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ずっと一緒に  作者: 川崎 春
隣国編

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38 例え忘れてしまっても

 エリーゼ様は、そこからとても忙しくなった。本来爵位を継ぐ際には婚約者が必要だが、クリス様の話を元に特例を認めた事から、エリーゼ様は婚約者不在のまま爵位を継ぐ。

 エンキー侯爵は姪が辺境伯を継いだ事を手放しに喜び、王太子の戴冠式には出席する事を了承した。

 世論は一気にエンキーとの融和に傾き、反対派の意見は聞こえて来なくなった。


 騎士団や警備隊など、武官がこれを歓迎した事が大きかった。

 元騎士団長が、エンキーを採用するのに昇進させないように圧をかける者達を放置していた事が判明したのだ。彼の退任は元々エリーゼ様のためだったのだが、実際には国を再び傾けかねない状況を救う事になった。クリス様もこれには肝を冷やしたと言っていた。

 シュトラーゼ様は改善を訴えていたが、強く言うと騎士団長が動いた為、エンキーの扱いは悪いままだったのだ。

 エンキーを冷遇していた騎士団の幹部は、その座を追われた。


 そして良い雰囲気で戴冠式の準備が進む中……クリス様は青い顔色で言った。

「……メイフィー、一つお願いしたい事があるんだ」

「何でしょう?」

「戴冠式の後の夜会で……エリーゼ嬢のファーストダンスをローエル殿と踊ってもらう様にお願いしてもらえないだろうか」


「エンキー侯爵じゃなくてですか?」

「実は、霊峰の契約が壊されている経緯をエンキー侯爵はご存じではないのだ」

「……へ?」

「口止めしたんだ。ローエル殿やこちらに居る主要なエンキーに会って、事情を話して黙ってもらっている」

 クリス様は暗い表情で続ける。

「エンキー侯爵が元騎士団長殿の所業を知ったら、戴冠式の前にエンキーとの全面戦争になってしまう」

 王妃と公爵夫人に茶会でいじめを受け続け、亡くなってしまった方はエンキー侯爵の実姉だ。更にシュトラーゼ様は結婚恐怖症。エリーゼ様は記憶喪失。

 思い出した途端に私も血の気が引いた。


「つまり元騎士団長の行いを知られたらエンキーは……」

「その場合にはコリーヌも敵となる。エンキーは結束が強いんだ。我らに太刀打ちする術はない」

 ぎょっとして背後に控えるコリーヌを見ると、困った様に眉尻を下げているが否定しない。

「エリーゼ嬢は、僕らと彼らの板挟みになって苦しむだろう。それは、彼らも望まないそうだ。エリーゼ嬢の人徳のお陰で、首の皮一枚でつながっている。……メイフィーどうか頼む」

「分かりました」

 できればこんな政治的な話で強要したくはないのに……。 


 エリーゼ様に都合の良い日を聞いて会いに行くと、嬉しそうにしていた。

(雰囲気が、凄く柔らかい……)

「今日はご機嫌ですね」

「はい。私、戴冠式に着るドレスを叔父様から贈って頂いたのです」

 見せてくれると言うので見に行くと、サーモンピンクに白いレースの映える大人可愛いドレスが飾られていた。

「これは……」

 ローエル様が工房で作らせたものだと一目でわかった。きっと、記憶の無いエリーゼ様に配慮してエンキー侯爵に託したのだろう。エリーゼ様もそれが分かっている様だ。

 決して過去だけを見ている訳ではないのはデザインで分かる。


「……男装をやめて最初に着るドレスは、これがいいと思ってしまいました」

 ドレスに触れるエリーゼ様の表情は穏やかだ。

「ローエル様に、ドレスを着てお礼を言いたいです。でも怖いのです。元の私でないから」

 小さなかすれた声に私は言う。

「ローエル様とちゃんとお話しをしてみてください。逃げたくなったら我が家に来てください」

「約束ですよ!」

 そんな事にはならないだろう。


 その後、エンキー侯爵の方から夫人と入場するので、ローエル様がエリーゼ様をエスコート役に、そしてファーストダンスを踊って欲しいと言う手紙が同封されていたと聞いた。

「受けたいと思います」

 元々頼みたい事だったので、思い切り後押しした。


 エリーゼ様のドレス姿デビューは戴冠式の夜会で注目を集めた。


「戴冠式で王妃の私よりも目立つし、美男美女でダンス上手いし、大人でロマンチックだし、今日もデートで茶会に来ないし!私とも遊んでよ~」

「ロザミア様も新しい機械に夢中で私達とお茶してくれない時期がありましたよね?」

「うっ」

 王妃様を宥めつつ、私はエリーゼ様の幸せを祈った。

エンキー侯爵は式典が終わった後、クリスとオスカー、王弟から全てを打ち明けられて謝罪を受けています。

「謝るべきはあなた方ではない」

 そこで一つの密約が結ばれ、騎士団の裁かれた上層部や元騎士団長が変死体として見つかっても、全て病死として扱われる事が決まったのですが……これはメイフィーが永遠に知らない事です。


騎士団長は、奥方は元々不治の病にかかっており本人の意志で隠していたと嘘をついています。エリーゼについても母の死のショックで記憶が飛んだと言っています。必死に口説いて嫁にもらっておいて、掌返ししたとは思っていない侯爵は信じていました。


エリーゼが領主になって数年後、王都墓地にあった奥方の墓はエンキーに移されました。シュトラーゼがこの役目を与えられ、辺境を離れている間に騎士団長は「病死」しました。

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