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悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる  作者: みやっこ
私が悪事を働くためには

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過去の夢ってことは回想だ

 私は今、あの懐かしき青い屋根の家のあの部屋。リリファリアが使っていた一番いいお部屋に居ます。

 ヘイツ、ウラガとはまだ会ってません。


 そして、ハムスターマスクは被ったままです。


 フスタフは、マスクは絶対とっちゃだめよとだけ言い残し、準備があるらしくどこかへ行ってしまった。

 

 これからどうするのだろう。ヘイツやウラガと会っても、何を言えばいいのかわからない。炎妃になるという話も、具体的には聞いていない。

 

 二人がリリファリアを好いてくれているのは理解したが。

 よくよく考えたら死んだ人を美化しているだけな気がしてきた。


 今の私が、生きてました~~と言って出て行ったとて、がっかりされるのではないだろうか。

 いや、まあ喜んでくれるかもしれないけれど……いやどうだろう。


 あんなことやこんなことをやらかした女が、普通に生きて出てきたら、文句の一つや二つや三つは出てくることだろう。


 とっても面倒臭い。とっても帰りたい。帰りたい。帰りた~い。


「……って」


 いつの間にか気軽に言えるようになった。


 前世で求めた場所は、ほんの少しの間。あの二人とこの場所で過ごした間だけ、確かにそこにあった。

 だからこそ私は、モフモフマリモの願いを叶えた。後悔に苛まれながら、苦しみながら、ようやく手に入れたものを壊したくなくて、私は……私の願いを叶えるために……人を……。


 あのときそうしなければ、あの日々も、帰りたい場所も、思い出すことすら出来なかったはずだ。


 私は終わった。想い出に浸りながら静かに生きるという卑怯な道を選んだ。


 なくしたから、今は気軽に帰りたいという言葉をつかえる。どこにあるかわからない場所ではないから。とっても軽く使えるのだ。


 大人になったってことかな。人より長くかかったけど。きっと……そうだよね。それとも老いたっていうのかな。


 あとはもう、ダラダラと毎日を過ごすだけで良かった。ユニたちのことはすごく気がかりだったけれど。

 牧場の人に倦厭されても、昔みたいに不器用を笑われても平気だった。


 みんなのおかげで。


 そう。みんなのおかげだ。

 今フスタフたちが困ってるなら、ちょっとは努力しないと。





『つまりはやるしかねぇ』





 だよねぇ。

 わかってるんだけど、昔ほど力が入らない。

   

「どうしたもんか……」


 ベッドの上にゴロンと仰向けに転がって目を閉じた。

 昔もここでさんざん悩んだが、もっと切羽詰まってたはずだ。


 体の芯がふにゃふにゃにでもなったように、力が上手く入らない。

 いざことが起これば、動けたりするのだろうか。自分がどうすればいいのか、どうしたいのか……わかるだろうか。

 

 掴みかけた幸せが、まだ部屋の中に漂っているような気がする。

 どこを見ても、目を閉じても浮かんでくる、二人との日々。


「……リっ」


「リ……リっ」


 ふと目を開けると、幼いヘイツとウラガが私を覗き込んでいた。





 ああ。これは夢だ。





「リリっリリ……大丈夫?」


 あの頃の……まだ子供のヘイツが心配そうな顔で私を呼んでいる。

 そういえば、頭が重くて体が熱い。喉も痛い。


「だいじょうぶ……ごめんっこんなんで」


 私は二人に謝った。

 二人が地下で暮らすことになって少し経った頃、それまでもベッドに倒れ込むことはあったが、完璧に寝込んでしまった。

 

 疲れがたまっていたのかもしれない。情けないことこの上ない。


 こうなるとしょっちゅうイファンが入ってくるため、二人は何度も地下へ隠れては様子を見に来るというのを繰り返している。

 申し訳ない。イファンにも申し訳ない。

 勘の良いミーキアが、やたら部屋の中を気にしていたからドキドキしたし。エーゼンが割と長めの大作を読んで聞かせてくれたのは……下で気配を殺す二人には申し訳ないけれど面白かった。


 みんないろいろやってくれるが、一向に体調は良くならず。


 ぼーっとする頭で二人に謝り続けていたら、ヘイツが不安そうに掛布団の端を握った。

 

「僕が癒しの力を使うから」


「やめとけ。ここでそんな大規模なもの使ったら居場所がばれる」


 何かやりかけたヘイツを、ウラガが手で制す。


「そんなこといってる場合じゃない。リリが死んだらどうるすんだ」


「ただの風邪だろ。死にはしない」


「なんでそんなことお前にわかるんだよ。城育ちの世間知らずのくせして、人は簡単に死ぬんだよ」


「ああ? よくそんなこと言えるな人殺し」


 私を挟んで喧嘩しないでほしい。

 いや。イライラするのはわかるんだよ。こんなとこに連れて来た本人が寝込んだりしてさ。でも……。


「あの……お二人さん」


「どうしたの?」「なんだよ」


 小さな声で呼んだのに、きっちり反応する二人。

 二人共いつも言い合いをしているが、周りが見えなくなるほど熱くなることはない。それはそれでどうかと思うが、今は返事をしてくれて良かった。


「熱が下がって動けるようになって、それから次のイベ……やらなきゃならないことが終わったら、深夜で申し訳ないけど、なんとか外に連れ出せるように努力するから……だからその」


