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悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる  作者: みやっこ
私が悪事を働くためには

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紅茶五人前

 ここへ来て三日目。

 フスタフからの過剰なお世話で部屋がごった返したので、贈り物は停止してもらった。


 こんなにたくさんの服や靴、前世で買ったものすべてを合わせても足りない。毎日違う恰好をしても一か月以上持つだろう。


 ちなみに今日の私は、過剰にハート模様だらけのピンク色のワンピースに、つま先がアヒルの顔になっている黄色のビニール製ブーツ姿。なんとも情けない顔のアヒルはたまらなく可愛いが、自分で履くとなると勇気がいる代物である。

 コーディネートが出来ないと言ったら、毎朝フスタフが選びに来るようになり、言われるまま着たらこうなっていた。

 頭が相変わらずのハムスター状態なので、イマイチなにを着ても決まらな……この服決まる人いる? 二十歳すぎてこれはヤバイでしょ。頭ハムスター足アヒルって。






『いけてるよっ! とくに頭!』






 ああ。はいはい。そうですね。


 着た瞬間恥ずかしさを感じたが、これと言って見せる相手も居ないので、別にいいかと開き直ることにした。相変わらずここのセンスはわからないままだし。

 青い屋根の家の令嬢たちとは、以前より関わっていない。正体がバレたらいろいろな人の命に関わるかもしれないので、引きこもるほかない。

 

「あ~~暇。ねえアヒル一号二号アンドハムスター~」


 足元に話しかけてももちろん答えなど返ってこない。それはわかっている。少しメルヘンに合わせてみただけだ。


「暇すぎる……」


 仕方なく顔を上げ、伸びをしようと手を上に伸ばしたところで。


「…………」


 ドアの前にヘイツが立っているのを発見した。


 私は、無言でしゃがみ、アヒル二匹をスカートの下へ避難させた。


「今日はヘイツ様とお会いになられる日ですので。お連れいたしました。後ほどお茶をお持ち致します」


 ヘイツと共に入ってきたらしい空気の読めない使妖精が、ごく普通のトーンで初耳なことを言うもんで、私はすぐさま立ち上がってアヒルたちを解放した。


 聞いてない。フスタフも何も言ってなかった。どういうこと?


「おい。お茶五人分だってよ」


 ヘイツが使妖精を呼び止め、謎の注文をした。


「五人……」


 内心驚きで心臓バクバクのまま呟いたら。

 ヘイツがチョイチョイ人差し指を動かした。


「俺とアンタとアンタの頭食ってるヤツとアヒル一号二号」


「……」


 もうっ見てたなら声かけてよね! 恥ずかしいっったらありゃしないわ! とでも言えばいいのか。それとも、誤魔化せばいいのか。


 ヘイツの表情からは何も読み取れない。

 ヘイツって冗談とか言う子だったっけ。素直すぎて怖いくらいの子だったような。


「一号と二号はお茶とか飲まないんで。ハムスターも常にお腹いっぱいです」


 固い声で返したところ、ヘイツの表情が若干曇った。もっと面白い答えを期待していたのなら、そういう表情をしてほしかったなんて、私自身常日頃思われていることだろうから言えない。


「愛想笑いもなしか」


「え? あ……中で笑ってます」


「へぇ」


 ヘイツはつまらなさそうな顔をして、椅子に座った。

 私は、何が何だか、この展開に混乱しつつも、テーブルを挟んで彼の正面に腰を下ろす。

 

「…………」


「…………」


「…………」


「…………んんっ」


 たまらず咳払いをした。

 しかしヘイツは黙ったまま。部屋の中をボンヤリ見つめている。


「……」

「……」


 いっそこのまま面会時間がすぎるのを待とうか。

 いやでも、それだとここに居る意味ない。


「あの……ヘイツさ……」


 「ま」と同時に、ヘイツの視線が動き。

 縋りつくような目で私を見たかと思えば、ため息をつかれた。


「ヤれない女に興味ない。俺はこの部屋に居たいだけだ。正面に座る必要もない。気が散るから向こう行け」


「………へ?」


「どうぞ」


「っ!?」


 唐突にカップが現れた、椅子ごとひっくり返りそうになった。

 使妖精が、淡々とテーブルに五人分のティーカップとポット、お茶菓子を置いて後ろに下がる。


 透明なカップで揺れる赤い液体から、甘い花の香りが漂う。


 私は一呼吸、甘い花の香りで気持ちを落ち着けた。


 ヘイツはまた、そっぽ向いてしまった。


 私は、紅茶を一口飲んで、喉を潤し。


 うん。えっと。今、ヤれない女とか言わなかった? 言っ……てないよね。ヘイツがそんなこと言うはずない。あの純粋の塊みたいな……いや、純粋の塊に覆われたほの暗い何かを感じることはときどきあったけども。


 違う違う。それはないよ。絶対ない。


「ヘイツ様」


 呼ぶとすぐこっちを見るヘイツ。

 どうやら私に名前を呼ばれると、嫌でも反応してしまうようだ。ちょっと面白い。


「話しかけるな」


 やっぱり面白くはない。

 

「ヘイツ様」


「っだから」


「んぅぅない女ってなんです?」


 聞き間違いだと信じ、訂正してくれることを願い、聞いてみる。


「は?」


 今度はヘイツが首を傾げた。

 私は、落ち着くためにもう一口紅茶を飲んで、カップをそっと置いた。


「だから……ヤふぇない女って」


「アンタ犯したら殺すってフスタフに釘刺された」


 違わなかったわ。今私の心臓に釘刺さったよ。


「アイツに殺されるほど間抜けじゃねえけど。他人の女に手出すほど困ってない。アンタがいいって言えば別だが」


 釘でぐりぐりされてるよ。


「他人の女とは?」


 私は、平静を装った。平静を装うのは得意だ。顔だけは得意だ……から今は余り意味ないかもしれない。


「アンタ、フスタフの女だろ?」


「は?」


 どゆこと?


