第三十章:巡り合いの一着
カトレアが試着室に入る少し前のこと、アレックスはオーギュストに案内されて奥の部屋へ入った。部屋には机と椅子が置かれ、机の上には書類と金庫がある。何よりも目を引いたのは、壁に多数飾られた写真だった。
「ここで仕立てられたお客様が、娼館で成功すると写真を送ってくださるんです。昔からうちで続いている伝統ですよ。」
写真には、美麗な衣装に身を包んだ女性たちが写っている。皆、幸せそうな表情をしていた。相当前から続いているらしく、色褪せた白黒写真も混じっている。
その中で、アレックスは一枚の写真に目が留まった。以前、倉庫で見たドレスを身に纏ったアメリアだ。
「それは、アメリア様がミストナイトクラブに入ったばかりの頃の写真ですね」
オーギュストが答えた。
「私が衣装を仕立てさせていただきました。今もご贔屓にしていただいております」
偶然にも、昔のアメリアを知る人物を見つけたアレックスは、彼女について尋ねてみることにした。
「昔のアメリアさんは、どのような方だったのですか?」
オーギュストは顎髭を撫でながら、しばらく考え込んだ。
「初めてお会いした時は、失礼ながら臆病な方だと。クローブ様と一緒にご来店されたのですが、彼の傍を離れようとせず、人見知りのようにも感じましたね。自分には不相応だと、衣装のオーダーメイドも遠慮されておりました。そのような方が、今やガーデンロー一の娼婦なのですから、人の第一印象など信用なりませんね」
「娼婦、ですか?」
「ええ、『アメリア』の娼館長をされておりますが、今も客を取っていらっしゃいます。一晩で数百万クラウンだとか」
アレックスは驚いた。現在のミストナイトクラブでも、その額を稼ぐのに数カ月はかかる。アメリアが簡単に自分の負債を引き受けようとしたのは、彼女にとって大金ではなかったからなのかもしれない。
「お待たせいたしました。こちらが領収書になります」
アレックスは紙幣の束をオーギュストに渡し、清算領収書を受け取った。
部屋を出ると、作業場から写真を撮る音が聞こえてくる。音の聞こえる方へ行ってみると、黒色のドレスを身に纏ったカトレアが、エルミーヌに写真を撮られていた。
「旦那、このお嬢さん、何を着せても似合うぜ!」
既に何着か撮影したのだろう。作業台にはいくつかの衣装が乱雑に置かれている。カトレアは椅子に座り、エルミーヌの指示通りにポーズを取っていた。確かに、彼女の小柄な体躯と妖艶な雰囲気は、艶やかな衣装も、愛くるしい衣装も完璧に着こなしそうだ。
「本日アルベールは遠出しておりまして、オーダーメイドであればまた後日いらしていただけますか?」
オーギュストがそう伝えると、カトレアは首を横に振った。
「このドレス、とても気に入ったわ。マスターもそう思うでしょう?」
カトレアがアレックスに声をかける。彼女が着ている黒一色のドレスは、銀色の髪と白い肌とのコントラストで美しく映えていた。胸元の露出も、彼女の妖艶な雰囲気を引き立てながらも露骨すぎない、良い塩梅だ。
「本当に仕立ててもらわなくていいのかい?」
「ええ。理論的には説明できないけれど、これが良いと思ったの。こういうの、一目惚れって言うのでしょう?」
カトレアが微笑む。
「買われずに埃をかぶるよりはこの服も幸せだ。安くしとくよ」
エルミーヌが値引きを持ちかける。カトレアも気に入っているのであれば、躊躇することはない。
「では、それを買いましょう」
「まいどあり」と、エルミーヌが領収書を取りに走った。カトレアは嬉しそうに姿見を眺めていた。




