16 大きなお友達
学園が再開して一年後、とても体格の良い男性が入学する事になった。
オスカー様、二十五歳。元平民の……王族だ。
三年生の教室に編入生として入ってきたときには制服に違和感しかなく、不審者だと令嬢が私を呼びに来た。私が王族でロザミア様の親戚だと伝えてようやく落ち着いた。
「メイフィーア……帰っていいか?」
「いいえ、ちゃんと授業を受けて下さい」
オスカー様は、王妃様と結婚前に陛下が付き合っていた令嬢との間に出来た庶子だ。
陛下はこの令嬢の事を探していたが、家が突然没落し、その後は商人の後妻となって各国を旅していた為、見つける事が出来なかった。オスカー様の存在が分かったのは、麻薬騒ぎの後だった。
実は、王妃様とその実家に狙われていた為、令嬢が国外へ逃れる為の結婚だったのだ。
オスカー様は既に商人として独り立ちしていたが、王弟閣下が必死に頭を下げて連れて来た。
その後、閣下の屋敷には婚約者の居ない令嬢であるロザミア様が居る事から、我が家に客人として滞在していた時期がある。だから普通に会話が出来る。
何故そこまでしたのか。閣下は、自分が王になるのはいいが、ロザミア様を王女にしたくなかったのだ。
学園長を引き受けた後、ロザミア様の素直さが露見し、すっかり広まってしまった。
そんなロザミア様は令息達に狙われる存在になったのだ。だから娘を守る為に、閣下は継承順位を下げる事になりふり構わなかった。
クリス様は、オスカー様には王の素質があると言う。
交渉に長けている上に三か国語を話すし読み書きできる、更に計算が早くて各国の文化にも詳しい。オスカー様も、製紙で世界一の技術を誇るこの国を盛り立てるのは面白い商売だと思っているらしい。
……ただ、市井育ちで貴族のマナーや言葉遣いが一切身についていない。
城でその部分を教育しようとしたのだが、いつも旅をしていた人なので、城に居続けると退屈してしまう。クリス様が苦肉の策として学園に入れた。
「いくら俺がマナー教育に飽きるからって……これはないと思う」
「そう思うなら、貴族の手本となる振る舞いを身に付けて下さい」
「クリスそっくりだな。同じこと言いやがって」
「クリス様と似ているだなんて、光栄ですわ」
オスカー様は不貞腐れてそっぽを向いた。
そうは言うものの授業は面白い様で、毎日通ってくる。問題はマナーレッスンやダンスレッスンだ。
「何処へ行くのですか?」
そっと授業を抜けようとしているオスカー様をロザミア様が呼び止める。
「これは従妹殿」
「ダンスですね?私がパートナーになりましょう」
「……」
神出鬼没のロザミア様は、オスカー様が来るようになってから一緒に過ごすようになった。
どうやらロザミア様がオスカー様を気に入って絡んでいるらしい。
「ロザミア、ニンジンを食べると背が高くなるんだ」
「本当ですか!」
「ああ、だから俺の分も分けてやろう」
「まぁ、殿下は何て紳士なのでしょう」
エリーゼ様と私は半眼でオスカー様を見るが、オスカー様は私達の視線を堂々と無視する。皿の端に避けられたニンジンを、機嫌よくロザミア様はフォークで刺して口に入れていく。
公爵令嬢にニンジンを抹殺させた王子殿下の事は、クリス様にしっかりと手紙で伝えておいた。
クリス様は王宮でマナーレッスンも兼ねてニンジンのフルコースを食べさせたらしい。それ以後、ロザミア様がねだってもオスカー様は食堂でニンジンを譲る事は無くなった。
こんな状態の学園だが、年長者の視線は優しい。
以前家庭教師に来てくれていた教師陣が言うには、麻薬が蔓延していた頃の学園では考えられない程穏やかな状態だからなのだとか。
「あの時、この国はもう終わったと思いました。こんな日が来るなんて奇跡の様です」
そう言って、エリーゼ様にピアノを今も教えている音楽教師は涙した。
放課後、城に帰る前にベンチで話をするオスカー様とロザミア様は、楽しそうに笑ったり怒ったりしている。
「王太子妃教育も終わっているし、ロザミア様を妃にしてくださればいいのに」
エリーゼ様がぽつりと言う。私もそうなればいいと思った。
クリス様にそう手紙を書くと、『僕もそう思う』と返事をもらった。




