回想その14
ウラガが見つからない。どこにも見つからない。
物語冒頭が城内スタートだったので、簡単に入れると踏んで尋ねたら、門に立つ使妖精に怪しまれて入れて貰えなかった。
霊爵令嬢が王族に取り入ろうとしてると思われたらしい。
仕方なく、城内の周りなど近場を見て周ったが、影も形も見つからず。
そんなこんなしてる間に、次のイベントに突入してしまい、今現在、何の準備もせず現場に出向くという、なかなか緊張感高まる展開になっている。
出番だハムスター。せめて情報整理をしよう。いつもしてるけどあれやると結構落ち着くから今もしよう。
夏の日差しを避け、白木の街路樹に身を隠した私は、汗をぬぐいながらハムスターを呼んだ。
『はーい』
ハムスターは、顔部分の毛以外を豪快に刈上げた奇妙な姿で、アイス片手に登場した。
『イファンとエイラスはもういくつかのイベントを経ているはずだけれども、リリファリアにとっての第二のイベントはコレだよ。
第一位婚約者候補であるリリファリアに贈り物でもしなさいなと、母親に言われたエイラスが、仕方なく街へ買い出しに行った際、イファンと偶然出会い、プレゼント選びという名目で、二人して街を散策する。
それを偶然……ということに作中はなっていたが、その場に居合わせたリリファリアは、嫉妬にくるい。
暗がりにたむろっていた男たちを金で釣り、イファンを襲わせる。
これが結構ひどくて。
イファンはいきなり口を塞がれて暗がりに連れ込まれ、足を引っ張られて引き倒され、それでもめげずに抵抗して抵抗して、かすり傷と打ち身をたくさん作って、恐怖に震えあがった頃、ようやくエイラスが登場してくれるという。
イファンが頑張ったからか、服を破かれたりってのはなかったけれど。
心に傷を負うには十分な事件だった』
ハムスターが、説明するだけしてダラダラ歩き去った。暑いのは私なのに、脳内も暑いのだろうか。
私は、ジュース片手に道を歩く観光客たちを恨みがましく見て、ため息をついた。
リリファリアよ、本当にこれしか方法がなかったの?
『婚約者候補第一位の妹という気づかいから距離を置きまくっていたエイラスが、ようやく自分の気持ちを自覚するっていう大切なイベントだよ』
ハムスターが、天の声よろしく、姿も見せずに答えた。
真面目で誠実な二人をひっつけるにはこれぐらいしなければならないと?
『…………』
何も答えてくれない。
はいはいわかりましたよ。やりますよやります。
やるしかな……。
私は、苦悩しながら、目標物……人に近づいて、口を開いた。
「あの~」
路地裏に居る男たちに呼びかける。
イファン視点でプレイしていたときはまったくもって考えなかったことだが、リリファリア視点の初動はコレ。
チンピラを雇う……だ。
「あの~~」
少しボリュームを上げて再び声を掛けると、スキンヘッドとモヒカンが私の方を見た。世紀末……じゃなくて、前も思ったけれど、聖都なのになぜこんな悪そうな人たちも入れているのだろうか。
妖魔に憑かれてさえいなければいいというのなら、心の強い悪人がガンガン入ってきて、心の弱い善人は追いやられるばかりなのでは。
「ああ?」
思いのほか高い声のモヒカンが、チンピラ歩きで近寄ってきた。
私は、男を見上げ……たら怖いので更に上……ほぼ白目をむいて、唇の端を持ち上げた。重い……重くて顔ひきつる。
「ちょっと頼み事があるのですけれども。よろしいかしら」
「ああ?」
もう一人のスキンヘッドもこっちへ来た。
なんだこいつ。気持ちワル。
という二人の声が聞こえたけれど聞こえないフリだ。
「タダとは言いませんのよ。引き受けてくれたらそこそこの代金をお支払いいたいたたしますわ」
私は、膨らんだ財布を取り出し、前に突きだした。
ブツを見せれば目がくらんで言うことを聞くだろうと……考えてのことではなく、間がもたなくてそうした。
すると
「きゃっ」
財布ごと手を掴まれ、しかも引き寄せられ、スキンヘッドの胸に激突。両腕でがっしり拘束されてしまった。
汗臭くて気持ち悪い。
「金くれるってよ」
財布を取り上げられた。抜け出そうともがいてもまったく歯が立たず。声も出なかった。
あっという間に私ピンチ。
自ら飛び込んでピンチ。
どうしよう。
「ぎゃっ」
体が浮いた。男二人に運ばれていく私……。
一体どこへ。
ものすごく怖いはずなのに、なぜかさっきより冷静だった。まるで他人事のように……いやいやそんなんじゃだめだ。
私は周りを見渡した。
右左……上だ。
モフモフマリモが、背中の角を私の方に向け、屋根の上からダイブした。
そうだ。この手がある。私にはマリモが居るのさ。
いざ! 戻ろうぞ!!
「そっちじゃねーよっ」
がしかし、男二人が方向転換したため、モフモフマリモは地面にぶつかってボヨーンと跳ね、背中ではなく顔面から私に激突……
「あれ?」
私にぶつかったはずのモフモフマリモが消えた。
ぶつかった瞬間消え去った。
通り抜けたのかと思ったけれど、どこにもいない。
頼みの綱が消え去ったことで、焦りが生まれ、手足をばたつかせようとしたら……
「ぐっ」
喉の奥から声が漏れた。
なんだか息苦しい。熱いから……じゃない。
耳の奥で何か聞こえる。血の流れる音。鼓動。
女の人の声。
全身が氷のように冷たく、けれど心臓だけが熱い。燃えるように……。
「熱いっ」
私は、男たちに捕まれている手足を軽く動かした。
瞬間。
「ぐわっ!?」「どふっ!!」
私を拘束していた男二人が人形のように吹っ飛び、壁に激突した。
あれ?
