第二十二話 VSドラゴンゾンビ!!➀
僕は外に出ると、まず履いている靴をバッグに入れ、反重力シューズに履き替えた。
別にギルド会館の中で履いてもよかったかもしれないが、シューズの跳躍力は凄まじい。
誤作動で事故が起きるかもしれなかったから、念のため、というやつだ。
「すぅ、はぁ」
僕は深く深呼吸し、目をかっ開く。
目標地点を見据え、両手を地につけ、四足となって腰を上げた。
巷でクラウチングスタートと呼ばれる姿勢となって、僕は魔力を足元に集中させる。
「反重力シューズ、起動!!」
キィィィンという音を立て、魔道具が起動した。
だが、まだ出発しない。
僕は息を溜めに溜め、一気に放出させるように叫んだ。
「――――彗星走!!」
足先に魔力を集め、特殊スキルで一気に加速する。
瞬間。体が紙のように軽くなる感覚。
風を切り、木々の間をすり抜けるように跳んでいく僕は、
目標地点の山間部まで、十歩で到達した。
―――
目標地点である王都に近い山の麓に辿り着いた時点で。
僕はドラゴンゾンビの存在を確認した。
紫色の毒性のガスを撒き散らしながら、竜の屍は山を下っている。
なるほど。
よくよく見れば、右の手に女性が握りしめられていた。
歳は……僕と同年代くらいだろうか。
(まずいな、相当弱ってるぞ……)
死竜に捕まれながらともに山を下る女の子の状態は、決して良いと言えるものではなかった。
遠目で見たから詳しくは分からないが、ぐったりと項垂れているようだった。
毒にあてられ、衰弱している可能性が高い。
「間に合えよ……っ!」
僕は声を漏らしながら、最後の一歩を踏み込む。
しばらくすると、視線の先に剣を構える騎士団の人達を確認したので、
標的に気付かれないよう、音には気をつけて着地した。
現場に着くと、最初に話しかけてきたのは、王都へと遠征していたユウキだった。
「か、カルマくん!? どうしてここに!?」
「緊急クエストの依頼書を見て来たんだ。そんなことより、状況は?」
僕が問うと、「そ、そうだよね、ごめん!」と言ってユウキは現場の状況を伝えてくれた。
要点をまとめてくれたおかげで、すぐに理解することができた。
彼女が話したことは、大方、僕が予測していたことと同じだった。
ドラゴンゾンビが王都へと向けて山を降りてきているが、
その手には王女が捕らえられており、迂闊に攻撃できない。
毒により王女様は弱ってきているから、早期決着で止めを刺す必要がある。
奴が本当におとりとして王女様を使うのならば、攻撃しても問題はないのだろう。
だが、いくら頭が切れると言っても相手は魔獣だ。
こちらが攻撃を仕掛けようとすれば、王女様をぺろりと食べてしまうかもしれない。
つまりは八方塞がりというわけだ。
(……でも、僕なら)
頭を回転させる。
状況を整理し、最適解を足りない頭で絞り出す。
僕の力と……そうだ、『彼』の力があれば、この状況を切り抜けられる。
僕は『彼』が苦手だけど。
達成するべき『目標』があって、それに到達できる『方法』があるのに、それを試さないなんてこと、僕にできるはずもなかった。
だから。
思い立った僕は、ユウキの横で突っ立っていた男に声を掛けた。
「ねぇ、アクセル」
「あぁ?」
問われた彼は怪訝そうな顔をしている。
にしても腹立つ顔してるなぁ、殴りたい。
僕はイラっとしつつも、表情には出さないようにしながら努めて明るく提案した。
「力を、貸してくれないか?」
「あぁん?」
長い茶髪をかきあげながら、すごーく嫌そうな顔をするアクセル。
あぁ、僕だって嫌だよ。
でも、目の前に状況を切り開く可能性があるんだ。
絶対不可能な壁を乗り越えるために用意された武器があるのなら。
振るわないなんて選択肢が、僕にあるわけがない。
僕は顔を上げながら、堂々と胸を張って言った。
「頼む、力を貸してくれ。……ヤツは、僕が仕留める」




