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悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる  作者: みやっこ
私が悪事を働くためには

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再びお食事をしましょう~過去回想

 他人と一緒に生活するためには何をしたらいいのか。


 私は必死に考えた。


 ミーキアやエーゼンに話したら、誰と暮らすつもりだと問い詰められ、後悔したのもつかの間に、なかったことにしてしまった。

 オルレシアンは、他人と暮らすなんて考えられないの一言で終わった。

 フスタフはほぼノーコメント。精神面の手助けはノータッチらしい。


「というわけで。今日からは毎日一緒に食卓を囲もうかと思います」


「どういうわけだよ」


 地下に食事をセッティングしてもらい、三人席についたところで、ウラガにツッコまれた。

 病み上がりに一度食事を共にしたっきり、好きな時に別々で食べていたが、同じ家でそうしているとよりバラバラ感が浮き立つような気がして、必死に考えた結果、生活にあれこれ口出しはせずお互い距離を取りつつも、食事だけは一緒にとる……という……。


 正直、外食ならまだしも、家で誰かと向かい合ってご飯を食べる機会が余りにもなさ過ぎて面倒ではある。

 しかし、同じ釜の飯を食うって言葉があるくらいだ。

 ある程度仲良く過ごすには、食事から。かもしれない。


「じゃ。食べます。手を合わせたり……するのかな? するタイプ? 私はしない。いただきます」


 緊張しすぎてスタートから躓いた。


 ヘイツは笑ってくれたが。

 その割に食事に手を付けず、野菜スープを口に入れる私を見つめている。


 飲み込みにくい。


 ウラガの方は、口をへの字にしたまま不機嫌そうだったが。

 しばらくしたら、ものすごくお行儀よく食事を始めた。


 自分の作法が気になる。


 食器の音しかしない。

 味とかまったくわからない。


 前はほっとしたけど、今は気まずいぞ。なぜだ。

 どこ見てればいいのかもわからない。テレビつけたまま食事するタイプだったから余計に。


「っ……えと。ヘイツ。食べないの?」


 私は、固くて塩気のあるパンを片手にヘイツに声を掛けた。

 ヘイツは、ここに座ってからずっと私の方を見たまま、微動だにしていない。


「僕はこうしてるだけでお腹いっぱい」


 幼いアイスブルーの瞳が、微かに艶やかな光を宿しているような。

 君の瞳に乾杯。

 って言いそうな顔……言った人見たことないけど。

 とにかくものすごく幸せそうだ。


 ああ。あれだ。うん。きっと今までの環境がひどすぎたんだろうな。地獄から急に天国……いや、ここ全然天国じゃないか。きっと感覚がおかしくなってるんだ。


「俺はこういう慣れあい必要ないと思う」


 ウラガが、口元を拭きながらそう言った。

 私はまだ半分も食べてないし、ヘイツなんて少しも手を付けていないというのに、もう食べ終わったようだ。


「早っ!? ちゃんと味わってる?」


 思わず素で聞いたら、可愛らしい顔が険しくなった。


「生まれてからずっと城のご飯食べてる。毎度同じ味のものを味わう必要ないだろ」


「同じではないとおも……あ。もしかして使妖精が作るから味付けがってこと……かな?」


「そんなもんどうでもいいから。こういう慣れあいは……」


「それ結構困るよね。こういう閉鎖的な場所で同じような味のもの毎回出されたら余計気がめいる」


 出来るだけ快適な環境を目指すうえで、衛生面はクリアしているはずだ。

 そして見ての通り人間関係は模索中。

 つまりは食事。そう食事。

 使妖精が作ってくれる完璧な味付けの完璧献立は、とてもおいしいけれど。何年も食べ続けていたら飽きるのかもしれない。

 

 幸いここには台所がある。

 火も水もある。


 電子レンジとか炊飯器はないけれども。


 私にも何か作れるだろうか。


 この世界にも、砂糖と塩はある。胡椒もあった。醤油があれば、何かしら出来そうなものだけれど、今のところ見てない。

 自炊をまったくしてこなかったわけではないが、生憎私の頭の中にレシピは入っていない。

 食べたいなと思ったらネットを見て、大体その通りに作っていたため、食材の切り方程度なら覚えているが、何をどういう順番でやるのかとか、何が必要だったかとかが、イマイチわからない。

 

