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悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる  作者: みやっこ
私が悪事を働くためには

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30/36

手痛い再会

 ベッドが激しく揺れた。

 いきなりの覚醒に激しく脈打つ鼓動。


 パチっと目を開けると。


 アイスブルーが間近に迫っていた。


「誰の許しを得てこの部屋に入った」


 奥底を撫でるような低音に体が痺れる。


 真っ白な髪が、サラサラと頬に額に落ちてくる。

 褐色の肌。鋭い瞳。

 面影はある。しかし全身から溢れるようだった透明感がどこにもない。アイスブルーに静かな憎悪を称えて私を見下ろ……私の上にのしかかっているのは……。


「…………」


 突然すぎる状況に声が出ない。

 何が起きた?

 なんでベッドの上……は私が自分で寝転がった。それでうとうとして。

 

 気が付いたら、上にヘイツが乗っていた。


「答えろ」


 胸に圧迫感。

 心臓の辺りを撫でられゾッとして起き上がろうとしたら、そのまま押さえつけられた。


「俺たちの気をひきたくて忍び込んだなら逆効果だぞ」


 突っぱねようと伸ばした両手は軽々片手で拘束される。


「相手ならいつでもしてやるが、ここは駄目だ。わかるよな?」


 甘い声音。しかし目の奥は鋭く冷たいままだ。


 何がどうなってこうなったの?

 

 考えることは出来ても、音に出来ず。口をパクパク動かし、必死に混乱を伝えようとしたら。


 唐突に体が浮いた。

 視界が回り、開きっぱなしのドアから誰か入って来るのが見えた。


「へっ?」


 ベッドからポイっと投げられ、宙を舞う体。


「うわっ!」


 入って来た人にぶつかるっ!


 と思いきや、華麗に避けられた。

 おかげで私は、床に落ちて転がり、壁にぶつかった。


「っ~~」


 幸い、ハムスターマスクをかぶっているので頭は無事だが、肩と腰がめちゃ痛い。


「なっ!? ヘイツ! 何やって! お嬢さん大丈夫ですか!?」


 声の方を見ると、先ほど入って来た白い服の男性が心配そうな顔でこちらを見ていた。


 私は、腰をさすりながら、上体を起こした。


 黒髪短髪。色白。白地に銀の刺繍が施された王子様っぽい服を着たイケメン男子……ウラガが、私を見ている。

 一見心配してくれてはいるものの、駆け寄ってくることなく、その場でじっとこっちを観察している。


 私は、あまりの歓迎ぶりに半眼で振り返った。

 ボロボロに破れた穴だらけの黒服に身を包んだヘイツが、もはや私になど興味がないと言わんばかりに、そっぽ向いていた。


 いやあ。二人とも元気そうでなにより。


 二人して背が高く、スタイル抜群なイケメンになっている。こうして近くで見るとますます二人なのだと実感がわいた。見た目だけ、わいた。


 喜ばしいことだ。望んだ通り、いや、それ以上の姿に感極まるものがある。

 あるにはあるが。


 私は、ぺこぺこ頭を下げながら後ずさった。


「ま……間違えました~~」


 私の一言で、明らかに二人の顔色が変わった。のはわかったが、あとは何もわからない。何一つとしてわからない。


「昼寝してたらこんな場所に迷子に。すぐ帰りますので。私の部屋はどこかしら」


 大好きな二人にまた会えた。

 はずが、一刻も早くこの場から離れたくてしかたない。

 

 エビのようにバックして脱出しようとしたら。


「うっ」


 何かにぶつかった。いや、感触的に、誰かにぶつかったようだ。


 今度は誰が入って来たの?


 怖くて振り返れず、進退窮まれり。

 フェイドアウト諦めモードになりかけたところで。

 

「ちょっとあんたたち。レディの部屋に許可なく入るなんて失礼でしょ」


 肩に大きくて暖かな手がポンと乗った。

 

 ナイスタイミングフスタフ。


 私はほっと一息、肩の力を抜いた。足の力も抜きそうになったが、そこはなんとか踏ん張った。

 

「レディの部屋……ここがですか? フスタフ兄上」


 耳慣れない丁寧な敬語を使うウラガ。


「聞いてねぇ」


 あり得ないほど柄の悪いヘイツ。


「言ってないもの。そもそもこの部屋の使用許可二人に取る必要とかないし。伝統にならって、器の広い子に与えただけよ」


「ああ?」


 ヘイツがドカドカ足音をたてながら近づいてくる。

 その様子はさながらチンピラのようで、しかし見た目が神秘的な麗しさであるためか、ギャップがひどい。


 ウラガの方は、不満げに眉を顰めつつも、その場を動かない。


「わかってんだろ。ここはっ」


「ここは。器の広い霊爵令嬢のために用意されている部屋よ。それ意外の意味はない。あんたらが勝手に入り込んでるのは知ってたけど、今日からはこの子……この……モフ……モフコのだから」


 モフコっ!?


