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第三章:表裏一体

 叔父の遺した再建計画書を手に、アレックスは立ち上がった。胸には確かな決意の炎が灯っている。叔父がアレックスに託した希望の灯りを消さぬよう、早速行動へと移した。


 まず第一に、人材の確保が急務だった。彼は執務室に残されていた紙とペンを手に取り、すらすらと文章を書きだした。


「娼婦募集(雑用あり)。『ミストナイトクラブ』営業再開に向け、意欲ある女性を募集。住み込み可、給与は要相談。面談ご希望の方は18時以降ご訪問ください。」


 粗末な求人広告だが、これが今の彼にできる精一杯だった。完成した張り紙を、彼は表の玄関扉に貼り付けた。これが誰かの目に留まることを願いながら、彼は次の行動に移った。


 次に、客を出迎えるにあたって最低限の清潔感を保つための掃除道具と、当面の生活に必要な日用品の買い出しだ。手持ちの金は心許ないが、まずはできることから始めるしかなかった。彼は扉の鍵を閉め、荒れ果てた娼館を後にした。


 「ミストナイトクラブ」の周辺は、空き家ばかりで人通りも少なく、ひっそりと閑散としていた。錆びついた鉄骨の廃工場が、まるで街の墓標のように立ち並び、風が吹くたびに軋む音が、かつての喧騒を嘲笑うかのようだ。足元には、小さなボルトが転がり、煤けた空気が肺に重くのしかかる。アレックスは、ミストナイトクラブ凋落を改めて実感した。


 中心街まで歩くと、ようやく街の活気が感じられるようになった。建物はいくぶん手入れされ、人通りも増え、乗合蒸気馬車が忙しなく行き交っている。煤煙は相変わらずだが、それでも人々の笑い声や、行き交う人々の足音が、微かな希望を与えてくれるようだった。


 彼は、「ポリー&マークス日用品店」という看板を掲げた店に足を踏み入れた。店内には、食品から工具まで、様々な商品が所狭しと並べられている。カウンターにいたのは、人の良さそうな中年の男性だった。


「いらっしゃい。何をお探しで?」


 彼は掃除道具や食料品を注文し、女将さんらしき女性が商品を集めている間、カウンター越しに店主との世間話を始めた。


「ここら辺は随分景気が良いみたいですね。」


「ええ、そうなんです。近々製鉄所が稼働予定でね、結構な数の作業員を募集してるらしくてここ数か月前から人が戻ってきてるんだ。」


 確かに、製鉄所のような高温の現場に精密部品の塊であるオートマトンは役に立たない。オートマトンに職を奪われた身としては、人間が活躍する余地がまだ残されているという事実に、新たな希望を見出した。街に活気が戻るのは娼館の再建にとっても良い兆候だろうと、彼は前向きに捉えることにした。 窓の外に目をやると、向かいの通りから、酒で上気した顔の男たちが出ていくのが見えた。向こうは歓楽街のようだ。


 会計を終えて雑貨店を後にしたアレックスは、この町の娼館の視察を兼ねて歓楽街へと足を向けた。通りには大小の娼館が軒を連ね、どこも客で賑わっているのが見て取れた。どの店も店先に娼婦募集の張り紙を掲げており、高賃金やボーナスなどの破格の待遇を掲げている、人手不足の様子が窺えた。


 娼館の中で特に目を引いたのが「スチームハウス」だ、廃工場をリノベーションしたらしく、煤けたレンガと鉄骨がむき出しになった独特の外観をしていた。店の前には物珍しさからか多くの人々が集まっていた。中を覗くと、人間と見間違うようなデザインの女性オートマトンが、客を相手に接客しているのが見えた。彼女たちの寸分狂わない完璧な所作と、機械音声で会話をする様子は異質だが、これも魅力として客を惹きつけているようだった。それらの光景は、自身が職を追われた原因であるオートマトンの進化と、かつての栄華を失った『ミストナイトクラブ』の現状を改めて思い出させ、アレックスの胸に重くのしかかった。


 (あんな状態の『ミストナイトクラブ』に、果たして人が来てくれるのだろうか……)


 複雑な気持ちで中心街を後にしたアレックスは、日も暮れてようやくミストナイトクラブにたどり着いた。疲労も相まって、足取りが重い。薄暗くなった玄関階段を見上げると、何かがいる気配がした。目を凝らすと、夕闇に溶け込むようなブロンドの長髪が揺れている。それは、一人の少女だった。この寂れた通りには似つかわしくないほどの美しい娘で、その瞳はまるで遠い星を眺めるかのように、煤煙に覆われた空を見上げていた。アレックスは、その少女の存在に、言いようのない予感と、新たな物語の始まりを感じずにはいられなかった。

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