 カレールーがあればなぁ。暫くカレー食べてないな。ここ、結構洋風なものが多いんだよね。

 餃子もいいけど、皮がなぁ。材料はありそうだけど。どうやればいいのかわからない。

 ロールキャベツ……顆粒のコンソメとかあれば……。


 現代でお手軽なラーメンはここではスープも麺も問題大ありだ。


 今は洗濯など身の回りのことはすべて使妖精がやってくれる生活を送っているからアレだけれども、この世界での私の生活能力のなさは後々ヤバイかもしれない。


 ふんわり生まれた不安を無視しつつ、思考を戻す。


「あの。二人って料理とかできたりする?」


 ヘイツは静かに首を振り。

 ウラガは、こっちを見もしない。


 そういえばさっき何か言いかけてたような。聞いてなかったから怒ってるのかも。


 ええっと……ええ……と。


 何と言えばいいか迷っているうちに、ウラガが席を立ってしまった。

 おろおろとヘイツの方を見たら、相変わらず私を見つめたまま、食事に手をつけていない。


 この間は食べていたはず。いや、食べてたっけ。思い出せない。食べてる姿が全然思い出せないけど、でも皿の上のものは消えていたような気がする。


 わからん。何もかも。


 私は、気まずすぎる空気の中、静かに自分の食事を終え、肩を落として上へあがった。


 今日は駄目だったけど。食事が悪いってことじゃないと思う。兎に角、フスタフに食材が手に入らないか聞こう。

 駄目だったら、そのときは戻れば……。


 うん。この方法駄目だって思ってるのに、使っちゃうな。いつかこれやらなくてもやっていけるようになるのか……は今考えても仕方ない。


 なんとか割り切って、次の日すぐフスタフに相談したところ。あんた料理出来るの? と訝し気に言われたが。

 その割に速攻。野菜に果物、お肉にお魚、あと冷蔵庫のような冷たい箱を地下に設置してくれた。


 食材が多い。どうしよう。何作ろう。

 

 まず、六角柱のガラス瓶に入っている調味料をなめてみた。

 塩とお酢とお酒と胡椒と砂糖、あと甘じょっぱくてコクのある緑色の液体。瓶の蓋がそれぞれ違う色ガラスで出来ていて、とても綺麗だ。


 ジュート製っぽい袋に入っているのは片栗粉や小麦粉だと思われる。舐めてもわからない。

 

 この材料だと。唐揚げとかやったら子供喜ぶんじゃない?

 鳥肉を謎の緑色の液体とすりおろしたニンニクとしょうがにつけといて、馴染んだら、片栗粉と小麦粉につけて揚げれば……。


 他にもイロイロ考えてみたが、男の子が喜びそう、且つ失敗しなさそうなものが浮かばず。


 ウラガにニンニク臭いと言われ、ヘイツに心配そうに見守られ。またも気まずい空間を作りながら、ぎくしゃくした動きで唐揚げの下準備を終えるところまでは良かった。


「よし。あとは簡単」


 鍋に油を注いで、コンロ的なものに火を入れ、揚げるだーー


「け~~!?」


 鳥が油に落っこちた瞬間、炎が天井まで上がった。


「わああ!? 消火器!!」


 はない。当たり前だ。


「水っはダメっどっ!」


 横に居たヘイツが、高く伸びた炎に手を伸ばした。


 褐色の細い指が荒れ狂う炎に飲まれ……。


「危ない!!」


 私は叫びながらヘイツの体を押した。

 その衝撃で油鍋が傾く。


 助けなきゃ!


 助けなきゃ彼らは死んでしまう。崖から落ちて……ナイフに刺されて……死んでしまう。


 私はヘイツにおおいかぶさって、目を閉じ。


 背後で音がした。

 聞いたことのない音。何かが焼ける音だろうか、小さなガラスが割れるみたいな……。


 熱くない。まったくもってどこも熱くない。痛くもない。


 むしろ冷たい。


 震えながら顔を上げると、空気がキラキラ光って、吐く息が白くなった。


「……へ?」


 部屋の中が霜だらけ。


「リリっ!! 怪我っ背中は大丈夫!? リリ!!」


 私に押しつぶされていたヘイツが、泣きそうな声で私の背中をさすった。

 

 ヘイツ……は無事。ウラガは?