 どういうことだと振り返ったら、フスタフは自分で言ってウケたのか、笑いをかみ殺していた。


 意味が分からない。

 せっかく二人に会って……。いきなりぶん投げられたけども、それで恐ろしくなって逃げようとはしたけども、フスタフが戻って来たから、実は生きてたんだよ~って話をすると思ったのに。


 一人で説明するのは無理だけど、説明してもらうならなんとか耐えられるかなと安心しかけていたのに。


 モフコってなんぞ。

 っていうか私またここに住むの? なんかそういうふうに聞こえなくもなかったんだけど。


 状況がわからないから何も聞けない……。


 私はモヤモヤした気持ちと戦いながら、腰をさすった。


「お嬢さん。どこか痛めましたか? 医務室へ行った方がよろしいのでは」


 ウラガが、胸に手を当て、申し訳なさそうな顔をした。昔は、子犬みたいで可愛かったが、今のイケメンスタイルでその顔をされると、なんだか妙な気分になる。


「黙れ潔癖童貞。今大事な話してんだ」


 ヘイツがとんでもないことを言った。


「うるさい。ゲス色情狂。暴力振るったことを謝れ」


 ウラガも負けていなかった。


「……」「……」


 一拍置いて、二人同時に、腰の剣に手を伸ばす。


 抜刀はせず。が一触即発だ。


 相変わらず仲が悪い。けれど、何かが違う。違いすぎる。


 まさか喧嘩で刃物に手を出すなんて……冗談……。


「お前ら……リ……モフコに何かしたのか?」


 思いもよらぬ伏兵が登場した。


 もう嫌だ。嫌すぎる。

 後ろから怒りのオーラを感じる。オーラとかわからないけど、でも何かただならぬものを感じる。


 フスタフは善良な常識人じゃなかったの? 




『常識人の男ってミニスカ履くの?』




 いや。履かねぇな。


 私は、さりげな~く腰に当てていた手を太ももの横に戻した。それが逆効果だったのか。

 フスタフに腕を引っ張られた。


「っひぎゃ」


 前に出て構えるフスタフ。


 あっという間に三つ巴。綺麗な三角が出来上がった。


 フスタフのミニスカからスラリと伸びた足がとっても綺麗だ。パステルグリーンのヒールも可愛い。どこのメーカーだろう。





『じゃないよね』




 

 じゃないよ!

 

 ハムスターの突っ込みで現実に戻った私の脳裏に、ふとフスタフの包帯姿がよぎった。

 妖精一族の兄弟げんかは、私の知っている兄弟げんかとは規模が違う。


 怪我……駄目……絶対。


 私は、フスタフの横をすり抜けて三人の丁度真ん中に進み出た。


 止めなければ……。


 眩暈がするほどの気迫に目を瞬いてしまう。

 ここがかの有名な、船とか飛行機が消えるっていう三角地帯……。




『じゃなーーい』




 はい。じゃないです。


「ちょっ……モフコ」


「はいっモフコですっ」


 私は、どうやらリリファリアじゃない。だからもう悪役でいる必要はない。

 悪事などしなくてもいい。


 ならば誰も怪我させたりしない。あんな恐ろしい思いは二度とごめんだ。


 気合を入れ直して息を吸い込み。


「お三方。私、幸い怪我などしておりませんので、謝罪も心配もご無用です。あと私、別にこの部屋でなくとも構いませんので」


 空気を読んでひとまず別人のフリをした。さっきの迷ってしまった発言はまるっとなかったことにした。

 

 するとまた、二人の表情が変わった。


「やっぱりだ。声……が」


 ウラガが呟いて構えを解き。

 ヘイツの持つ鞘から、抜きかけた剣が滑って、床に落ちた。

 

「リリ……」


 どっちが言ったのかわからなかった。二人共が言ったのかもしれない。

 刹那に感じた暖かな空気は、かつてのものと似て……似すぎていて。


 違う。戻った……わけじゃない。モフモフマリモはここには居ない。それなのに……。ここは……この部屋は……。


 私は、足に力を入れた。

 何か言わなければ。声を出さなければ、自分がどこに居るのかわからなくなりそうで。


「お……落ちましたよ。ヘイツさっ」


「もう一回呼んで」


 ヘイツが、目を閉じてそう言った。


「もう一回?」


「名前。俺の名前」


「は?」


「呼んで」

 

「え……っと……ヘイツ……様」


 さっきみたいに突然ぶん投げられたら困ると思い、言われた通りにした。あまり何も考えずにそうしてしまった。

 瞬間。

 

