第三十四章:ベテラン
アレックスは椅子に腰かけ、リリィが残したメモを片手に、向かいに座るマーシーに質問を行った。
「マーシー=クリプソンさんで、お間違いないでしょうか?」
「そうで~す」
なんとも間の抜けた返事だった。のほほんとした雰囲気を纏う女性だが、身につけている服や装飾品は明らかに高価な品だ。この業界で成功していることは確かだろう。
「クローブの頃に、こちらで勤められてたと伺いましたが。」
「そうだよ~、6年くらい働いてたかなぁ? よく覚えてるよ~。」
「ミストナイトクラブを退職されてからのご経歴を教えていただけますか?」
「ん~、3、4年くらいかなぁ? 色んな娼館でお世話になってました~。」
「得意なことはございますか?」
「お酒をたくさん飲んでも、酔っぱらわないよ~。」
聞く限りでは、能力面で問題はなさそうだ。話し方は気になるが、それも彼女の魅力なのだろう。特に、多くの娼館で働いてきた経験は、娼館事情に詳しくないアレックスにはとても貴重だ。
アレックスが考え込んでいると、マーシーが顔を覗き込んできた。
「若い子じゃないとダメかな~?」
アレックスは慌てて否定した。
「いえ、こちらとしましてもベテランの方は大歓迎です。ですが、それだけの経験者であれば、ここよりも好条件を提示する場所は多いと思いますが……何故、当館に応募されたのですか?」
マーシーは、少し遠い目をして、ゆっくりと語り始めた。
「ここで働いていた時は、毎日楽しかったんだ。仕事は忙しかったし、大変なこともあったけど。クローブさんや皆で頑張って乗り越えて、ここを街一番の娼館にするために一緒に頑張ってたんだ。」
彼女は少し顔を伏せた。
「クローブさんがお店を閉めちゃった時、一緒に働いてた沢山の子達は遠くに行ったり引退したりで、街を出て行っちゃった。アメリアちゃんの所に行った子も何人かいたけど、今は殆どいなくなっちゃった……。」
表情がだんだんと曇っていく。
「いろんな所で働いたけど、ここにいた時より楽しくなかった。たくさん頑張って人気者になっても、嬉しくなかった。」
暗い雰囲気が室内を覆っていた、ミストナイトクラブの閉店は、彼女の心に長く空洞を開けていたのだ。
「ここが戻ってきてくれて、本当に良かった。またここで働きたいなって、だから応募したの。」
マーシーの目は少し潤んでいた。アレックスは、彼女の言葉に胸を打たれた。
「……教えて頂きありがとうございます。このミストナイトクラブは、まだ再開したばかりで足元も不安定な状態です。ですが、僕はここを昔以上の場所にしたいと思っています。」
アレックスは契約書を差し出す。
「どうか、一緒に働いてください。僕たちと一緒にここを盛り立てて行きましょう。」
マーシーの顔に光が戻った。彼女は契約書にサインをすると、何度も感謝の言葉を述べた。
こうして、アレックスは強力なベテランを獲得した、彼のミストナイトクラブ再興の決意は、より一層強固になった。




