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悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる  作者: みやっこ
私が悪事を働くためには

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回想その13

 目が覚めたらもう次の日になっていた。

 どうやってここに戻ったのかはわからないけれど、ワインの染みた服は着たまま布団をかぶって寝ていた。

 ふらつく体でパーティホールの裏庭に行ってみたが、ウラガは居なかった。一日経ってしまったんだから当然だ。


「モフモフマリモっ。戻ってほしいんだけど」


 その場で何度か呼びかけると、ピンクのマリモが姿を現しはしたが、静かに首を振って消えていった。


 断られた。


 モフモフマリモが戻りたくないってことは、イファンとエイラスのドレスイベントは成功したということなのだろうけれど。

 

 駄目だ。まったく喜べない。


 のろのろ部屋へ戻った私は、額を押さえて瞼を閉じ、暫しベッドに突っ伏した。


 どのみち無計画な考えだった。それに……既にヘイツを……救わない選択を……救わないんじゃない。私にはそんな力ないだけだ。救えないんだ。


 ……情けない。


 自分は一体何をやっているんだろうと、何度も何度も考えては、ふつっと思考が途切れる。

 次のイベントの準備もしておかなければいけないし、最悪エンドの回避の方法もまだわかってない。


 先の先のことでいっぱいいっぱいで、一番大事なことを見過ごしてるような、喉に何かつっかえた感がずっとある。


「うぅ……でもウラガはまだ城内には居るはずだし、どこかで会うかもしれないし……」


 私は、貯めていたお金をいつ何時彼に出会っても大丈夫なように持ち歩くことにして、まだ諦めたわけじゃないんだよと、己に言い聞かせることでなんとかベッドから起き上がった。

 それと

 ミーキアとエーゼンにもそれとなく……いや、かなり真剣に、役に立ちそうなコネクションがないか聞いてみた。

 ダメ元で。


 すると

 

「ああ。うちの郷、ちょっとくらい訳アリでも若者なら受け入れるわよ」


 あっさり。ミーキアが首を縦に振った。


 なんてこった。


 あまりにあっさりすぎて紅茶を噴出しそうになった。


「俺いろんなとこ旅してる器用なヤツ知ってるぞ。使妖精使えばすぐ連絡取れる」


 しかも、丁度エーゼンに会いに来たらしいオルレシアンが、さくっと会話に入ってきてそんなことを言うもんだから。

 私は吹きかけた紅茶を飲み込んで、手の甲で口を拭った。


「二人ともマジで?」


 お嬢様的には相当乱暴な口調が出たけれど、二人共気にした風もなく、頷いた。


 なぜかエーゼンの表情はあきらかに沈んでいるけども。

 中庭でお茶しましょうと誘ったときは、ものすごく嬉しそうだったのに。


 オルレシアンは、項垂れたエーゼンの肩に手を置いて、私を見た。


「で? 今度は一体何をしようとしてるの?」「そういやあんたこの間のパーティで面白いことしたってな」


 ミーキアとオルレシアンの言葉が被った。

 ミーキアはツンと彼を睨んだ。オルレシアンはどこ吹く風だ。代わりにエーゼンがペコっと頭を下げ、ミーキアが呆れたように肩を落とした。

 エーゼンの顔色が一層悪くなり、オルレシアンはその様子をニヤニヤ見ている。


 そういえばこの男、一体どういう人なんだろう。


 フスタフと似たつかみどころのない雰囲気ではあるが、フスタフと違って裏表なさそうな清々しい笑顔……でエーゼンを困らせるオルレシアンなる新キャラ。

 夜はパンクバンドのボーカルしてるけど、普段は工事現場でしっかり働いてますって感じの、派手だけどどことなくしっかりしてる風な……なんだこの例え……。


「何しようとしてるっていうか……その」


 ミーキアはともかく、彼は妖精一族だ。素直に話して上に報告されたら即終了、王子誘拐陰謀罪で投獄エンド。

 でも、彼の提案が事実ならば、おいしいのも確かだ。

 もう少し話しを進めてから判断してもいいだろうか。


「悪い事を企んでいるわけじゃないので、そのコネクション貸していただけませんでしょうか」


 私は、頭を下げた。

 もうそれ以外浮かばず、ある意味素直に言うしかなかった。

 

 期待せずに返事を待っていると。


「いいわよ別に」


「俺もいいぞ。声かけてくれりゃソイツに連絡するわ」

 

「えっ……マっなんで?」


 誰をどうしたいのかとか、どういう目的なのかとか何にも言ってないのに、出会って間もない二人がOKする理由って一体。


「うちはどんなでも人手が欲しいのよ。妙な奴でも別にいいの。変態ジジィと世話焼きババァばっかだし腕っぷしはそこそこたつから自衛も出来るし……まあリリだとそういう心配はないか」


