ジャバイジャ
ようやく次の街にたどり着く
馬車の中には十五六名の男女が拘束されうずくまっていた。猿ぐつわまでされている様は哀れだった。三人で拘束具を外す。最初は怯えきっていた人々も無事に解放された実感を持ち、徐々に安堵の顔つきになる。
拉致された人々の中で、比較的元気そうな若者がマミヤ達に近づいてきた。
「本当にありがとう。感謝してもし尽くせない」
ウラヌス、マミヤ、僕と一人一人に握手をする。
「私の名前はミトワ。ある集落、コロニーに住んでいましたが、二三日前に狩りの最中突然奴らに捕まりました。最初はかなり抵抗しましたが、奴らは私達のうめき声に見向きもしませんでした。すぐに生きる道を諦めて、他の拘束された人々同様ただ息をしているだけでした。また日の目を見られるとは思わなかった。拘束が外されると思わなかった。君達に助けられ本当に嬉しい。ありがとうございます」
ミトワは感涙している。
「あなたは馬に乗れる?」
マミヤが唐突に聞く。
「え? ああ。集落の知り合いに老馬を持ってる奴がいて。手綱の取る程度なら教わりました」
「ここから自分の集落へは帰れる?」
「いや、もう方角が全然わからないです。無理でしょう」
「アルデンという町は知っている?」
「商業で栄えた立派な町だと聞いたことはあります」
マミヤは顎に手をやりしばし考えた。
「あなた達は連中の馬車に乗ってアルデンに向かいなさい。ここからならそう遠くないし地図も書いてあげる」
今度はミトワが考え込む。
「確かに私だけじゃなく拉致されたみんな故郷に帰るのは無理でしょう。選択の余地はありません。わかりました、あなた方の提案通りにしましょう」
「アルデンは豊かな町よ。行けばきっとなんらかの仕事につける。新しい人生を送れるわ」
ミトワとマミヤは再度握手した。
「ところであなた方は何処に向かっていたんですか」
「まだ行ったことない町なんだけど、ジャバイジャってところ」
ミトワや後方にいた人々がぎょっとしてマミヤを見つめる。
「な、なに?」
「馬車の中で、我々を拉致した連中はしきりに〝ジャバイジャ〟という言葉を交わしていました。
今度は僕らがぎょっとする番だ。
「ジャバイジャ。意識が虚ろだったので意味不明だったんですけれど、町の名前と言われればそんな気がします」
マミヤはミトワの目をジッと見つめ、次いで僕を見つめる。僕はこくりと頷いた。
「ありがとう。その話を聞いただけでも、あなた方を助けた甲斐があったわ」
「おそらく、とても危険な町だと思います」
「だからこそ行くの。用事があったし、あなた達と会って用事が増えたわ」
マミヤの眼光はひときわ鋭くなり、その視線を再度僕に送った
拉致された人々はミトワの説得でマミヤの提案に乗った。馬を操れる者は他にもいたので、盗賊が使っていた馬車に乗りアルデンへと向かった。人々はいつまでもいつまでも手を振っていた。
「マミヤさん」
「ん?」
「父を母をさらった、人身売買している連中をやっつけます。必ずやっつけます」
マミヤは目を細めて笑った。
「わかったわ。最優先課題にしてやっつけちゃいましょう」
僕は馬車が点になるまで見送った。
「ところでさっきの道化顔は賞金首らしいんだろ。どうして捕らえないんだ」
ウラヌスがマミヤに聞く。
「んー、この旅の間は賞金稼ぎは休業するわ」
「なんでだ?」
「あんた私があの男の首を切って洗って腰に巻く姿が見たい?」
僕とウラヌスは揃ってブルブルと首を振る。
「賞金稼ぎは悪党以上に残忍なのよ」
マミヤはにっこりと事もなげに言った。
旅の目的が人身売買組織の実態解明に変わっても、日常はさして変わらない。
「マミヤ、お客だ」
「またぁ。もういい加減にして欲しいわ」
拉致された人々と別れて五日。一日に二度以上は野盗と出くわす。さすがのマミヤも疲れが出ているようだ。新戦力ナゲイシ(実は最初から持っていた)も活躍する。複数いる敵の急所――主に顎やこめかみ――をピンポイントに当て手元に戻ってくるまでになった。もちろんウラヌスの剛力も当てにしたいが一日中御者を務めているので、体力は温存してもらいたい。
マミヤのオーパーツ、カミキリは一度消えて戻ってきたきり反応がしなくなった。マミヤ自身は、
「あの時は偶然だったのよ。一度は発動したんだから、またいつか反応してくれるわ」
と長い目で見ているらしい。
「しかしよう」
アルデンを出て十日。御者のコツを掴んで馬をたぐる僕にウラヌスが話しかけてきた。
「ジャバイジャに近づくほど、なんか野盗の質が変わってきてねえか」
それは僕も思っていたことだ。
「馬車の数や人数も増えてるし、強い防具をまとった連中が増えたね」
「マミヤには悪いがもう一踏ん張りしてもらわないとな」
「パーティのリーダーだからね」
「ふん」
ウラヌスは鼻で文句を言うが当然認めている。
マミヤは魅力と威圧感を兼ね備えている。僕やウラヌス、特にウラヌスが文句を言いながらもついてくるのはそのためだ。今は馬車の奥で膝を抱えて眠っているようだ。
そんなやりとり以降、ウラヌスの言うとおり野盗が手強くなっている。まず装備が増した。下っ端すら鎧を身にまとっている者が多く、ウラヌスも出張って戦うようになった。だがやはり主戦力はマミヤだ。マミヤは相変わらず、ばったばったと敵を倒していく。マミヤは防具の隙間に切っ先を滑り込ませる、それも一瞬にしてだ。防具に隙のない敵は関節部――主に首筋――を棒芯で殴打し出来た隙間に刃を通す。もはや神業に近い。
僕も必死で加勢するが、相手の防具が強固になりナゲイシの一撃では倒せなくなってきている。
「本物のオーパーツは持ち主と共に成長する」
マジュラの言葉を思い出すが、どう変化してくれるのか見当もつかない。
「今まで俺達はマミヤの強さに頼り過ぎていたな。だが敵は多勢になってきてしかも一人一人の実力も上がっている。ジャバイジャに着いたらマミヤ以上の戦士がいてもおかしくねえ、想像したくないがな。ジャバイジャには慎重に入らなきゃいけねえ」
ウラヌスの意見はもっともだ。僕は改めて身を引き締めナゲイシを持つ手に力を込める。こいつが僕にとって唯一にして最大の武器だ。
僕らを襲った野盗にマミヤが問いただしたところ、現在のジャバイジャがどんなところかある程度わかってきた。
一.野盗のほとんどがジャバイジャから来ている
一.ジャバイジャは賭博、ギャンブルで賑わっている
一.表立っては行えない取引、闇ルートが秘密裏に行われている
三つ目は人身売買に繋がっているのだろう。僕の胸に深く熱い感情が湧く。
そしてアルデンを出てから二十日後、遂にジャバイジャと思わしき町が見えてきた。
次回 2/18 17時投稿。
よろしければこちらの作品もどーぞ。
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