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異世界の鬼は本日も盃を手放さない  作者: 二筆
第2章 世界の正体をみる
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第16話 それぞれの愛のかたち


 王都近郊の森には、まだ霧が低く残っていた。


 白い霧は地面を離れきらず、草の根元あたりに絡みつき、泥になった土の匂いと濡れた葉の匂いを、冷えた空気の中へと滲ませている。


 今日一日、遠ざかっていた匂いが、ようやく戻ってくる。


 先ほどまでここに満ちていた敵意や謀は、完全に消えたわけではないが、もう牙を剥いてはいない。


 森は静かになった。


 その静けさの中心で、俺はタマを抱きしめている。


 白銀の髪が頬に触れ、九つの尾は俺を包むように身体に巻きついている。


 細い身体は腕の中にすっぽりと収まり、触れた場所から少しずつ温度が移ってくる。


 霧に濡れた髪の匂いに混じって、どこか甘い、よく知った香りがふわりと届く。


 言葉にならない感情が胸の奥に、静かに満ちていく。


 久しぶりだな、と思いかけて、すぐに違うと気づく。


 思い返せば、タマが暗示にかかる前まで、俺はずっと満たされた日々を送っていた。


 夜には盃を傾け、同じ食卓に着き、囲炉裏を囲み、茶を楽しみ、同じ場所へ帰る。


 その一つ一つがあまりにも当たり前に続いていたせいで、満たされていることにすら気づかずにいた。


 今になって、ようやく思い出している。


 腕の中のタマが、ほんの少しだけ身じろぎをする。


 顔を上げ、何かを言いかけるように唇を動かす。


 けれど言葉にはせず、その代わりに、背中へ回した細い腕に、静かに力がこもる。


 悪くない……いや、かなりいい。


 しばらく、そのままでいた。


 霧をふくんで重くなった草が足元でわずかに揺れ、青い匂いが立つ。


 腕にかかる重みも、頬にかかる髪の感触も、妙に馴染む。


 ふと、視線を動かす。


 少し離れた場所で、イバラキが片手を腰に置いて立っている。


 その表情に大きな変化はないが、目尻はいつもよりほんの少し柔らかい。


 嬉しそうだな、と分かる程度には。


 ノクティスがイバラキの肩の上で、影を小さく波打たせる。


 丸くなりかけては、こちらを覗き、また少し伸びる。


 安心したのか、喜んだのか、おそらくそのどちらもが、影の輪郭に表れている。


 ハルは軽く肩の力を抜いているように見えるが、目だけは周囲を警戒している。


 リラは、こちらを見ていた。


 元騎士として背筋を伸ばし、構えも崩さず、剣を持つ手には力が入っている。


 それでも、俺と目が合った瞬間、ほんの少しだけ視線が地面に落ちる。


 どうやら、俺たちはしばらく、この者たちを置き去りにしていたらしい。


 俺は静かに息を吐く。


 「……帰ろう、俺らの棲家に」


 声に出した途端、タマの肩がぴくりと跳ねる。


 「……あ」


 タマは顔を上げ、慌てたように霧の中を見回す。


 イバラキ、ノクティス、リラ、ハル。


 その順に視線が動いていき、最後にこちらへ戻ってくる。


 タマの頬に、わずかに赤みが差した。


 それをごまかすように、タマはイバラキを見る。


 イバラキは静かに頷いた。


 「リラ、ハル」


 タマが手を振ると、二人はすぐに距離を詰めてきた。


 リラの足取りにはぎこちなさが残るが、それでも小走りで来る。


 ハルは一歩遅れて、何でもない調子で続く。

 

