旅の途中
一行は旅の途中で思わぬ敵と遭遇する。
一行はアルデンを離れてジャバイジャへ向かった。御者を務めるウラヌスがまだ慎重なのでゆっくりしたペースだが、ロバに比べればずっと速い。本気で走ったら風を切るようなスピードだろう。馬車の中も荷車より快適だ。マミヤは相変わらず移動中は寝転がっている。
「ジャバイジャの治安はどうなんだ!」
馬を手繰りながらウラヌスが叫ぶ。
「マジュラがいた町だし、武器商人? がうろついているらしいから、アルデンと比べるとだいぶ悪いでしょうね」
「ってことは、この馬車が襲われる確率も」
「ええ、かなり高いでしょうね」
「デイジーは傷つけたくないな」
「バカヌスは頑丈そうだから、大丈夫でしょ」
「その名前で呼ぶなって!」
初日は何事もなく日が落ちた。道中森と呼べるようなものはなく、狩人としての僕の出番はなかったので馬車に積めた食料を食べた。
「休んでいる間、僕も御者の練習しようかと思うんだけど」
「まだ早いな。馬が俺達に慣れていないし、御者で手繰り損なうと馬車ごとひっくり返る恐れもある。俺が御者台で手繰るのを見て勉強してな」
実は御者をやってみたくてしょうがないのだが、ウラヌスの言う通りにした。
二日目。見渡す限り延々と荒野が続いている。集落や町はともかく森林さえ茂っていない。この辺りには動植物が皆無なのだろうか。
異変が起きたのは昼過ぎだった。
「おでましだな」
ウラヌスが呟く。見回すと明らかにこちらへ向かっている馬車がいる。馬車は三台。大がかりな集団だ。
マミヤがむっくりと起きあがった。
「止められたらウラヌスは御者台から下りて手は出さないで。テツは後方で構えていて」
他にも相手の出方に応じた作戦を打ち合わせる。
バカヌスのひく馬車はあっという間に囲まれた。
馬車から降りたマミヤは先頭に立ち、相手の出方を窺う。
「なんだあいつは」
ウラヌスが思わずつぶやいた。
馬車から出てきた三人組の中央に立った男の化粧だ。白粉を顔に塗りつけ、目の周りは青、頬は赤く染めている。
「変装のつもりのようね。さぞかし名の知れた賞金首なのかしら」
マミヤがウラヌスの問いに答えた。
「ずいぶんこじんまりしたパーティだな。ろくな収穫はなさそうだが、とにかく馬車の荷物を全部よこせ」
変装した男が言う。見た目に合わぬドスのきいた声だ。
「おたくの馬車の中はさぞかし豪華のようね、ピエロさん。是非見せてくれない?」
三台の馬車に乗った連中がそろって笑い声を上げる。
「姉ちゃん状況わかってんのか。見たところ武闘派は御者のデカブツだけみたいだが。それとも馬車の中に用心棒がいるのか」
ウラヌスは馬の首をさすりながらニヤニヤしている。
「用心棒なら目の前にいるぜ!」
「ああん?」
「いずれにせよ俺の出番はねえよ。お前等のターンもないがな」
「ふざける……」
ピエロが言い終わらないうちにマミヤが消えた。左右の男が得物を構える間もなく崩れ落ち、両側から血しぶきを浴びたピエロは唖然と立ち尽くす。マミヤは既に最初の立ち位置に戻っていた。
「もう一度聞くわ。おたくの馬車には何が乗っているの?」
息も切らしていないマミヤは小首を傾げて言った。
「お前等出てこい!」
馬車からいかにも武闘派な厳つい男達が現れた。全部で六人、全員が弓矢を構えている。
「姉ちゃんスピードがご自慢らしいが、矢より早く動けるかな」
「それは無理ね」
マミヤはまるで降参するような手振りをする。
「正直でいいな。それじゃあさっさと……」
またもや言い終わらないうちにマミヤは消え、ピエロの首筋を裂いた。噴水のような血しぶきが増える。
「テツ!」
と合図を受けて僕はナゲイシを思い切り投げた。弓矢を構えた右側の男の顎にヒットし、そのまま不自然な軌道で二番目の男、三番目の男の顎を叩いてから地に落ちた。動揺した連中の隙をマミヤが見逃すはずもなく、左側の三人はマミヤの剣の餌食となって血を吹いた。ナゲイシに当たった三人の様子を見て、抵抗しそうな者は棒芯で殴り気絶させる。
「戦闘員はこれで全部みたいね。テツ、弓矢は苦手な武器だったから助かったわ」
「本当は全員に当てて戻ってくるはずだったんだけど」
僕は思い通りにいかなかったことに落胆した。
「なに言ってんだ! 上出来だよ! 本当に俺の出番なかったな」
「ほんとよ。私なんてまだカミキリを……あれ?」
マミヤの胸元に飾ってあったカミキリがなくなっていた。
「大事なもんアクセサリーみたいに飾ってるからだよ、しょうがねえなぁ」
ウラヌスは文句を言いながらも早速這いつくばって探し始める。
僕も馬車から降りて探したが見当たらない。恐る恐る血の池も覗いたがない。
「あっれー、この私がこんなチョンボするかしら、情けない」
自分で自分を信じられないようにマミヤは嘆く。
三人で探し回ったが一向に見つからない。やけになったマミヤが
「おーい、カミキリー、どこ行ったー」
と叫ぶと何処からともなく風より早く飛んできてマミヤの胸元に張り付いた。
「あ! 戻ってきた!」
カミキリは自力で持ち主の元へ戻ったらしい。
「すげぇ! 小僧! 今の見たか! マミヤの元に飛んできたぞ」
「う、うん。見えなかったけど、見た」
どこからやってきたかも見えなかった。
マミヤは握り拳を作って震えている。何事かと思ったら、
「やった! 私のものになった!」
と腕を広げて思い切り歓声を上げる。こんなにはしゃいだマミヤを見るのは初めてだ。万歳の恰好をして叫び、ぴょんぴょん飛び回っている。しばらくウラヌスと二人この珍しい光景を見物した。
「早速操ってみろよ」
「うん。じゃあ飛べ! 宙に舞え!」
……
何も起きない。
「……目的地を指示してないからじゃないか?」
「じゃあテツに……」
「ちょちょ、ちょっと待ってよ! それ凶器でしょ! 切り裂かれたくないよ!」
「あ、それもそうね。じゃあウラヌスの方へ……」
「ふざけるな!」
結局最初に戻ってきた一度きりで、胸に付けたまま胸から外してもぴくりとも動かなかった。マミヤとウラヌス二人は唸っている。
「あのー。どうでもいいけど、場所変えませんか」
二人とも辺りが遺体と血の池だらけになっているのを忘れているようだ。よくもこんな場所でのんびりできるものか呆れる。
「そうだそうだ。結局連中はどんなお宝を運んでいたんだ」
ウラヌスが馬車の一台にのっそりと乗り込む。
僕は心に引っかかるものがあった。マミヤはカミキリを落としたのだろうか。それともマミヤの何かに反応して自らはずれたのだろうか。そして、カミキリはどこに落ちていたのだろうか。
突然馬車からウラヌスが転がり出るように飛び出してきた。顔が真っ青になっている。
「どうしたの」
マミヤと共に近寄る。
「に、人間だ。拘束された人間が大勢乗っている、荷物のように乗せられてる」
マミヤの顔から表情がなくなり、僕はナゲイシを地に落とした。
次回 2/18 12時投稿。
よろしければこちらの作品もどーぞ。
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