第11話 スペード4の天馬騎士
白銀の翼を羽ばたかせて舞う天馬に乗り、リカーブボウを携えた女騎士。名は【スペード4の天馬騎士・シルヴィー】。
青髪のミディアムヘアに、気品漂うヘアバンド。軽やかな胸甲の下には、深い青のレザーウェアとミニスカートを纏っている。純白のグローブとタイツが、引き締まった四肢のラインを艶やかに強調していた。ニーナとはまた異なる、凛とした清楚な風貌。その美しさは、見る者を一瞬で魅了する。
ただし、彼女が口を開けば、その幻想は音を立てて崩れ去る。
「あらぁ〜? ご機嫌麗しゅう、下々の方々。私に仕える殿方は、一体どこの誰かしら? 私好みの男じゃなかったら、承知しないわよ!」
ペガサスに跨り、文字通り「上から目線」を地で行く女。その高飛車な振る舞いに、同胞であるニーナとサンダーは苦々しい表情を浮かべる。
「チェッ、ああいう女と絡むと面倒臭くてしょうがねぇぜ」
「シルヴィー! 御主人様に失礼でしょう、天馬から降りて挨拶しなさい!」
「お黙り、ニーナ! 剣も馬も、ましてや天馬すらろくに使いこなせない貴方が、私に説教する気? 生意気ですわ!」
「なんですってぇ!?」
天と地で火花を散らす女同士のいがみ合い。まさに犬猿の仲だが、仲間割れをしていても埒が明かない。痺れを切らした俺は、一歩前へ出た。
「俺がその殿方だ、シルヴィー」
俺が名乗り出た途端、シルヴィーの口がピタリと止まり、その視線が俺に釘付けになる。
スーツの上に羽織った厚手の黒マント、そして首元で鈍い光を放つ鎖のアクセサリー。その出で立ちが、彼女の興味を引いたようだ。
「……ふふ〜ん、まぁイイ男じゃない? で、私を呼び出して、何がお望みですの?」
「これから、あの高原地帯にある魔物の巣窟を叩く。先制攻撃を仕掛けるために、お前の力が必要なんだ。協力してくれるか?」
俺はシルヴィーを見上げながら、スカートの裾から覗く白のアンダースコートに下心を抱くのを必死に堪え、彼女に懇願した。
「……そんな事で私を呼んだのですの? ケダモノを掃除するためだけに、この私を!? 雑用なんてお断りですわ!」
「シルヴィー!!」
ニーナが激昂するが、俺は一ミリも苛立ちを見せない。
この手の傲慢な態度の裏には、絶対的な自信が隠れているものだ。ならば、そのプライドを逆手に取ればいい。
「シルヴィー、誤解させて悪かった。俺はお前に命令したわけじゃない。お前の『強さ』を試したくて呼んだんだ」
「…………何ですって?」
「その湾曲弓、そして装備から漂うオーラ。ニーナやサンダーとは比較にならないほど、卓越したセンスを感じる。どうか、このしがない召喚士に、その類稀なる実力を見せてもらえないだろうか?」
(な……? あんにゃろ、俺様をコケに……!)
(待って、サンダー。御主人様に考えがあるみたい)
ニーナは俺の意図を察し、憤るサンダーを制止する。
当のシルヴィーは、俺の思惑通り、見事なまでに煽てに乗ってきた。
「……ふ、ふ~ん? そんなに仰るのなら、貴方に私の能力を見せて差し上げても宜しくてよ? 私の得意な剛弓と水魔法、どちらがお好みかしら?」
「両方だ。可憐な女には、水と弓がよく似合う」
「言ってくださるわね! この私、『シルヴィア・ド・アクエリアス・ド・エクレア・ド・コロネ・ド・プレッツェル・サンセット・シルブプレ』を誘惑しようなんて、百年早いですわ!!」
フルネームが長い。というか、名前の中でパンを注文してなかったか?
「面倒くさいから『おシル子』って呼んでもえぇだか?」
ポーキー、無理やり甘味処みたいな名前に変えるのはやめてくれ。
「いいわ、私の極技、しかと目に焼き付けなさい!!」
その時、シルヴィーの頭上を野生の渡り鴨の群れがV字編成で横切った。
シルヴィーは不敵に微笑むと、リカーブボウを構え、一本の矢を番える。
彼女が弦を引き絞ると、右手から水色の波動が溢れ出した。
「受けてみなさい! 『スプラッシュ・アロー』!!」
―――ビュンッッ!!
放たれた一本の矢が、水流の推進力を得て爆発的に加速する。次の瞬間、矢は空中で四方八方に『拡散』し、鴨の群れを一羽残らず、正確に射抜いた。
一石二鳥どころではない。まさに神業だ。
(拡散弾か……! 数百メートル先の動く標的をすべて百発百中とはな)
これには俺も感服せざるを得ない。シルヴィーは満面の笑みでドヤ顔を決めている。
「おーーっほっほっほ!! ご覧なさい、殿方! こんな標的、私にとっては造作も無いことですわ!」
有頂天のシルヴィー。対照的に呆れ返るニーナとサンダー。だが、本題はここからだ。
「いや、実にお見事! ここまで凄いとは恐れ入ったよ。……それなら、あの魔物の巣窟を潰すことなんて、お前にとっては赤子の手を捻るようなものだろうな?」
「そうですわ、あんなドクロ如き私が………………え??」
「村人が困っているのを前にして、仕事を選ぶような奴はいないよな。自分の技巧を自慢する暇があるなら、直ちにその力を人のために尽くせ。……いや、どうか我らスート騎士団の使命を全うして頂けますかな? シルヴィア・ド・アクエリアス……(以下略)さん?」
皮肉を込めた俺の言葉に、流石の高飛車女も顔を真っ赤にして絶句する。その様子に、サンダーとニーナは必死に笑いを堪えていた。
「…………分かりましたわよ!! 貴方に従えばいいんでしょう、御主人様!!」
実力不足なニーナ、無鉄砲なサンダー、そして高飛車なシルヴィー。
癖があるからこそ、使いこなせばこれほど頼もしい連中もいない。強欲な王を打倒するには、欠かせない仲間たちだ。
「ニーナ、サンダー、シルヴィー。三人の力を合わせて、魔物の巣窟を殲滅するぞ!!」
「撃ち落とした鴨、肉が引き締まって美味そうだなぁ〜! 夜食に使えそうだべ」
……ポーキー。非常食を確保したら、お前も作戦会議に参加しろ。
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