 イバラキの肩の上で、ノクティスの影がふいに波を止め、固く尖る。


 その時だった。


 霧の向こうから、カルミラの柔らかい声が聞こえる。


 「どこへ行くのかしら?」


 だいぶ遠くへ投げ飛ばしたはずだが、いつの間にか、近づいてきている。


 白い霧の中で、黒に近い深紫の髪だけが、妙にはっきりと浮いて見える。


 カルミラがそれを手で払うと、濡れているはずの髪は肌に張りつくこともなく、不自然なほど艶やかな光を揺らしている。


 その声は甘く、親しい相手にでも呼びかけるような響きすらある。


 ハルとリラが、同時に腰を落とす。


 リラの指が柄にかかり、ハルの肩から軽さが消える。


 先ほどまで抱擁の余韻を含んでいた場が、途端に斬り合いの冷たさを取り戻す。


 それを制するように、イバラキが二人の一歩前へ出る。


 濃褐色の直垂の裾が、霧を一筋だけ割る。それだけで、森の空気が一段重くなる。


 カルミラが足を止め、唇の端をゆっくりと上げる。


 少しだけ目を細め、イバラキを、タマを、そして俺を順に見る。


 見つけた玩具の出来を確かめるような、静かな愉しみを噛み締めているのが視える。


 面倒な女だ。


 俺はその様子を少しの間だけ視てから、短く言った。


 「タマ」


 タマが俺の腕の中で頷く。


 足元の空気が薄く揺れ、草の根元に絡みついていた霧が弾かれるように退いていく。


 淡い光が湿った地面の上に円を描き、その内側で、細い線が幾重にも重なりながら転移の陣を組み上げていく。


 ハルの手を引いたリラが、迷わずその中へ入る。


 それを確認してから、イバラキとノクティスも音もなく俺たちの隣へ寄る。


 タマの魔力が、空間の縁をなぞっていく。


 世界が揺れ、空間が一瞬だけ歪み、視界も傾く。


 霧が薄れ、森の幹が細く曲がり、カルミラの黒い影が白い光の中へ滲んでいく。


 濡れた土の匂いも、冷たい空気も、すべてが光の向こうへ押しやられる。


 消える直前、カルミラの声が光の向こう側から滑り込んでくる。


 「また近いうちにね」


 明日の遊びの約束でもするような軽い声に、ハルの眉間が深く寄る。


 「……絶対会いたくない」


 その直後、ハルの声だけが光の向こう側へ響く。


 光が閉じ、森が消えた。


 *


 霧は、もうかなり薄れていた。


 足元に沈んだ白い層だけが地面から離れきらず、折れた草や木の根元に絡みつき、ゆっくりと流れている。


 ゲドーマルたちが去った場所には、転移魔法の残滓が淡い光をわずかに灯していたが、それももう消え、泥になった土と霧に濡れた草が残っていた。


 その光の消えた場所に、カルミラが立っている。


 少し離れた場所にはスイウンがいて、さらに周囲には残った二体の《霧幻五指》が、主を守るように濃淡を変えながら、薄くなった霧の中に溶け込んでいる。


 森には音がなかった。


 鳥や虫はこの場から離れ、風も今は止んでいる。


 カルミラは、その中でタマの残した魔法陣の消えた地面を静かに見ていた。


 白い牙が覗く口元には、笑みは残っていたが、その紅い瞳は笑っていない。


 面白いものを見つけた子供のような無邪気さと共に、体温を感じさせない冷徹さが、その瞳の奥に共存している。


 スイウンは扇を下げたまま、動けない。


 白霧を纏った身体はほとんど輪郭を持たず、深緑を含んだアクアブルーの髪だけが霧の湿りを受けて淡く光っている。


 表情は変わっていない。いつものように、余裕と倦怠の表情を被っている。


 それでも、カルミラは見逃さなかった。


 ゲドーマルがタマを抱きしめた時。


 そして、九つの尾が彼の身体を包んだ時。スイウンの瞳の奥で、ほんの一瞬だけ、静かな水面に小石を落としたような揺れが広がった。


 「あら」


 カルミラが、地面に落としていた視線をスイウンへ移し、小さく笑う。


 首をわずかに傾ける仕草は優雅で、親しげで、だからこそ逃げ場を塞ぐような圧がある。


 「今の顔」


 カルミラは口角を上げ、目を細める。


 スイウンの眉が、ほとんど見えないほどわずかに動く。


 「愛を信じていない女の顔ではなかったわよ」


 ゆっくり流れていた霧が、止まる。


 スイウンの目がわずかに見開かれ、扇の柄に添えた指の先へ無意識に力が入る。


 万年氷と龍骨で組まれた《芭蕉扇》が、湿った空気の中でかすかに震える。


 その反応を見て、カルミラは舌で赤い唇を一度舐めると、男なら誰しもが心を揺さぶられそうな微笑みを浮かべる。


 「羨ましかったのでしょう?」


 スイウンにとってそれは、隠した傷の上を爪の先でそっとなぞられているに等しい言葉。


 スイウンの瞳が細くなる。


 「……妾が、何を羨むと?」


 震えてはいないが、その声が出るまでに、ほんのわずかな遅れがあった。


 カルミラは口元に指を添えて、くすりと笑う。


