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第三十三章(事業拡張編):求人募集

 カトレアが本格的に稼働したことで、ミストナイトクラブの営業はさらに活気づいた。


 特に娼館部門の売り上げは目覚ましく、カトレアもサービスに参加したことで、対応できる客の数が単純に倍になったのだ。ついにホールでの売り上げを超えるようになり、ミストナイトクラブは娼館としての本領を発揮し始めた。


 しかし、このミストナイトクラブという施設の本来の力は、まだ十分の一も発揮できていない。ここは娼館の他にも、ホテル、カジノ、劇場など、あらゆる娯楽施設が館内に収められている。今は多くが埃をかぶっており、これらを復活させない限り、再興など夢物語だ。


 ミストナイトクラブの能力を最大限に引き出すためにも、施設で働く従業員の確保が急務だった。幸い、売り上げも伸びてきたことで、人材獲得のための資金も確保できた。アレックスは街の広告屋にそれなりの金額を積み、繁華街の各所に求人募集の広告を貼ってもらった。


 「ミストナイトクラブの事業拡張につき、人材募集、支度金あり」


 最初に募集した時の手書きの紙とは違い、プロにデザインしてもらったチラシは、人目を引く豪華なものだった。アレックスは、その効果に期待しながら、面接予定日である休館日まで、胸を膨らませていた。


 当日、予想以上の数の希望者がやってきた。アレックスは、リリィと手分けして面接を行うことにした。


 「まずは、お名前と自己紹介をお願いします。」

挿絵(By みてみん)

 「サラ=デイヴィスです。娼館で2年働いてました。」


 「ご経験者ですか。差し支えなければ、前の職場を辞めた理由を教えていただけますか?」


 「前から職場には嫌気がさしてたんですけど、新人の方が待遇良いのが分かって嫌になっちゃって……。」


 「そんなことがあるんですか?」


 「ほら、最近はどこも人材確保に躍起になってるじゃないですか?人を入れるために金は使うくせに、今いる娘達の待遇は上げないから、不満な娘は結構いるんですよ。」


 「そうでしたか…。」


 アレックスは、ここ最近の人で不足の中で、娼婦達は皆好待遇なものだと思っていたが。このような形で問題が起きているとは思ってもいなかった。彼は今いる業界への理解不足をつくづく実感した。


 「当館の待遇はチラシに掲載している通りですが、問題ありませんか?」


 「いや、支配人さんは知らないかもしれないですけど、ここの待遇ってかなり良いですよ?」


 「そうですか?」


 「娼婦の取り分って普通3割とかですよ? それが5割で、しかも基本給付きって、結構破格ですよ?」


 サラの言葉に、アレックスは驚いた。リリィ達の待遇は、叔父の経営していた時代のものを流用したものである。予想以上に応募者が来た理由も納得できた。


 「そうでしたか……。まあ、私としては、従業員の働きにはなるべく報いたいと思っておりますので。」


 「へぇー、珍しい支配人さんもいるものですね。」


 サラは感嘆の声を漏らした。アレックスは、質問を再開した。


 「何か特技はございますか?」


 サラは、何か言いかけたが、言葉を引っ込めてしまった。暫く頭を掻きながら考え込んで、それから呟いた。


 「歌が…、得意です。」


 「歌、ですか。」


 「昔、歌手にあこがれてて。酒場とかで歌ってたんですけど、全然儲からなくて……。」


 サラは自嘲気味に答える。アレックスは、ふと、劇場の事が頭に浮かんだ。


 「ありがとうございます、質問は以上です。それで、いつから来られますか?」


 「え、もう採用です?」


 サラが目を丸くした。


 「当館には経験者が不足しておりまして、ノウハウのある方は大歓迎です。是非働いていただければと思います。」


 「そうですか? 経験って言っても短いんですけど…、それでもいいなら、お願いします。」


 そう言って、サラは頭を下げた。直ぐに契約書にサインをしてもらい、彼女は満足げに帰っていった。


 「次の方、どうぞお入りください。」


 それから何人目かの面接を行っている最中、リリィが慌てた様子で入ってきた。


 「すみません、ご報告したいことがありまして。」


 「どうしましたか?」


 「それが、今私が面接している方が、以前のミストナイトクラブで働いていた方だそうで……。」


 「そうですか……。こっちの面接を代わってもらってもいいですか?」


 アレックスは急遽、リリィと交代し、その人物に会うことにした。


 もう一つの面接室の扉を開けると、そこには穏やかな顔をした女性が座っていた。


 「あなたがクローブさんの甥っ子君だねぇ。わたしはマーシーっていいまぁす。よろしく~。」


 叔父の時代に働いていたと聞いてどんなベテランが来たのかと思っていたが。随分とぽわぽわした雰囲気の女性がそこにいた。すっかり緊張の抜けたアレックスは、一つ咳ばらいをし、面接を開始した。

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