EP.4 再開発工事異状あり
「それにしてもこのあたり、ワーカー多いですね……」
「埋め立て地はただでさえ規制が緩いからな。それに加えてこの辺はコンテナターミナル2つ潰してるから土地が広くて、ワーカーが使いやすいんだよ」
工事現場の間に設けられた工事用の仮設道路を走る小型装脚重機対策警備車。
その後部座席でタブレットPCに表示されている資料を読みながら八崎の説明を聞いていると、車が突然急停止した。
「着いたぞ!」
何かあったのかと思ったが、ただ目的地に着いただけだった。やはり大井の運転はなんともならないらしい。
今日の仕事は啓発活動、という名の見回り活動である。
作業が活発化する夏に向けて、装脚重機対処部隊は交通部と合同で各工区でその手の活動をしているのだ。
「俺は現場責任者に挨拶してくる。倉橋、大井、堀河は作業管制を回ってこい」
「了解!」
安全のため、ワーカーが100平方メートルあたり2機以上活動する場合には管制をするための専門要員を配置することが法令で義務付けられている。
中小企業の現場だと有名無実化していることもあるが、この工区は有名な大手建設会社が担当しているし、書類上は100平方メートルあたり3機が活動することになっているので担当が何人かはいるはずだ。
辺りを見渡してみると、建設中のビルのすぐ近くに「作業管制」という札が付いたテントが建っていた。
近くに行ってみると、ごついノートパソコンやアンテナが並ぶ中で数名の作業員がワーカーの活動を監視していた。
「警視庁です、巡回に来ました。」
「ああ、ご苦労様です」
大井が声をかけると、管制主任の腕章を付けた中年の男性が応対した。
「今何機くらい動いてます?」
「えーっと、下請けの機も含めて43機ですね。」
「多いですね……」
大井が書類を受け取ってチェックしていると、遠くから鈍い衝撃音が聞こえた。
音のした方を見ると、一機のワーカーが積まれている鉄骨に肩から突っ込んでいる。
突っ込んでいたワーカーは二菱製のFB-5。ビルディングワーカーの一つで、二菱が一昨年発表した主力機である。
「ちょっとした接触かぁ。まぁ対処の必要はなさそうだね」
倉橋がそう言ったのがフラグだったのか、ワーカーは体勢を立て直すと近くにいたワーカーに突然腕を振り上げた。
「何やってるんだあいつは!強制停止させろ!」
「もうやってますが、あの機体、なぜか外部制御を受け付けません!」
「こっちの端末でもダメです!」
管制主任が強制停止を指示するが、なぜか暴走ワーカーは止まらない。
それどころか、既にワーカー1機を動けなくなるまで殴ったあと別のワーカーの方へ行こうとしている。
「こっちで制圧する!大井!車回せ!」
「了解!」
いつの間にかブレハブから戻ってきていた八崎は大井に指示を出す。
何気にこの人が大声を出すのを見るのは初めてかもしれない。
1分も経たず、工事現場の外に停めてあった車が作業管制テントの目の前まで走って来た。
工事現場を盛大に踏み荒らしている気がするが気のせいだろう。たぶん。
「倉橋は目標があの足場の下を通ったタイミングで突入。大井は避難誘導だ」
「了解!」
八崎の指示を受け、倉橋は車のトランクから、直径が3cmか4cmはありそうな太いロープ、手袋、ハーネスを取り出した。
彼女はそれらを持って工事中のビルのうち1棟に向かって走っていく。
近年の工事現場で足場の中にに車などが通れる空間を作る際には、比較的大型のビルディングワーカーでも直立状態で通過が可能な高さのあるものにする場合が多い。
そして、彼女が走っていったビルとその隣のビルは暴走ワーカーの進行方向上にあり、その間には連絡通路でも作るのか足場が組まれていて、その中央には資材運搬用の空間が設けられていた。
そこからワーカーに突入するようだ。
「堀河、あの機体はどうすれば止まる?」
少し考え込んでいると、八崎が話しかけてきた。いつもの質問だ。
しかし、逆関節の機体は脚関節を停止させることが意外にも難しい。
それなら別のアプローチを取るのが正解だろう。
「目標は、背部の排熱装置が塞がれた場合に自動停止するプログラムが組み込まれています!なので、そこに粘着弾を撃ち込めば一時的に停止するはずです!」
「分かった。射撃地点をマーキングしておけ。」
「了解!」
車からタブレットPCを取り出して起動し、データベースからFB-5のデータを呼び出す。
データベースの画像から射撃するべき位置をマーキングすると、粘着弾ランチャーのカメラがその場所を確認してAIがランチャーの照準器に射撃するべき位置を表示してくれるというなんとも便利なシステムだ、ということを八崎から聞いた。
背面の排熱スリットをタップしてマーカーを配置、八崎のランチャーを選択して送信する。
「確認した。排熱装置を塞いだことが感知されてから停止するまでの時間は?」
「たしか……5秒丁度です!」
「分かった」
既に八崎は射撃位置に付いているようだ。
そうこうしている間にもワーカーは目標地点に向かって歩いている。
『到達まで10秒!』
いつのまにか避難誘導を済ませて観測手になっている大井から無線が入る。
『9、8、7、』
「発射」
残り7秒のタイミングで八崎が粘着弾を発射した。
発射された拡散型の粘着弾は寸分の狂いもなく背面のスリットに着弾。
赤く着色された高粘度の液体が飛び散って素早く硬化し、スリットを塞いだ。
着弾からぴったり5秒後、ワーカーがゆっくりと停止する。場所は丁度足場の下だ。
「倉橋、今だ」
「了解!」
八崎の指示を受けてすぐ、倉橋が足場に固定したロープを使って降下する。
ラぺリングだったかファストロープ降下だったか、とにかくロープを滑るように降下してワーカーの胴体上部、可動しないセンサーユニットのところに降り立つ。
「あの人あんなことまでできるのか……」
思わず呟いている間に倉橋はワーカーのハッチを開いて中に突入、直後には大井も駆け寄って2人がかりで抵抗する搭乗員を引きずり出していた。
『9時33分、道路交通法違反及び装脚重機作業安全法違反の現行犯で逮捕する!』
最近やっと見慣れてきた、恐ろしく手際のいい逮捕劇。
倉橋は搭乗員を応援で来た所轄に引き渡した後、使用した装備を車のトランクに戻しながら声をかけてきた。
「堀河君!一応機体チェックしといて!」
「あ、はい!」
倉橋に言われたとおり機体に駆け寄り、最近もはや恒例の腕部の外装の確認をしてみる。
他のワーカーを殴り倒していたあたりで予想はついていたが、やはり外装が微妙に浮いている。
「やっぱりまたあれか?」
ボルトを外してみると案の定、最近何度も見かけているメーカー表示がないリニアモーター式のアクチュエータだった。
「やっぱりか……」
もうある程度慣れてきたとはいえ、毎度数千文字の報告書を書かされるのは面倒くさい。
それでも見つけてしまったものは仕方ないので、作業管制テントのすぐ近くに停められている鑑識のワゴンに伝えに行く。
その途中、今は暴走機のログを表示している作業管制用パソコンに一瞬新たなログが出た。
「ん?」
近寄って見てみるが停止時点からログは増えていない。
気のせいだったのか。
だが、確かにEXTERNAL CONTROL ERRORというログが一瞬見えたのだ。
つづく
倉橋の降下は、命綱やらカラビナやらを使っていない設定なのでどちらかと言えばファストロープ降下に近いものだと思ってます。
ストックがもうないのでノロノロ更新になります。




