40 不幸の手紙
文字を見ただけで、誰からの手紙なのか分かってしまった。……一気に頭が痛くなった。
後から来たカイルからの手紙には謝罪とお母様に情報が漏れた経緯が書かれていた。
お姉様が王宮に住むようになって、訪問する事が幾度かあったそうだが、お姉様のお子様である王女殿下二人が、王妃様似の美女に育つ内に登城しなくなったと言う。
無気力になり、身だしなみにあれ程気を遣っていたのに、着替えも入浴もしないで寝込むようになった。
世話をするメイド長に言ったのは、王族に嫁いだのが私であれば王女達は私の孫だった。と言う話だそうだ。以後、母は私の事を度々口にするようになったとか。
その様子に危機感を抱いたお父様とカイルは、話し合いの末爵位の移譲を早め、お父様がお母様を領地に連れて行く事にした。しかし心配の内容をメイド長が知る筈もない。
メイド長は、国外追放になった筈の私とカイルが連絡を取っている事を知り、その事を知らされていないお母様に同情していたそうだ。だからカイルが食事中に奥方と私の悩みを話していたのを聞いて、領地の母に伝えてしまったと言うのだ。メイド長は、カイルが即刻解雇したと言う。
カイルには気にしない様に返事をかいたものの、分厚い母の手紙には返事を書く気がない。封を切らないまま放置されている手紙についてコリーヌからクリス様に報告が行ってしまった。
クリス様による尋問が始まった。
封を切っていなかった手紙は分厚い。クリス様が読んでいいかと聞くので拒否した。
クリス様に結婚の相談をする前に、こんな形で知られたくなかったからだ。
「カイル殿が爵位と奥方を得たのは知っている。そのお祝いを贈りたいって事かな?」
「そ、それもあるのですが……」
クリス様は宰相だ。ここ数年で人の表情や言葉から嘘や状態をかなり正しく把握できるようになっている。特に私に関しては、家出した後からすごく観察されている自覚がある。……嘘を吐けばバレる。
「他にもあるの?」
こんな事なら楽しい雰囲気で食事でもしながら、さらりと言ってしまえばよかった。
『そろそろ結婚の準備をしませんか?』
これで良かったのだ。落ち着いて考えられるまで、普通に過ごして考えれば良かった。
今更気づいても遅い。問い詰められて言う様な事ではないのに、問い詰められて言わされそうなのが嫌だ。
「ありますが、こんな雰囲気で言いたくないです」
正直にそう言うと、クリス様は眉尻を下げた。
「僕に言えない事なんだ」
「言えないと言うか、今は嫌と言う……だけです」
クリス様は少し困った顔をした後、お母様の手紙を手に取った。
「これは、僕の方で始末しておくよ」
「え?」
「どうせ読まないんだろう?」
そう言われてしまえば、頷くしかない。
「中身を読まないで下さい。お願いします」
「……分かった」
クリス様がため息交じりにそう言って手紙を持ち去った。
それから、クリス様に結婚準備についての話をできないまま、エリーゼ様の結婚式を迎えた。
晴天で穏やかな雰囲気の結婚式。美しいドレスを着て、眩い笑顔を浮かべるエリーゼ様を見てしみじみと思う。
(幸せそう……いいなぁ)
ロザミア様の結婚式は王族のものなので厳粛な雰囲気だった。だからそんな感情は湧かなかったが、エリーゼ様の結婚式はそう思ってしまった。
結局、あの手紙で問い詰められて以来、クリス様に話を切り出せていない。
幸せの波に乗り損ねて置いて行かれてしまった。
エリーゼ様にはお祝いを述べる事しか出来なかった。辺境伯の結婚式だから参列者が多いのだ。
宴の時間になると、皆クリス様と話がしたいらしく人が集まっている。私も話しかけて来る令嬢や夫人と話をしている状態が続いた。
男爵令嬢として婚約者と参加しているコリーヌを捕まえてクリス様に伝言を頼んだ後手洗いに行き、廊下でぼんやりと立ち止まる。
結婚はどちらかと言えば、したい気持ちになっていた。けれど、お母様が関与するならしたくない。
「ずっと……忘れていたかったな」
そんな事を言ったところで、思い出してしまったのだから仕方ない。
(私、結婚できないんじゃないかしら)
どんどん結婚願望が削がれる中、鬱々と会場に足を運んだ。




