第三十一章:実技指導
「…以上が本日の営業利益です。二人とも、お疲れさまでした」
今夜の営業が終了し、アレックスたちは控室で会計処理を行っていた。これまでは、職業学校で経理を習っていたアレックスと、家業の手伝いで会計に慣れているリリィの二人掛で翌日の昼間に終わらせていた。最近はカトレアの計算処理能力も加わり、閉店作業のうちに給与の計算と支払いを済ませられるようになった。
「こちらが報酬になります。」
アレックスは二人分の今日の給与を手渡す。二人が優秀な働きを見せていることもあり、毎日かなりの額を支払えていた。ミストナイトクラブの売り上げは順調に伸び、常連客も増えたことで、収益の見通しも立てやすくなってきた。しかし、肝心の娼館サービスをリリィ一人に任せている現状では、売り上げに限界が見えていることも事実だった。
一通りの連絡が終わり、アレックスは最後に付け加えた。
「来週から、カトレアも客室でのサービスを担当してもらいます。」
そう言って、アレックスはカトレアの前に一冊の本を差し出した。
「暇があるときに読んでおくように、分からないところがあったら聞いてください。」
娼婦の指南書を渡すと、アレックスは席を立った。カトレアは早速本を読み進めている。彼女なら、すぐにすべての情報を記憶してしまうだろう。
アレックスは自室に戻ると、寝間着に着替えてベッドに横たわった。一日の疲労がどっと押し寄せ、すぐに深い眠りに落ちた。
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どれくらい時間が経っただろうか。
アレックスは、手足に違和感を覚えて目を覚ました。状況を確認すると、ベッドの上で手足をロープで拘束されている。いくら力を込めても、びくともしない。
訳が分からずもがいていると、寝室の扉がゆっくりと開いた。
「お目覚めかしら?」
カトレアが部屋に入ってきた。手には箱を抱えている。
「これは一体何なんだ?」
アレックスが問い詰めると、カトレアは楽しそうに微笑んだ。
「本格的に娼婦として働くのですもの。色々知っておこうと思ってね」
カトレアは手に持っていた箱の中身を一つづつ机の上に並べ始める。娼婦の指南書、潤滑剤、性具、その他諸々……。
「文字の情報だけでは、実際に役立つかは分からないわ。だから、マスターで実験させてもらうわ」
「なんで拘束する必要があるんだ!」
「対象が動いたら、ちゃんと観察できないでしょう?」
そう言いながら、カトレアはアレックスの上着のボタンをひとつずつ外していく。指南書通りにスムーズで妖艶な手つきだ。
「だ、 誰か!」
「諦めなさい。誰も助けには来ないわ」
カトレアが冷たく答える。そして、ゆっくりと後ろを振り返った。
「リリィも、隠れていないでこちらにいらっしゃい」
いつの間にか半開きになっていた扉から、リリィが顔を覗かせた。
「アレックス様……これは、どういうことですか?」
リリィが何か盛大に勘違いしている。非常にまずい状況だった。
「リリィさん、誤解です! これは彼女が…」
「マスターに男を悦ばせる方法を教えてもらおうと思って。あなたも一緒にどうかしら?」
カトレアがリリィを誘う。
「カ、カトレアさん……なんでこんなことを?」
リリィが問いかけると、カトレアはにやりと笑った。
「私も、マスターに『指導』してもらおうと思ったの。あなたと同じようにね」
リリィが硬直する。
「あなたが時々マスターの寝室を訪ねて何をしているのか、知らないと思った? 私の聴覚装置は壁を隔ててもしっかりと音を拾えるのよ。熱心に『指導』に励んでいらっしゃるようね?」
その言葉に、リリィの顔が真っ赤に紅潮した。
「加虐、緊縛、性具に性感帯……。どれも娼婦に必要なスキルなのに、マスターに遠慮して避けていたのではなくて?」
カトレアがさらに畳みかける。
「それに、あなたを救ってくれたマスターに最高の快楽を与えたいと思わない?」
「……ごくり」
リリィが喉を鳴らす。何かのスイッチが入ったようだった。彼女が一歩、また一歩とベッドへと歩み寄る。なぜか鼻息が荒い。
「アレックス様……私にもご指導をお願いします……」
その目はまるで捕食者のようだった。アレックスは命の危機を感じる。
「待って! こんなやり方はおかしい!」
必死の説得も、覚悟を決めた彼女たちには届かない。
「ズボンが邪魔だから破るわね」
ビリビリと音を立てて寝間着が裂かれる。オートマトンの怪力が遺憾なく発揮された。
「リリィ、マスターを抑えて頂戴。入れづらいわ」
リリィはアレックスの胴を抑える。可憐な外見からは想像もつかないパワーで、アレックスは身動きが取れない。
カトレアが黒い棒状の物体を持っている。潤滑液で濡れており、なぜか小刻みに振動していた。
「その手に持っているのは何ですか、なんで振動しているんですか、なんでそこに入れようとして…!」
ミストナイトクラブに絶叫が響く。アレックスは探求の犠牲となった。




