第12話 賭博師の宿命
――ニーナ、サンダー、シルヴィー。3人のスートの騎士を召喚した俺は、村を脅かす高原地帯に設置された魔物の巣窟を叩くべく、作戦会議を始めた。
ポーキーがシルヴィーの仕留めた鴨を下ごしらえする傍らで、俺は高原を遠目で見上げながら、綿密な作戦を練った。
「巣窟から東側。急勾配の坂の中で、そこだけ緩やかな坂になってる。攻めていくならそこしかない。遠回りして奇襲しよう」
拠点から300メートル東に、緩やかな斜面になっている箇所を見つけた。目的地からは若干逸れるが、急がば回れだ。
ここから巣窟へ奇襲を仕掛けたいが、開けた場所ゆえに敵に見つかるリスクも高い。そこで役に立つのが彼女だ。
「シルヴィー、お前はペガサスで天高く舞い、敵の注意を引くんだ。余裕があるなら、ドクロ岩の両端に立つ見張りのゴブリンを射抜いてもいい。俺たちの奇襲を悟られないようにな」
「それって、わたくしに囮になれと仰るのですか? アクエリアも先日毛繕いしたばかりですのに、傷が付いてしまいますわ!」
『アクエリア』とは、シルヴィーの愛天馬の名称である。『犬は飼い主に似る』と言われるように、天馬もまたシルヴィーを彷彿とさせるじゃじゃ馬だ。首を大きく横に振って嫌がっている様子も主人に激似だった。
「さっきの剛弓なら、相手が弓や鉄砲を持っていようが射程外から狙える。離れて射る分には傷も付かないはずだ」
「…………貴方が、そう仰るなら」
シルヴィーは何か言いたげな素振りを見せたが、俺の説得に折れたのか、渋々と聞き入れた。
後は彼女が気を引いている間に、どうやって緩やかな勾配の道から奇襲を仕掛けるか。
「やっぱり機動力だな。シルヴィーが注意を引きつけている隙に、サンダーと俺でボルトに乗り、不意打ちを仕掛ける。これが得策だ」
「オイオイ、愛しのボルトちゃんに野郎の二人乗りか!? 第一、御主人が前線に立って何をするつもりなんだい?」
サンダーもシルヴィーと同じく不満げな反応だ。雌と思われる軍馬・ボルトも、俺に対して『どこの馬の骨とも分からん輩に……』と言わんばかりに鼻を鳴らした。馬にまで文句を言われる筋合いはない。
「俺はお前らへの指示と、巣窟の偵察だ。状況を把握していなければ、適切な指示もカードも出せないからな。あとは――」
「ちょっと待った、ジョー。ニーナちゃんはどうするつもりだ?」
俺の采配に制止を掛けたのはポーキーだった。
「あ、あの……御主人様。私はどうしたら……?」
ニーナは心配そうに、俺の指示を待っていた。
……だが、俺は彼女を前線に立たせるつもりは無かった。ゴブリンはともかく、オークに対しても歯が立たなかった彼女を、敵の本拠地に放り込むのは余りにも無謀。まだサンダーやシルヴィーの方が戦力として信頼に値する。
俺たちが向かうのは戦場だ。彼女の見せ場を作るために戦っているんじゃない。俺は冷徹を装い、ニーナに指示した。
「ニーナは、ポーキーと一緒に後方支援だ。はぐれた雑魚くらいなら、片付けられるだろう」
「…………はい」
ニーナは俯きながら俺の指示に従い、戦闘準備に入った。
「サンダーもシルヴィーも、早く配置に付け。10分後には攻撃に入るからな」
彼らも有無を言わさず、最低限の敬礼を交わして準備に入った。
俺も直ちに、トランプカードの整備や、村人たちから貰った応急処置用のポーションなどを携える。そんな時、ポーキーが再び俺に話しかけてきた。
「ホントに、そんな指示で上手くいくんだか?」
「…………何が言いたい」
「ニーナちゃん、さっき目が潤んでたべ。オークとの戦いで不甲斐なさを感じてる彼女を、除け者にするつもりか?」
「……仕方ないだろ。無理に戦わせて、また辛い思いをさせるわけにはいかない」
「ほんで、代わりにサンダーくんとシルヴィーちゃんに無理をさせるだべか?」
ポーキーの追及に、俺の苛立ちは募る。
すると、彼はふくよかで温厚な印象から一転、厳格な顔つきで俺を問い詰めた。
「じゃあ、言わせてもらうべ。今のアンタじゃ三人の騎士を従えても、三人を犬死に……いや、『死に札』にさせるだけだ。ニーナちゃん達を、そこらのカードと同じように扱ってるようではな……」
「じゃあ何か。俺が、アイツらを下僕扱いにしてるとでも言いたいのか?」
勝利を掴むために、配られたカードを運と戦略で使い込み、勝利をこじ開ける。俺はその宿命を背負って長年賭博に命を張ってきた。転生した今でも、その流儀を捨てるつもりはない。
ニーナを『最高の切り札』にすると宣言した事に嘘偽りは無い。だが、今じゃない。不利な状況下で勝利を掴むには、今は効率的なやり方を選ぶしかない。
「……俺は、このカードを信じて―――」
「信じるのはカードじゃない。今アンタが召喚したニーナ達、スートの騎士たちだ。それが分からん時点で、『プレジデント王国』の王と何ら変わらんべ!」
「…………!!」
ポーキーの痛烈な指摘が、俺の心の髄まで突き刺さる。今まで俺が掲げてきた信念や矜持を否定されたような感覚に陥る。
だが今更、その考えを変えるわけにもいかない。
「……だったら、その考えが間違っているかどうか、あの巣窟で確かめれば分かるだろ……!」
俺に迷っている暇なんかない。巣窟を殲滅し、この国に【革命】を起こすのは俺だと、証明してやる―――!!