 「私を狙っているくせに、私に見られていないと思っていたの?」


 霧が裂ける気配すら残さず、彼女の姿が消えた。


 スイウンが気づいた時には、カルミラは彼女の目の前にいる。


 足元の草が踏まれた音すら出さなかった。


 距離は、ほとんどない。紅い瞳が近い。


 速すぎて、スイウンの霧がその動きに追いつけず、あとから遅れて白い筋を引いた。


 タマのように空間を繋いだり、魔導師が魔法陣を組んだというわけではなく、ただ純粋に速さが桁違いだったというだけ。


 スイウンの身体が反射で退こうとするが、その前にカルミラの手が伸びている。


 細い指が、スイウンの胸元の衣を掴むと布がきしみ、白霧で作られた衣の輪郭が乱れる。


 「逃げられないわ。だって、逃がさないから」


 スイウンが遅いのではなく、カルミラがどこまでも速い。


 たったそれだけのことが、距離を奪い、選択肢を奪っていた。


 カルミラが顔を寄せる。濡れた森の匂いを、甘い血の香りが覆い被す。


 「ねえ、スイウン」


 耳のすぐ近くで、吐息が漏れるように囁く。


 カルミラの人差し指の先が、掴んだ衣の上からスイウンの胸元を軽く叩いた。


 何気ない仕草だったが、指が触れた場所で、スイウンの内側に縫い込まれている細い縄が、わずかに震える。


 「あなたに掛かっている、その安っぽい《狂智》の縛り」


 スイウンの瞳が、かすかに揺れ、カルミラはそれを見て笑みを深くする。


 「解いてあげましょうか? 今、この場で」


 一瞬だけ、スイウンの呼吸が止まった。


 霧が動きを失い、周囲で様子を窺っている《霧幻五指》の気配まで、薄れる。


 見透かされている。胸の奥に押し込めていたものを、手に掴まれている。


 本当は、今すぐにでも解いてほしい。


 自分の意思で扇を振り、自分の意思で立ち、自分の意思で誰かを羨むことさえ許される場所へ戻りたい。


 その願いを口にした瞬間、自分は何かを差し出すことになる。


 そして、目の前にいる女が、差し出されたものを大事に扱うはずがない。


 スイウンは、喉の奥から、絞り出すように声を漏らす。


 「……其方を信じる理由など、妾にはない」


 「そうね」


 カルミラは、くすっと笑ってあっさりと認める。


 その軽さが、かえって冷たい。


 最初からこちらの答えなどわかりきっていて、ただ揶揄っただけ。


 彼女が肩をすくめたと思った瞬間、スイウンは掴まれていた衣を力づくで引き寄せられる。


 羅刹のスイウンが抗えないほど、力も強い。


 「じゃあ、解放してあげる」


 その言葉の意味を、スイウンはすぐに理解した。


 ”死”、と。


 背後で、残った二体の《霧幻五指》の気配が動く。


 踏み込んだ瞬間に自分たちがどうなるか、魔物としての本能が先に知っている。


 それでも、スイウンを守るために、動く。


 カルミラの指先が、ゆっくりとスイウンの喉へ伸びる。


 その刹那、白い首筋の前で、その爪が止まる。


 カルミラの胸元で、赤い光が淡く灯った。


 胸の上に揺れるネックレス。その先にある小さな赤い魔石の欠片が、もう消えかかっている霧の中で脈を打つように光っている。


 カルミラの動きが止まり、その瞳が、赤い光を灯す魔石を見つめる。


 彼女は一度だけ空を見上げた。


 木々の枝に遮られ、そこに見えるものなどほとんどない。


 それでも、遠くから伸びてくる何かの気配を、彼女は確かに嗅ぎ取っている。


 「……来るわね」


 彼女が初めて表情を崩す。口元をへの字に歪め、舌打ちをする。


 「彼が」


 その言葉と同時に、スイウンの脳裏に一人の男の名前が浮かぶ。


 《血の血統》と呼ばれるヴァンパイア始祖であり、魔王の中の一柱。


 カルミラはスイウンの衣から手を離した。


 「時間切れね」


 つまらなそうに言って、踵を返そうとする。


 その瞬間、森の奥が光った。


 一直線の閃光が、森を貫くと、轟音が遅れて爆ぜ、木々が薙ぎ倒され、地面が焼ける。


 濡れた土の上に残っていた薄い霧が蒸気へと変わり、光の奔流はカルミラとスイウンの間を強引に断ち切るように走り抜け、通り道にあった木の幹を内側から焦がしていった。


 霧が吹き飛び、湿った匂いが一瞬で焦げた匂いにのまれる。


 スイウンは即座に後退し、《霧幻五指》も反射的に散開した。


 危険だと、この場の全員が理解していた。


 焼け焦げた地面を見て、スイウンが低く呟く。


 「……聖属性」


 視線が、森の奥へ向く。


 カルミラの感じ取った気配とは、別の方角。


 そこに残っていた白は、もう霧ではなく、焼けた土と幹から立ち上る蒸気でしかなかった。


 「しかも……桁が違う」


 誰かの足音が、蒸気の向こうからゆっくりと近づいてくる。


 その一歩ごとに、残っていた霧が、熱に触れた薄氷のように、空気の中へ溶ける。


 森そのものが、道を開けているような光景。


