第9話 スペード3の騎馬騎士
「アンタが『ジョー・カーティス』さんかい? 俺様の御主人ってことで間違いないな?」
「ああ、お初にお目にかかるぜ、スペード3のソシアルナイト。だが、御主人に対して少々態度が厚かましいんじゃないか?」
「悪いなあんちゃん、俺様は少々荒っぽいんでね。このサンダーさんと、愛馬『ボルト』のスピードについてこれない奴は、容赦なく置いていくつもりだ。ま、気に障りなさんな!」
成る程、絵に描いたような自信家で自分勝手な奴だ。
スペード3のカードから召喚されたのは、黄色い軽装鎧を身に纏い、長槍を携えたギザギザ頭の男。名は『サンダー』。
彼が跨るのは、頭部や脚部に黄色い装甲を施したサラブレッドの軍馬『ボルト』。四歳という若さゆえか、主同様に血気盛んな様子だ。
「サンダー! 能書きはいいから、早く皆を助けてあげて!」
ニーナは今なお必死にオーク相手に応戦し、状況を飲み込めていないサンダーを叱咤する。
それを聞いたサンダーが周囲を見渡すと、ようやく事の重大さを把握したようだった。
「オーケーオーケー、初陣にはお誂え向きな状況だ。あんなの、俺様の『雷』で丸焼きにしてやる!」
サンダーは『パルチザン』――両刃の剣のような大きな穂先を持つ槍を構え、襲撃するオーク目掛けて突撃態勢に入る。ニーナが烈火の鎧ならば、サンダーは轟雷の鎧。その実力や如何に、お手並み拝見だ。
「―――イイィィィィハァァァァアアア!!!」
まるで西部のカウボーイがロデオを楽しむかのような奇声を上げると同時に、軍馬『ボルト』が竿立ちになり、オークの群れ目掛けて一直線に突き進んでいく。
「退けどけぇ! サンダーさんと『ボルト』ちゃんのお通りだァッ!!」
この男と軍馬にブレーキという言葉は無いらしい。彼らの前にオークが立ち塞がろうものなら……
―――ザンッッ!!
(は、速い……!!)
俺が目の当たりにした光景は、まさに『落雷』そのものだった。
ボルトに跨るサンダーの軌跡は、右へ、左へ、鋭角に鋭角を重ね、まさに黒雲を裂く稲妻のごとく戦場を駆ける。
オークが断末魔を上げる暇もなく、稲妻はすでに敵の懐を通り過ぎ、鋭い刃がその胴体を掻っ捌いていた。
サンダーの動きを目で追うのが精一杯の俺。同じように襲撃に巻き込まれている村人も、その荒っぽい動きに巻き込まれて事故に遭わないか心配になるほどだ。
「確かにすばしっこいけども、えらい危なっかしいやっちゃな〜」
「サンダーはチームワークってものを知らないんです。頭に血が上らなければいいけれど……」
ポーキーとニーナは一旦戦線を離れ、サンダーの独壇場と化した状況に不安を隠せない。
そんな不安を他所に、サンダーは更なる見せ場を作っていく。
オークの群れがサンダーたちを包囲した瞬間、彼が持つパルチザンの穂先から激しい電撃が迸った。
その電撃が忽ち『雷撃』となって威力を増したところで、槍を一振り、横一文字に薙ぎ払う!
「―――『ボルテックス・サークル』ッッ!!」
電気を帯びた槍が円を描き、囲んでいたオークの群れを一気に撃退。村人を脅かしていた魔物の大半が消滅し、骸の代わりに銀貨が畑の大地に転がった。
……そんなことよりも、召喚された騎士が俺のカードを介さず、独自に魔法を使えるというのか……!?
確かにアイツは『サンダー』の名に違わず、雷の力に絶対の自信を持っていた。熟練度を積めば、得意な戦術をカードなしで発動できるということか。
だとしたら、雷魔法である【ダイヤ3】のカードをサンダーに使えば……ニーナ以上の威力になるのかもしれない。なんて考えていた矢先。
「―――オラオラァッッ、他に手応えのある敵は居ねぇのか!! 物足りねーぜ!!」
……おい、今度は何をする気だ、あのヤンキー野郎は!?
「何か嫌な予感がするべや」
「いけない! サンダーってば興奮しすぎて周りが見えなくなってるわ。止めないと!」
村人に『二次被害』の脅威が迫る。
既に敵のいない畑で、槍を振り回して馬を走らせるサンダー。同胞のニーナが槍を持つ手を抑えて彼を落ち着かせようとするが、
「邪魔すんな、ニーナ! 闘いは終わってねぇぞ!!」
「きゃあっ!」
なんて傍迷惑な奴だ。ニーナの方がよっぽど聞き分けがいい。周りが見えていないとはいえ、仲間に手を上げるような不届き者にはお仕置きが必要だな。
俺はカードを引き、暴走するサンダーに向けて発動した――【ダイヤの7】!!
「【ダイヤ7――アイス・ブラスト】!!」
サンダーの足元へ向けて、絶対零度の冷凍光線が放たれる。
暴れ回るサンダーとボルトを脚から凍てつかせて動きを止め、徐々に全身を氷に閉じ込めていく。仕上げに、オーバーヒートしたサンダーの頭ごと凍らせて、完全に制止させた。
「…………ぶへぇッッくしょん!!!」
安心しろ、峰打ちならぬ『峰凍らせ』だ。協調性の欠片もない騎士には、俺からビシッと言ってやらんとな。
「確かにスピードは凄いが、制御不能だ。少しは心にブレーキを付けろ。今度勝手な真似をしたら、頭を凍らすだけじゃ済まさないからな。覚悟しとけ!」
「…………分かったよ、降参だ。御主人様!」
やれやれ。ニーナといい、サンダーといい、スートの騎士団はこんな奴らばかりなのか?
多少の不安を抱きながらも、ひとまず村の危機を救った俺たち。
―――しかし、問題はこれだけでは終わっていなかった。
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