「無関心なアイツがあれほど執着するとはな」


「えっと何か勘違……」

 

 言いかけて、ふとよぎった考えに喉を閉める。


 これ。もしかしたら肯定しておいた方がいいのでは。

 その方がヘイツ油断するかもしれないし。兄弟の恋人ってことで近づきやすい上に、他の人を進めやすいのでは。


 どうだろうハムスター。私、生きた年数はおばさんだけども、恋愛年数は赤子なので。わからぬのですが。


 




『……』




 

 ハムスターがまるで本物のハムスターのように、一心不乱にひまわりを口の中に詰め込んでいる。

 ものすごく可愛らしい姿が、ものすごく憎らしい。


 



 もういい。とにかく。本題に流れをもっていかねば。


「ヘイツ様。お好きな女性のタイプは?」


 いったんハムスターに話を振ったことで、繋がりをまるっきり無視して話を切りだしてしまった。


「ああ?」


 冗談じゃなく、ビビるくらいに嫌な顔をされた。


 喉元まですいませんっが出て来たが、紅茶で押し流す。


「んっく。教えて頂ければ」


「俺にも色目使うってか?」「どなたか見繕ってここに連れてまいります」


 頑張って言い切ったが、何かとんでもない言葉と重なった。

 ヘイツからヘイツとは思えない言葉が飛び出し続けて、もうなんというかなんというか。


 女をなんだと思ってんだこのやろー……と言ってやりたいのも紅茶で流し込む。


 あっという間に一杯目がなくなったので、アヒルの分の紅茶にも手を伸ばす。


 ヘイツの眉間の皺が一瞬取れたが、すぐまた深く刻まれた。


 やばいぞ。ビビリワードや汚い言葉を言われる前にさっさと言いたい事を言ってしまおう。そうしよう。


 私は、二杯目の紅茶を全部飲み干して、ガツンっとテーブルに置き、二匹目のアヒルの紅茶をスタンバイした。


「私との面会時間を使って、是非素敵な女性と出会っていただければと。ただしヤ……誠実な面会を望みますが。自分の部屋でそういったことをされると、正直不快ですし」

 

 失礼だとかそういうのは考えないことにした。でなければ押し負ける。すべてを打ち負かすほどの教養とかないから、失礼対決するしかない。


「アンタの部屋じゃねえよ」


 そこじゃねえ!


「私の部屋です」


 強気な言葉とは裏腹に俯いてしまう自分のビビリ具合が情けない。


 椅子の音が鳴る。

 ヘイツが立ち上がる気配がした。

 私も反射的に立って、恐る恐る顔を上げる。


 と。

 すぐ真横。

 ヘイツが、ヤンキーが喧嘩売るときと似た体勢で、私を睨んでいる。


 何コレ怖い。

 でもきっとその瞳の奥には、かつてのヘイツが居るはず。一緒に過ごした日々が隠れているはず。怖いなんて言ってる場合じゃない。


「私はここ以外帰る場所がありません」


 震えそうな喉を、紅茶で潤して誤魔化し。

 割れそうな勢いでカップを置く勢いにまかせて、再び声を出す。


「ここは私の部屋です」


 私の。私のだ。


 ふと、かつての悪役魂が浮き上がってきた気がした。以前より弱弱しいが、まだ死んではいない。大根役者魂よ燃えあがれ。


「ですから、この部屋に入りたくば……えっと。

 ここの霊爵令嬢たちと向き合うことを約束してくだい。そうすればいつ何時きても、この部屋で何時間ぼーっとしてくれても構いません。約束しないなら、フスタフ様や陛下に頼んで二度と入れないようにして貰います」


「……」


 ヘイツの目の色があきらかに変わった。

 あと少し、少しでも声を発すれば殺されるのではないかと思うほどの恐ろしさに、私は息を止めた。


「ナニモシラナイクセニ」


 感情がない声に背筋をざらっと撫であげられる。


 このままだと、取り返しのつかないことに……取返し……もう戻れないのに……取り返せないのに。


「リリファリア!!」


 私は、己の名前を叫んだ。


 ヘイツの腕が、空中で止まる。

 あの腕で私に何をしようとしていたのか、考えたら終わりだ。


「様のことなら知っております」


「ナニを……」


 ヘイツの瞳が揺らいだ気がした。


 私は、昔のことを思い出し、今目の前に居るのは小さなヘイツなのだと己に言い聞かせた。

 

 何を知ってるかって、ほぼすべて知っている。リリファリアのこと……小さなころのことは知らないけれど。

 ここで過ごした日々のことなら。ヘイツが知るリリのことならば全部。


「彼女もここが帰る場所だった」

 

 何の意味も持たない言葉しか出なかった。

 それなのに。

 静かな殺気があっというまに霧散して……重く沈み込んだような気がした。


 私は……。

 やるせなさと紅茶の飲みすぎによるトイレ行きたさで、冷や汗が出た。


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