 腕を掴んで引きよせられ、ヘイツの胸に額をぶつけた。


 すぐ傍で吐息が聞こえる。


「もう一回」


 懇願する声に、背筋が反り返る。


「あっあの……ヘイツ様っちょっとっわっ!」


 脇腹に白い柄が当たった。

 振り返ると、ウラガが剣の柄でヘイツの腹を押し、私から遠ざけようとしていた。


 これまた喧嘩になるのではっ。


 二人に挟まれ、どぎまぎしながら様子を伺うが。


「……ん?」


 二人共心ここにあらず。熱い瞳で私……の中の外の……どこか遠くを見つめている。私を見ているのに、目が合わない。


「似てる。彼女に……声が……響く……唯一の声……存在が……」


 ほんの一瞬。ウラガの周りに光が現れ、消えた。


 妖精一族はたまにこうして、感情に任せて力を発現させることがある。ウラガはそういうのが多い子であったが……未だに……。

 頭を押さえ、己を静止するように首を振っている。


「違う……でも似てる……駄目だ」


「ね。もう一回」


 二人が、距離を詰めてくる。

 横に逃げようと考えた瞬間、二人、示し合わせたかのように左右、足を出して逃げ道を塞いだ。




『挟まれたっ』




 私はパテじゃな~~い!




 ハムスターはまだ何もしていない。

 ハンバーガーでも食べ始めるだろうと先読みして宣言したら、ものすごく驚く後ろ姿だけが見えた。



 

 もう。何年一緒に居ると思ってるの? もはやハムスターの行動くらいわか……助けて。


 マスク越しとはいえ、右耳も左耳も熱い吐息に支配されて叫びたい。

 私は、冷静になれと己に言い聞かせ続け。


「冷静になれっ!」


 いや、普通に声出してた。

 己の立ち位置も考えずにわーわー騒いでいたら。


「っわ」


 逞しい腕にひょいと持ち上げられた。


「ちょっと二人共。気安くモフコに触れちゃだめだからね。この子は今現在、あなたたちの嫁第一候補なんだから丁重に扱うこと」


 おもちゃを取り上げるみたいに私を高く掲げるフスタフ。

 二人の殺気が一瞬にしてふくれあがり……しかしプラプラしてる私の姿を見た途端、すぐさま萎んでいった。

 

 うん。あからさまにガッカリされた。


「もう。ほんと。冷静になりなさいよね」


 プンスカ可愛らしく起こりながらも、私を抱く腕力が強すぎる。いきなり兄弟げんかしようとする弟たちに怒っているのなら、おまえもじゃーーと言ってやりたいが、助けてくれたので良しとしよう。


「っ……」


 ヘイツとウラガは、果てしなく不快そうにお互い距離をとった。だいぶ取った。ウラガなんてちょっとえづいて口元を押さえていた。


 大丈夫だろうか。


 ヘイツはあからさまに舌打ちして。


「なんだって?」


 落とした剣を拾い上げ、荒々しく鞘にしまった。

 さっきの態度と行動はなんだったのか、ものすごく普通のトーンだ。


「だから。モフコは、ここで一番器が広いからこの部屋に住むし。恐らくあんたたち、どちらかの嫁になる」


 あ~~そうそう。そんな話でここに来てるんだよね私。それはまあわかってるんだよ。了承した覚えはないけど。まあ理解はしてるんだよ。でもさ。

 どゆこと?


「私は……妻を娶るつもりはありません」


 え。

 っていうかさっきのはなんだったのさ。二人共。


「俺もいらねぇ」


 おいお~い。


「死人を待っても意味ないわよ」


 フスタフがきっぱり言い切ったその言葉に、私だけが息を飲んだ。

 

 死人。

 と呼ばれてる張本人ここに居ますよ。

 

「まだ生きてる」


 ヘイツがしれっと当然のように言った。

 

「私の中で、彼女は永遠のままです。これからもそれが変わることはないでしょう」


 ウラガが落ち着いた声で補足した。


 二人のまっすぐな目は変わらない。純粋で美しく、翳りがある。

 すっかり変わり果て、成長した二人は……変わらない。


 変わってない。


 ああ。おう。うう。


 重い想いが、今現在ここに居る私を素通りして、過去の私に向けられている。当時は気付かなかったけれど。ものすごく…………アレだ。それはわかった。理解だけはした。

 何度も否定しようとしたけれど、無理だと諦めた。


 が、しかし。


 フスタフはどういうつもりで、私をここに? 正体をばらすでもなく、二人の炎を強くするために、炎妃になれとか、おかしいぞ。


 どういうことだ。


「あっそ。じゃあこの部屋は使っても構わないでしょ。リリファリアはこの部屋じゃなくてあんたたちの……あれよ。胸の中か何かにいるんだから。ね」


「っな!」「てめぇ」

 

「次ここに来るときは前もって許可取りなさい。

あとヘイツ。ここは娼館じゃないんだぞってエイラスが怒ってたわよ。ウラガはもっとちゃんと女性……人と向き合えってさ。何かを求めるなら、求められるようになりなさい。はいっ出る出る」


 名言のようなものをオカン口調でサクサク告げたフスタフは、私を床に降ろし、二人の背中をばんばん叩きながら、ドアの外へ。

 

 あっという間に廊下へ出された二人は、あっけらかんとしたフスタフの態度に気がそがれたのか、無言で背を向け、ウラガはピンと背筋を伸ばし、ヘイツは猫背気味で、お互い違う方向へ歩いて行った。

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