【ブタ(無役)】の場に、【ワンペア】を出すだけでも勝ちになる。……フフフ。勝負とは、面白いものよのぅ……!』
クイーンとキングが意味深な言葉を残すと、暗闇に光が差し込み、意識と感覚が急速に引き戻されていく……!
♢
「…………ョー、……ジョー! 目を覚ましてくんろ!!」
ポーキーの叫び声が、俺を再び異世界の戦場へと呼び戻した。
「ポ、ポーキー……俺は一体……ッ」
まだ頭が割れるように痛む。カードの反動で、身体が鉛のように重い。
「今頃気づく奴があるか、ボケナスの味噌煮込み! ジョーが倒れてる間に、何が起きたか分かっとるんか!?」
ポーキーが指差す先――そこは地獄だった。
雄大な高原地帯は、出現したサイクロプスの暴挙によって地形が変わるほどに破壊し尽くされていた。
サンダーは落馬の衝撃で負傷し、愛馬ボルトも横倒しになったまま動けない。
シルヴィーは上空から応戦していたが、投げつけられた巨大な棍棒を浴びてペガサスごと墜落。二人とも戦闘不能に陥っていた。
――ただ一人。赤い鎧ドレスを翻し、レイピアを振るう少女を除いて。
「やああああああああああッッ!!!」
「ニーナ!!」
小柄なニーナが、数倍の巨躯を誇るサイクロプスを相手に、必死に食らいついていた。
細身のレイピアでは、巨体にとって棘が刺さる程度のダメージにしかならないだろう。それでも、ニーナは一矢報いようと俊敏な身のこなしで猛攻をかいくぐり、孤軍奮闘していた。
「……あっ! 御主人様、気がついたんですね!」「馬鹿、余所見するな! 前を見ろ!」
「えっ? きゃあっ!!」
間一髪、サイクロプスの棍棒を避けたニーナ。その瞳に絶望の色はない。あるのは「絶対に倒す」という、烈火のような情熱だけだ。
「どうしたんだよ、ニーナ……? 何でそこまでして戦えるんだ……!?」
サンダーやシルヴィーに比べて力量の劣る彼女が、これほどまでに戦い続けられる理由。その答えは、あまりにもシンプルな【決断】だった。
「――御主人様が決めてくれたから! この世界に【革命】を起こすって決めたから! 私はその決断を、絶対に無駄にしたくないんですっ!!」
「……!!」
「何よ、サンダーもシルヴィーも! あんなに技を自慢してた癖に、強い相手にやられたらそれで終わり!? よくもまぁデカい口を叩けたものだわ!!」
ニーナの叫びは、倒れ伏す仲間たちへの激となって響き渡る。次第にその声は、熱い衝動に震え始めた。
「私は、みんなより弱いかもしれない……。御主人様の思うような騎士じゃないかもしれない……!
……でもっ、諦めたくない!!
私が【勝利の切り札】になるんだ! 私が御主人様の未来を繋ぐ騎士になるんだ!! だって……だっでぇ…………!!!」
絞り出した声は、溢れ出した涙と共に頬を濡らす。そして、彼女は魂の底から叫んだ。
「―――【勝利の切り札】はッッ…………諦めない人にしか来ないんだからぁッッッ!!!!!」
ニーナの魂を削るような叫びに、俺の心は激しく震えた。
そして、俺の中に絶対的な「確信」が生まれた。
トランプの中に宿る騎士は、単なる手札や道具なんかじゃない。俺を勝利へ導くために命を懸ける、かけがえのない【仲間】だ。
アイツらは、俺にとって都合よく【使える】騎士じゃない。
この俺が、命を懸けて【仕える】べき騎士なんだ。
ニーナの涙が、俺の冷え切っていた胸の内に烈火を灯す。
今、改めて痛感する。俺はなんて愚かな賭博師だったんだ。手札の損得ばかりを計算し、そのカードに宿る「心」を一度でも見ようとしたか?
こんなにも必死に俺を信じて戦ってくれる騎士が、目の前にいるというのに。
「……応えなきゃ、男じゃねえな」
泥を噛み、膝をつきながらも、俺は震える手でデッキに触れる。
指先から伝わるカードの鼓動。ジャック、クイーン、キング――スートの騎士たちが、俺の覚悟を試すように熱を帯びる。
魂が燃え滾る。俺自身も、彼女の想いに、その決断に、全力で応えたい―――!!
ニーナが、レイピアに全霊を込めて渾身の一振りを放とうとした、その刹那。俺は全身を駆け巡るアドレナリンと共に、2枚のカードを鮮やかに引き抜き、天に掲げた。
「―――スペード2、ダイヤ2! 【PAIR COMBO】発動!!」
その瞬間、ニーナのレイピアが眩い光を放ち、紅蓮の劫火を纏った。
サイクロプスの頭上をも飲み込むほどの巨大な火柱が立ち昇り、戦場を真っ赤に染め上げる。
「―――『烈火傑断・炎豪斬り』ッッ!!!」
焔の刃が描くは、騎士の不退転の決意。
逃げ場のない熱波がサイクロプスの巨体を焼き切りながら、その分厚い胸を真っ二つに引き裂いた―――!!
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