「とにかくエイラスとイファンをくっつけたいんだろ。まあアンタも好きでもないヤツと器がどうので結婚するの嫌だろうし。やりきった後の逃亡なら協力するぞ」


 ミーキアとオルレシアンが訳知り顔で私を見た。


「ど……どういうことですの?」


 エーゼンだけ困った顔でキョロキョロしている。


「いやああの……別にエイラス様とイファンをくっつけたいとかじゃ……あの……」


 なんのためにワインをぶっかけたのかばれてる&何か勘違いされてる。いや、勘違いでもないか。やりきった後の逃亡は考えなきゃいけないし……でも。


「あんな不自然にワインぶっかけて、後々イファンが綺麗なドレスで現れたんだから、そりゃわざとってわかるでしょうよ。まああんな服着てたのと、馬鹿三人が絡んで来たのは想定外だったんでしょうけど。あの返しは面白かったわよリリ」


「う……わざとなんかじゃ……ありませ……」


「っははっフスタフと組んでたんだってな。次は俺も手伝うから面白い役まわしてくれな」


「えっ!? ああ……え……はい」


 どういうことだ!?


 わけがわからなすぎて曖昧な返事をしてしまった。

 フスタフと組むってなんだろう。誰から聞いたことだろう。いや誰からって、この間のあれからしてたぶんフスタフ本人っぽいよね。


 何が起きてるの?


 ハムスターと相談したいけれど、今、間をあけすぎるとよくない気がする。

 とにかくこの話はこの話で進めて、後で考えるしかない。


「えっとその。じゃあそれをしてもらうにあたって費用とかいろいろいかほどでしょうか。ローンはきくでしょうかっ……うぶ」


 具体的に話を進めようとしたら、ミーキアに両ほほ掴まれた。


「ぇうっなひ?」


「なんかやっぱ腹立つ」


「えっなんれっ?」


「知らないリリの馬鹿。部屋帰って一筆書いてくるわ。それ持って郷に行けば入れてくれるように連絡しとくわ。じゃ」


「ええっ? ちょっとミーキアっ」


 ミーキアは、紅茶を飲み干して、カップを勢いよく置くと。背を向けてさっさと行ってしまった。


「あぁ……うぅ」


 私は、浮かしかけた腰をおろした。

 どうやらまた怒らせてしまったらしい。


 横でエーゼンがちょっと震えている。

 

 今のやり取りが怖かったのだろうか。

 

「…………えっと」


 微妙な空気が流れる中。


「んじゃ俺もそろそろ行くわ。じゃーなリリちゃん。エーゼンも」


 オルレシアンが、隙だらけのエーゼンの頬に思いっきりキスしてから、妖艶な笑みで私にウインクして、ヒラヒラ手を振り去って行った。


 私は、あっけにとられた。口じゃないのになんかすごいキスだった。


 ポカンと、逞しい背中を見送って前を見ると。


 エーゼンが、白いテーブルに突っ伏していた。

 耳が真っ赤だ。


 あ。そうだよね。リアルにあんなの恥ずかしいよね。死にそうだよね。よかったそういう普通の態度で。今のがこの世界の常識……乙女ゲームだからありかもしれないけど、みんながみんなあれを受け入れている世界じゃなくてよかった。


「あの。別に気にしてないからね。二人のやりとりとか。ね?」


「そんなふうに言ってもらえるとありがたいです。あんなことっ……やめて欲しいのに……どれだけ逃げても追いつかれるし、私存在感がないってよく言われるのですけれど、どこに隠れても見つかるのです。妖精一族怖い」


 いつも自信なさげに話す彼女がとても早口だ。

 

「悪い人ではないと思うけどね」


「はい……でも苦手で……でもあの人だけじゃなくて私……人が苦手なんだって母には言われてて……。だから、ああして近づいてきてくれる人が居るなら……克服はしたいなぁと……でもでも」


「あのスキンシップはちょっとねぇ」


「そうなんですっ! 普通に話をしてくれればっ……こんっ……こんな風に…………あの……この間も今日も……ありがとうございます。リリファリア様。わたっ………私、双子コーデ……嬉しかったです」


 エーゼンが、大きな目を潤ませながら、微笑んだ。


 その瞬間。


 なぜだか。今抱えているすべての真相を、この場でぶちまけてしまいたいという謎の衝動にかられた。

 けれど、すぐ引っ込めた。

 

 もたれ掛かったら駄目だ。再びもたれ掛かろうとしたとき、すごく痛い目に遭う……から……


 ん?


 痛い目ってなんだろ。




『眼科行く?』




 あからさまなボケは無視。




『っ!?』




 近頃自問自答が多くなったような気がする。自分の行動を見直す必要があるから、自然とそうなってしまうのか。ハムスターとコミュニケーション図るうちにそんなくせがついたのか。

 

「こちらこそ。ありがとう。それに、こうして一緒に居てくれて私も嬉しいよ」


 ぼんやりした頭でお礼を言ったら、ポロっと普段言わないようなことを言ってしまった。

 エーゼンは顔も手も腕も、全身真っ赤にして。


「そっ……あのっまっ……またっお茶したいですわっリリファリア様」


 大声でそう言った。


「はっいっ是非」


 私は、考え事を投げ捨て、強く頷いた。

 エーゼンの背筋がぐんと伸びて、長い髪がツヤツヤと太陽光にきらめいた。

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