 薄れていく蒸気の中から、白い外套が現れた。


 肩から背にかけて波打つ淡い茶色の髪が、光を受けて柔らかく揺れている。


 朱色がかった琥珀色の瞳は穏やかで、純白の法衣には乱れがない。


 歩みは静かで、急いでいるようには見えない。


 彼女の周囲が異様に澄んでいる。


 白木と金で組まれた《聖なる長杖》。その先端に埋め込まれた聖石が、まだ淡く熱を帯びている。


 先ほど森を貫いた光の残滓が、杖の先で静かに揺れている。


 《巡道教聖女》、セレスティア。


 その少し後ろから、慌ただしい足音が近づいてくる。


 「ちょ、待てって言っただろ……!」


 息を切らしながら森へ飛び込んできたのは、赤茶色の短い髪を持つ男。


 深い青の瞳、銀を基調とした鎧、白と金のマントを翻しながら、どうにか追いついてセレスティアの背後で足を止める。


 《聖騎士》、カイラン・ブランク。


 セレスティアは振り返らず、その視線を静かに走らせる。


 カルミラ。スイウン。その背後の二体のオーガ変異種と、倒れて伏す三体の変異種。


 すべてを一瞬で測り終え、にこやかに微笑む。


 カルミラの笑みとは違う、光を感じさせる微笑み。


 けれど、その目には、カルミラとは別の冷たさを含んでいる。


 「……なるほど」


 声は柔らかく、世間話でも始めるような口調。


 「今日は、間に合ったみたいね」


 笑顔のまま、視線がカルミラで止まる。


 「ヴァンパイア、カルミラ」


 目を細め、手に持つ長杖の先端をカルミラに向ける。


 「始祖級の厄災」


 カルミラは肩をすくめた。


 「やだ」


 軽い声だった。


 「聖女に名指しされるなんて、光栄ね」


 紅く光っていた瞳は、いつの間にかいつもの紫へ戻っている。


 「以前会った時より、ずいぶん綺麗になったじゃない」


 セレスティアの笑みは崩れない。


 杖の先に宿る光が、ほんのわずかに強くなった。


 カルミラは、セレスティアとは違う方角を見て、ふっと笑う。


 「今日は楽しかったの。だから、殺さないであげる」


 その視線が、ゆっくりとカイランへ向いた。


 カイランは目を逸らさず、剣の柄に手を掛ける。


 紫の瞳がカイランの深く青い瞳を離さない。


 「あなたも」


 胸の魔石を指先で弄りながら、笑みをつくる。


 「面白そうな子ね」


 カイランの喉がわずかに上下する。


 セレスティアの瞳が、そこで一度だけ細くなる。


 カルミラが、一歩下がった。


 「また会いましょう」


 声は楽しげだった。


 「次は……もっと静かな場所で」


 セレスティアが杖を向けると、空気が震える。


 聖属性の魔力が杖の先で凝縮され、周囲にわずかに残っていた湿った空気と葉についた水滴が、一斉に蒸気へ変わっていく。


 「逃すと思うの? あなたは教会の最優先討伐対象の一柱よ」


 カルミラは、くすりと笑った。


 指先が胸元のネックレスに触れ、セレスティアに見せる。


 小さな赤い魔石。欠けたその石の奥で、赤い光が弱く脈を打っている。


 「私をここで殺したら、彼……《血の血統》は、見つけられないわよ」


 セレスティアの指が杖を握り直す。


 その瞬間をカルミラは見逃すわけもなく、視線をカイランへ滑らす。


 「それに、よそ見していていいのかしら?」


 次の瞬間、金属の擦れる音が鳴った。


 カイランが手にかけていた剣を抜いていた。


 刃の先は、セレスティアへ向けられている。


 「カイラン?」


 セレスティアはわずかに首を傾げ、声は低くなる。


 カイランの目は開いていたが、焦点が微妙に定まっていない。


 カルミラの紫を追っていた瞳の表面に濁りのようなものが混じっている。


 「……暗示」


 セレスティアの奥歯が、ぎりと鳴った。


 カルミラは微笑む。


 「大丈夫。今回は軽いから。私が視界から消えれば、元の彼に戻るわ」


 ここでカルミラを追えば、カイランを斬ることになる。


 聖なる長杖の先に凝っていた光が、消える。


 カルミラが軽く手を左右に数回だけ振る。


 「では、ごきげんよう」


 黒に近い深い紫色の髪が森の影に紛れ、紫の瞳が最後に一度だけ細く笑い、それから完全に気配が消える。


 *


 カルミラの気配が完全に消えたのと同時に、カイランの身体から力が抜けた。


 剣先が下がり、彼は周囲を見回す。


 焼けた地面。セレスティアの光っていない杖。自分の手に握られた抜き身の剣。


 理解が追いつかないまま、カイランは小さく眉を寄せた。


 「……あれ?」


 セレスティアは深く息を吐き、杖を下ろすと、肩の力が、ほんの少しだけ抜ける。


 「……やれやれね」


 年頃の少女の疲れた声だった。


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