色、音、匂い、何もかもが変。けれどすべてがクリアでスッキリしている。
体が軽い。なんでもできる気がする。
「おまえっ一体何したっ!?」「っな!! お前っ!?」
モヒカンとスキンヘッドがフラフラ立ち上がり、私を指さして声を荒げた。
私は、恐怖に震える二人を見て、なんでかニッコリ微笑んだ。簡単に笑えた。
この世の終わりみたいな顔で、ヒっと叫び後ずさる二人。
あ。行かないでよ。
調子に乗って一歩、前に踏み出そうとしたら、モヒカンの後ろに居る誰かと目が合った。
いや、誰か……じゃない。暗い窓ガラスに映ったリリファリア……自分の姿……のはずだけれど。
あれ? なんか髪伸びてない? これ誰? ん? 角……角?
短かったはずの髪が、腰のあたりまで伸びて途中からピンク色になっている。それに、背中から角らしきものが生えているような気がする。体の角度を変えたら先端がチラチラ見えた。
なんじゃこりゃ……なんっ……えっあれ!? 私が大男二人をフっ飛ばした? 髪伸びた? 角生えた? なんか周りの景色ちょっと変だしっ。
「こっ……こっち来るな妖魔獣っ!?」
モヒカンが私に財布を投げつけ、スキンヘッドが懇願するように頭を下げた。
「なんでも言うこと聞く! っちっ近寄るな!!」
大男二人が震えている。震えながら何でも言うことを聞くと言っている。何がどうして形勢逆転したのか、わかるようでまったくわからない。
私は、大混乱……を一時的に引っ込めて、押し込んで、奇跡的に当初の予定通りの台詞に近いものを吐いていた。
イファンを暗がりに連れ込んで襲ってるフリをしろ。フリだ。絶対フリだ。フリだからな。でも迫真の演技をしろ。相手はものすごく鋭い。本気でいけ。本気でフリをしろ。出来なければ妖魔を憑けるぞ。日ごろの行いが悪い子には妖魔なんてすーぐつけられるんだからね。ほほほ。
たぶんぼっこぼこにされるだろうけれど、逃げられるから。ゲームではそうなってたから……いや今のはなしで。ほほほ。
とにかく見張ってるから。ちゃんとやるのだぞ。ほほほ。
と説明してすぐにピーンと何かしらの気配を感じ、表の通りを見たらイファンとエイラスの姿を発見した。
私は、あの女だからねと二人に念押しして、走って逃げようと地面を蹴った。
すると
「ぎゃひっ!?」
ひとっ跳びした。
世界新記録。
私は、散策するイファンとエイラスの真上を飛び越え、道の向こうにあった繁みの中に、一回転して着地した。
その衝撃で……なのか、ボヒョンっとモフモフマリモが私の中から飛び出してきた。
私の……中から……………!?
一体何がどうしてどうなってこうなったの! 今のは何!?
驚きすぎて声が出ず、目で訴えかけた。しかしモフモフマリモも混乱しているようで、私を見たまま静止している。
脳内のハムスターも驚いてアイスを落とした。
まさか誰も今のが何かわかってない?
超能力とか。髪の毛どうしたとか。角が生えた部分の服はどうなった……ってそんなのはどうでもよくて……スーパーリリファリア……でもなくて。
「角で刺したらタイムリープで合体したら超能力とかそんなオプションついてるの?」
元々リリファリアというキャラは、妖魔に憑かれているという設定で、こんなスーパー能力を影で使っていたかどうかはわからないが、何匹か妖魔を従えていた。
私には何にもないと思っていたが、このモフモフマリモが、たった一匹だけれどもリリファリアに従ってくれてる妖魔で、その力が角タイムリープと調スーパー合体……じゃあ私って実は妖魔王に憑かれてるの?
「う……うう~う~~ん……」
ない。憑かれてる感ない。疲れてる感ならすごいある。
まったく悪意がないとは言わないけれど。人間らしいねって程度の悪意しかないと思う。
ひょっとして妖魔王に憑かれていないのに味方してくれる妖魔が居るとか?
二匹ともが首を傾げている。ここへ来て初めて、三人の気持ちが一つに…………。
違う違うそんなんじゃなくて謎増えてるって。怖い怖い怖い。ないないない。
頭を抱えてうんうん唸っていると。
「いやあああああああっ!!」
悲痛な叫び声がした。
ハっとして茂みから顔をのぞかせると、支払いしていたらしいエイラスが店から飛び出してきて、声がした路地裏へと駈け込んでいくのが見えた。
ゾっとした。
今の叫び声で、つま先から頭のてっぺんまでが一気に冷えた。
バクバクなる心臓を押さえて路地裏を見ていると、さっきのモヒカンとスキンヘッドがボロボロの状態で走り出てきた。
その数分後。
何事かと集まる人混みの中、イファンを抱き上げたエイラスが表通りへ姿を現した。その瞳は怒りに打ち震え、野次馬の誰一人として声を掛けられないほど殺気立っていた。
腕の中のイファンが、目を閉じている。
力をなくし、だらりと落ちた腕から一筋の血が……。
私は、走って逃げた。
何も考えず、ただひたすら走って走って、走り続けた。