 そっと振り返る。

 ウラガは少し離れたところで手をヒラヒラ動かしながら眉をしかめている。


「ん? 何その動き……」


 ぼーっとした頭で斜め上を見る。

 傾いた油鍋がコンロと共に凍り付いている。


 もう一度振り返ると、ウラガの周りにキラキラした氷の粒が舞っているのが見えた。


 これは……あれ……そっか。力使ってくれたんだ。それで……助かった……助かっ。


「ウ……ウラガっありがとう。力使ってくれてっわ」


 ヘイツが私の手を取りギュっと握りしめた。


「どうして僕なんか……二回も……」


「えっ?」


 ヘイツの行動に面食らっていると。


「部屋中凍った」


 ウラガが、自己嫌悪しているみたいな辛そうな顔で、己の腕を強く握りしめ、そう言った。


「失敗だ……また」


 その弱弱しい声に、心臓が跳ねて、キュっとなった。

 寂しい。悲しい。辛い。どうしようもない。

 今と繋がらない気持ちが急に去来しそうになって、ぐっとこらえる。


「失敗……あっうん。そうだね。私料理失敗した。ごめんなさい。本当に助かったよ」


「そうじゃない」


「え? ……ん……ああ……あの、今度は揚げ物やめとくから。大丈夫」


「今度?」


 ウラガが、丸い目を更に丸くした。


「うん。あ。でもまた失敗したら、力使って火消してくれるとありがたい。いや気を付けるけどさ」


 少し冗談めいてみた。

 口の端を持ち上げる努力もしてみた。


「部屋が氷漬けになってもいいのか?」


 ウラガは真顔だ。


 私は……強く頷いた。


「いいよ」


 彼が何を気にしているのかわからない。なぜそんな不安げなのかもわからない。だから、一言しか言えなかった。


「……」


 ウラガは、ふっと力の抜けた可愛らしい顔をして目を瞬き、またすぐふてくされたような顔をした。


「前髪焦げてる」


「え!?」


 慌てて前髪に触れたら、バサっと落ちた。


 おーまいごっと。なんてこった。たいへんだ。


 ショックで動けずにいると。

 ヘイツが落ちた髪を拾い集めてハンカチに包み、大切にポケットにしまおうと……。


「なっ」


 何しとんじゃいと言いかけた口を閉ざし、無言で彼の手から取り上げる。


 消えた前髪。ふてくされたウラガ。謎の行動なヘイツ。


 二人も居たら対処できない。どっちの行動も言動も理解する前に進んでしまい、前髪取れる。


 いや。前髪は私の過失っ!


 一人テンポの悪いノリ突っ込みをしている間に。

 ため息をついたウラガが、カーテンで仕切られた自室へ消えた。


 今。何かのフラグが折れた気がする。

 でも戻るのは勿体ないし。どうしようもない。どうしようも……ないのだろうかこの前髪は。




 ハムスターが、自分の前髪をハサミでバッサリと切った。その瞬間、すぐに前髪が生えて、長く長く伸びまくり、何かよくわからない生き物が誕生した。




 前髪なんてすぐ伸びるさ。とでも言いたいのか。なんだかよくわからないけれど。

 私は、一先ず己の髪をゴミ箱に捨て。


「勿体ない」


 ヘイツががっかりした声で、ゴミ箱を覗き込んだ。

 どういうアレで勿体ない発言が出たのだろうか。

 あ……やっぱりあれだろうか。あの……あれ。

 

「え……っと……ヘイツ……その……私、人間だよ。あの……もしかして変なもの見てたらあれだけど。人間です」


 崖下りのときに変身した姿を見られないよう気を遣いはしたが、見られていないとも限らない。しかし見ていないかもしれないからハッキリとは言えなかった。


「うん?」


 ヘイツが首を傾げた。

 どっちに疑問を持ったのだろうか。人間って部分か。それとも変なモノのほうか。

 ときおり、彼のこの無邪気な態度はわかっててやっているのではないかと……いやいや考えすぎだ。


「……」


 ふっと薄く笑われた。

 でも何に対して笑ったのか、わからない。なんの感情も読み取れない不思議な笑みだ。


「あなたは勿体ない。僕には勿体ない」


「えっ? あ……え?」


「僕はこの世界に向いてない。

だからあなたの傍に居る。勿体ないあなたの傍に居れば、きっと違う世界にいける。あなたほど眩しい人はこの世に居ないから。きっとあなたもこの世界の人じゃないんだ」


「え? なに? どゆこと?」


「でもね。リリ。これ以上勿体ないことしないで」


「ん?」


「僕のためにあなたが傷ついたらと思うと、イライラして全部どうでもよくなりそう。もともとどうでもいいけど。正常を通り越しそうだから」


「んんん??」


 ちょっとどころじゃなく意味がわからない。

 私は、疑問符だらけの頭を捻って。捻ったけれどやっぱり何一つとして理解できず。

 しかし、ヘイツは何か答えを待ってるっぽいので。


 ストレスたまってるんだなと。


 思うことにしてみた。


 火事まで起こしかけたし。この狭い空間に一日いるのだし。きっとそうだ。それを子供なりに遠回しに伝えようとしてくれてるに違いない。


「えっとあの……ヘイツ。何か食べたいものとか。欲しいものとか。してほしいこととかあれば言ってね。全部は出来ないけど。善処するから……ね」


「……」


 ヘイツは、アイスブルーの瞳を陰らせて、笑っているのか怒っているのかよくわからない表情で。


「食べたいものなんてない。欲しいものもない」


 とても静か。それなのにものすごく強く聞こえる声だった。


「あ……えっと……」


 わからないのに、適当に答えたことを見透かされたようで。

 恥ずかしくて死にかけた。


 ヘイツはゴミ箱から私の焦げた髪の毛を取り出し、また薄っすらと笑みを浮かべて私を見つめ。

 ウラガと同じく己の領域に去って行った。


 結局前髪持って行ったよ。

 なんだろう。言ってることとやってること違うような。っていうか髪の毛……どうする気だろう。呪い……じゃないよね。


「呪いってなんぞ……」


 声に出して突っ込んでも傍には誰も居ない。二人とも居るのに居ない。


「うう……」


 ものすごく噛みあってない。むしろ悪化しているようなこの状態をどうしたものか。

 

 私は、頭を悩ませつつ。

 結局また何も出来ず上のベッドへ帰った。

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