第三十六章:研修
翌日、新しく入った3人を迎え入れたアレックス達は、早速研修を開始した。
全員経験者ということもあり、業務内容などは軽く触れるだけで、施設の案内や備品の扱いなどに重点を置くことにした。マーシーにはリリィを、セシルにはカトレアを担当に付け、アレックスはサラを連れて館内を案内していた。
「……以上が現在使用している施設の案内になります。」
「3階とかは使っていないんですか?」
サラが尋ねた。
「ええ、エレベーターが壊れていまして、修理の見通しは立っていません。」
「1階や2階も結構見てない部屋があったと思うんですけど。」
「現状の人数ではホールの一階部分を埋めるのもままならない状態です。劇場やカジノもあるのですが、再開は未定です。」
「……大分スカスカですね?」
「少しずつ稼働施設を増やしたいとは思っていますが、従業員を一度にたくさん入れても教育に手が取られて営業ができなくなりますから。経験者を数人ずつ入れながら、基礎を固めている段階です。」
サラはアレックスの言葉を聞いて、目を丸くしていた。
「オーナーさんって私と同い年くらいなのに、結構知識が豊富ですね。」
「まあ、職業学校に通っていましたから」
アレックスは、バーチガンで職業学校に入寮していた。公共小学校を卒業してすぐに働く人々が多数を占める中で進学できたのは、クローブの経済的支援によるところが大きかった。
「ただ、途中から工学を専門に勉強していたので、基礎的なことしか知りません。サラさんのような経験者の意見も伺いながら、これからの経営方針を決めていきたいと思っています。」
「昨日も言いましたけど、2年目の娼婦なんて新人とあんまり変わりませんよ? 他にも経験が長い人がいたのに、何で雇ってくれたんですか?」
「ほとんどの方は娼館に在籍中で、引き抜きをされたと思われたくなかったからというのもありますね。この業界のことはよく知らないので、あまり波風を立てないよう気を付けています」
「へぇ、オーナーも大変なんですね」
雑談をしながら控室に戻ると、リリィ達も研修を終えたようで休憩をしていた。
「リリィさん、お疲れ様でした。研修はどうでしたか?」
「昔働いていたらしたこともあって、教えることは殆どありませんでした。部屋の設備やどんな風に使っていたかも知っていて、逆に教えて頂くことも多かったです。」
リリィは、マーシーとの研修で有意義な時間を過ごしたようで、満足げな表情をしている。マーシーは彼女の隣で優しく微笑んでいた。
「カトレアの方はどうでした?」
アレックスがカトレアに尋ねると、彼女は静かに頷いた。
「優秀の一言に尽きるわね。一度教えれば必ず覚えるし、頭の回転も速くて手はかからなかったわ。」
「セシルさんは今どちらに?」
「お茶を入れてるわ。」
直後、セシルがティーポットと人数分のカップをトレーに乗せて運んできた。レストランのウエイターのような優雅な所作に、思わず見とれてしまう。
「皆さんへのご挨拶を兼ねて、僕の持ってきた茶葉を入れさせていただきました。是非ご賞味ください。」
慣れた手つきでカップを置きながら、カトレアに尋ねた。
「カトレアさんは飲めますか?」
「液体なら摂取可能よ。」
アレックスは、紅茶の注がれたカップに早速口を付ける。安物とは一線を画す高級品だと下に触れた瞬間に分かった。
「営業時の研修はどうしますか?」
リリィがアレックスに尋ねる。
「とりあえずホールで接客していただいて、お客様に顔を覚えてもらう事から始めたいと思います。」
「私はお客さんを取ってもいいよー。」
マーシーが提案する。
「ありがとうございます。閉館前の常連の方も多いので、希望があれば付けさせてもらいますね。」
その後は、セシルの紅茶の話題に花を咲かせ。日没まで休息を取った。心強い戦力を手に入れたミストナイトクラブの、今夜の営業が始まる。




