17 新しい時代
オスカー様が三年に編入し、無事に卒業した日の事だった。
「ロザミア・スラート嬢、どうか私と生涯を共にしてくれませんか?」
講堂での卒業式の直後、最後の挨拶をしたロザミア様を引き留めたオスカー様は、壇上に上がると跪いて求婚した。
学生達は目を輝かせ、その様子を見ている。
「え?何?!」
「あなたに心底惚れています。どうか、俺を夫にして下さい」
オスカー様はかなり緊張してロザミア様の様子を見ている。
ロザミア様はいきなりのオスカー様の行動に酷く狼狽え、真っ赤になりながら言った。
「……よくってよ」
講堂が爆発した様な歓声に包まれる。
それと同時にオスカー様が小柄なロザミア様を抱き上げてぐるぐると回る。
「きゃあ!」
「ありがとうロザミア!愛してる」
「な、な……」
「みんな見届けありがとう!」
再度、歓声が上がる。
この卒業式プロポーズは、学園に残る伝説になった。
王妃の悪意で学園に通えなかったロザミア様は、学園でプロポーズされて王子の婚約者に返り咲く事になったのだ。
新しい王子は熱狂的な歓迎を受け、ロザミア様との婚約式で王太子の指名を受ける事になった。
二人の婚約式は、国内外に国が生まれ変わった事を強く印象付ける事になった。
この頃になると、麻薬の被害を受けた被害者に対する補償金の支払いが完了しつつあった。クリス様がこの国に来てすぐに整えたもので、王妃と王太子に使われていた予算が充てられていた。
重傷者達の治療法も発見され、せん妄状態の患者も減った。治療を飛躍的に進めたのはスラート公爵夫人の尽力があった。医師である彼女が恩師や兄弟子に依頼したのだ。これにはロゼライト元公爵が、かなりの額を寄付している。
不満を抱えた貴族達からクーデターを起こすと言う空気は消え、新しい王室に期待する声の方が大きくなっていた。
ロザミア様は婚約を機に拠点を城に移した為、学園長は名前だけで私とエリーゼ様が業務を分担して行う様になった。式典の時以外は、王子妃としての仕事を始める準備に入ったのだ。
現在陛下は、王弟閣下を代行者に指名し、名ばかりの状態になっている。
陛下とお会いする機会がないので分からないが、オスカー様とその御母上が、陛下の事を何とも思っていなかった事がショックだったそうだ。
オスカー様の御母上……陛下の初恋の女性は、王妃から逃げるべく国外に籍を持つ平民となり、オスカー様の下に三人の子を産んで商会長夫人になっている。彼女にとっては若気の至りでしかないそうだ。
不幸になるよりはよかったのだと思うが、そこまで忘れられるのも嫌なのだろう。
ロザミア様に必要な書類を届けた後、城の渡り廊下で離れた場所をクリス様が美しい令嬢と共に歩いているのが見えた。
「宰相様とクララ様だわ。また一緒なのね」
そんなメイドの声が聞こえた。
クリス様と一緒に居る令嬢は、文官の服を着こなしている。美しく優しそうだ。髪を緩やかな三つ編みにして背に流し、クリス様と速足で歩きながら去って行った。
城から戻ってエリーゼ様にその話をしたら、クララ・ベルハム伯爵令嬢だろうと教えてくれた。
「家計の苦しい伯爵家を支える為に文官になられた方ですね。お兄様の年の首席だったので、二十五歳かと」
「ご結婚は?」
「弟君が家督を継ぐまで誰とも結婚されないとおっしゃっているとか」
「……ご立派ね」
一瞬こちらを見て気づいたのに視線を逸らした時の雰囲気もそうだったが、クララ様はお母様に似ている。だから引っ掛かったのだ。胸の奥で何かが騒めく。
「そうなんです」
エリーゼ様は私の様子に気付かずにため息を吐いた。
「結婚ってしないといけないのでしょうか。クララ様みたいに生きていきたいです」
エリーゼ様は、亡くなった公爵令息・レビン様の一件以来、婚約の申し込みを全て断っている。騎士団長様がしびれを切らせて次の婚約者を決めているようだが、エリーゼ様は乗り気ではない。
クリス様に、今日も手紙を出した。……城で姿を見かけた事は、何故か書けなかった。
いつも通り返事が来ない。
私も……陛下みたいに忘れられてしまうのだろうか。そんな風に思ったら不安になってしまった。
オスカーは、夜会で婚約破棄をされたロザミアの心の傷を気にしていたので、公開プロポーズに踏み切りました。
「ロザミアが了承していないのにサプライズプロポーズとかできねぇ。クリス助けてくれ!」
「その言葉遣いはどうかと思いますが……やっておきます」
という事で、事前に婚約に異論がない事はクリスがロザミアに確認しています。




