283話 小さきメイドの戦い方
「すまない少女よッ!」
開始とほぼ同刻に放たれた槍撃、それは並大抵の冒険者には目に追えないほどの速度で放たれる。
Aランクの者ならば見える程度、その速度の領域は今のラミアには肉眼で捉えることができない程に速い。
ーーキィィィンッ!
「お兄さん捕まえたッ! 轟脚!」
「くッ?!」
だが以外にも初撃を捌いたのは紛れもないラミア本人、簡単なカラクリだ。
俺がラミアに作った装飾品は【静寂】はSランク品に仕上がっていてその効果は至って単純、思考力と反射神経の強化、それだけだ。
他の特別な効果は何も持ち得ず火力に直結する機能は何も無い。
ただただ素早く思考が可能、その思考速度が槍の速度を超えていただけの話だ。
ついでに俺が教えておいた轟脚を使って槍を捌いた後に追撃、それに怯んだレーリルは大きく後退した。
「まさかまさかのラミア選手ガチなのか?! こんな可愛い天使が番狂せなのかぁ?!」
実況と同時に開始前にラミアを嘲笑っていた者たちは逆に他の者に笑われる。
こんな子供が何ができるのか、と疑っていたのだろうが多分その批判をしている奴よりもラミアは既に強くなった。
反射神経に身を任せたカウンター型主体、思考速度を超える相手じゃないと勝利するための最低条件を満たしていない。
「少し舐めていました。ですが今からちゃんと貴女を屠ります」
「最初からそうしてよ! でも私も負ける気無いからよろしくね!」
挨拶と同時に放ったのはラミアのナイフ投擲、服の下に隠し持っている暗器の数々はシルヴィア直伝の殺し術らしい。
だがそれを軽々と避けたレーリルは手を突き出して神聖魔法を発動、単純な刺突の効果だけのその魔法は速度と貫通力に秀でた効果、だからこそその速度はラミアの思考速度を超えた。
「その思考速度は厄介。だがまだ未熟だ」
「痛ッ!」
聖槍が頬を掠めて若干の痛みに襲われたラミアは視線を崩さずにレーリルを観察するように凝視しているが、自分の思考速度を超えた相手には反射神経と運動能力を使う以外に今のところ手段を持ち得ないラミアには苦しい相手だ。
魔法はまだ少量のバフをかける程度だし魔力の総量もそれ程多く無い。
「自分から攻めるのはまだ苦手なんだけどなぁ」
雷魔法による微量な敏捷力の強化を施して得物である包丁を構える。
今更だけどなんでナイフとか短剣じゃ無くて包丁なわけ?
ーーギギギッ
「お兄さん力強いんだね」
「そちらこそ中々に強いようですが?」
飛びかかったラミアの攻撃を受けたレーリル、両者の得物は拮抗、いやゆっくりと確実にラミアが押されているのが確認できる。
前述の通り装飾品である耳飾りには火力に直結する効果は何も無く今は素のステータスと微量なバフだけで力を使っている状態、当たり前な話前線で鍛えてきたAランク冒険者と短期間にレベルアップした最近までただの少女の筋力なら前者が勝つ。
(純粋な力比べなら当たり前に私が負ける。唯一勝ってるのは多思考速度だけなな? ならそれを活かしたいけど……お兄ちゃん達みたいに戦闘経験がたくさんあるわけじゃ無いからなぁ)
「そろそろ終幕だッ!」
さらに力を込めてラミアを得物ごと弾き、後退させた瞬間に自身は槍を構えて刺突での穿ち抜きを狙った。
それの速度はラミアの思考速度を超えて放たれ、思考速度のみに頼ったカウンターは不可となる──
「あぶな!」
──はずだった。思考速度を超えた攻撃を的確に避け、再び轟脚によるカウンターをレーリルの腹部を鋭く捉えて蹴り上げる。
完全なるるカウンターが決まりレーリルは意識を手放しそうになるか副ギルドマスターの意地なのかなんとか耐え凌ぎ、槍を地面に突き立てて立ち上がった。
「どう……やって……?」
「ん〜、なんか体が勝手に動いた感じ? 反射神経ってやつだ!」
ラミアは元々反射神経には優れていた。
手加減とは言ってもエフィナの刃を避けて軽い反撃を与えたのだから純粋な反射神経は悪く無い。
それにSランク装飾品である【静寂】の反射神経の補正があれば思考速度を超えた攻撃にも反応可能、理論上の話だったがラミアはそれを成した。
実は天性の才能があったりするのだろうか?
「それでお兄さんどうする? 結構私も限界なんだけど」
カウンターをモロに腹部に受けて槍を突き立てて立つのがやっとなレーリルにラミアは話しかける。
魔力も体力もまだまだあるだろうが体が言う事を聞かない、カウンターは対象の力が多ければ多いほどに威力を増す。
「無理をすれば……いや、少女にここまでやられてしまってはね。降参だ」
「ここでレーリル選手降参! まさかの第一試合を制したのは小さな少女ラミア・トーナ選手! 番狂せの小さきメイドに拍手と喝采を!」