「その?」「何? リリ」


 静かにして。

 ちょっと地下戻ってて。


 言いたいけど、言えない。体調崩して迷惑かけてる手前……言えない。

 

 私は、調子が悪いフリで、布団の中にもぐりこんだ。


 窮屈だ。

 子供とはいえものすごく窮屈だ。


 どうしよう。三人で暮らすって、結構きついぞ。まだそんな経ってないのに。

 ヘイツ一人のときは、割と気を遣って静かにしてくれて……気が付くと静かにこっち見ててそれはそれで窮屈だったけど。今は二倍窮屈だ。


 共同生活ってどうすればいいんだっけ。

 えっとえっと……えっと。わからん。


「やっぱり癒しの力をっ」


 布団越しに再び始まる言い合い。


「だからやめろっつってんだろ馬鹿!」


「邪魔するな」


「邪魔なのはお前だろーがっ」


「リリが死んでも構わないってんなら地下にひっこんでろよお坊ちゃん」


「てめえがひっこめ!」


 頭痛い。

 なんか気持ち悪いかも。

 トイレ行こうかな。

 どうしよう。

 下行って欲しい。


 ドっとベッドが揺れた。


 二人のどちらかが蹴ったか、それとも揉みあってぶつかったか。


 頭と胃がぐらぐら揺れる。


 駄目だ限界。


 私は布団から起き上がって、胸倉を掴みあっている二人を見た。


「あの……うっ」


 口元を押さえた。

 もうこれ以上動けない。やばい。お昼にイファンが持ってきて無理矢理口に突っ込んできた南国フルーツがリバースの危機だ。ミーキアがくれたゼリーとエーゼンがくれた栄養ドリンクと、オルレシアンがくれたのろけ話が……リバース。のろけ話はノーリバース。でも他がリバー……。


 涙目で二人を見た。

 二人共はっと顔を見合わせ、両脇から私を支え、すごいスピードで洗面所へ直行した。


 以下略。


 気が付くと、ベッドの上に寝かされていた。


 情けないが、助かった。


 その後。


 ヘイツとウラガは、やはり人の気配に気を付けながら、交代で私の看病を……といっても座っているだけで、何をすればいいかわからない様子だったが。

 三日間、なんとはなしに傍に居てくれた。


 咳が出て目が覚めると、ヘイツが……ウラガが居る。

 それはもう不思議な光景で、なんとも気まずい空間で、それなのに……。

 こみ上げる感情を、私は必死に押さえていた。


 呼んでも誰もこない。呼べば寂しい気持ちになる。

 だから苦しいときは口を閉ざす。辛いときは目を閉じる。そうすれば朝が来る。起き上がれるようになる。


 ここは違う。違うんだ。

 恐る恐る薄目を開けると、誰かが居る。声を出せば返ってくる。


 なんだろう。何だろうコレ。なんか……なんだろう。


 ずっとフワフワしていた。熱のせいだけではなく。何か暖かくて柔らかいものの上に心を置いてるみたいに、フワフワ。


「なに笑ってんの?」


 ミーキアに指摘され。


「みんなが好きだなって思って」


 ついポロっと零した自分でもなんだかわからない謎の言葉は、すぐさまみんなに広まった。

 おかげで、二人が地下に籠る時間が増え、みんな……が居る時間が増えたのは、嬉しくて申し訳なかった。


 私は、みんなを頼ったいくつかの出来事はなかったことにしたのを後悔した。知られてはいけない危険なことばかりだから、その方がいいはずなのに。後悔していた。


 すべてが終わったら。

 ちゃんと話して。謝ろう。自分勝手だけど。何言われるかわからないけれど。絶対そうしよう。


 なんとか立ち上がれる程度に回復した日の夜。

 

 私は、二人に、もう大丈夫だからと言う代わりに。


 地下のテーブルに三人分の食事を並べて、一緒に食事をしようと誘った。


 言ってすぐ調子に乗り過ぎたと後悔した……後悔してばかりだ。

 なにせ二人共、何も答えず、じっとこっちを見るばかり。


「あのえっと……全快パーティ的な……」


 私は、わけのわからない言い訳をして、またまた後悔して。

 何とも言えない状態で口を閉ざして笑顔を作ろうと奮闘した。


 すると

 ヘイツは遠慮がちに、ウラガは気だるげに席についてくれた。


 誰かと食べる食事は美味しいなんて思ったことないし、そのときも思わなかった。

 きっと二人も、食べにくかったことだろう。


 けれど私は、ほっとした。


 全員で苦手なことをしているこの空間に、今まで感じたことがないほどほっとして、泣きそうになった。

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