15 学園の再開
ロゼライト公爵家……クリスが当主。メイフィーは前当主の養女でクリスの婚約者。
スラート公爵家……王弟が臣籍降下で興した家。母は従軍医だった伯爵令嬢。ロザミアは長女で、年の離れた弟が二人居る。
スラート公爵閣下の派閥とそれに属する騎士団が、王政の立て直しに協力すると表明した事で、政治的な面でも治安の面でも安定が戻り始めた。
まだ火種としてくすぶっているのは、麻薬で子息や令嬢を傷つけられ失った貴族達で、学園の再開に難色を示している。しかし教師や家庭教師の数が足りず、年若い令息や令嬢の教育が遅れていく事に対する不安も出始めた。
私はそのころ、屋敷の別館に希望する令嬢達を集め、疑似的に学園に近い状態を作って学びの場を設けていた。令息はクリス様が禁止しているので令嬢だけだ。
私もクリス様も隣国から来ている上に身元がはっきりしている。麻薬とも政治的な派閥とも無関係だ。だからわざわざご令嬢の事を頼みに来る親御様が、この屋敷を訪問する事も増えた。
お金を謝礼程度しかとっていないのも知れ渡り、下位貴族の家からも申し込みが来始めている。遠方のご令嬢達の希望もあり、寮もない事から限界になっていた。
早く学園を再開させないと、お屋敷や別館では受け入れに限度がある。クリス様にその事で手紙を書いた。すると、珍しくクリス様から返事がすぐに返って来た。それは私に対する指示だった。
その件で今、ロザミア様の家に先ぶれを出して訪問している。
「いらっしゃい!今日はテラスにお茶を用意しているのよ」
頭が良過ぎるし大学を卒業していてお金持ちだけれど、感情的には私よりも幼いロザミア様。実は信じられないくらいに分かりやすく、親しくなると相手の言動を疑わない。
言い負かした後、謝罪を受け入れ友達になってから分かった。貴族として無防備過ぎる。変わっているが魅力的で放っておけない方なのだ。
「あの、お願いがあるのです」
私はしばしの近況報告の後、ロザミア様とご両親を見て言った。
「学園を再開させたいとクリス様はお考えです」
「ええ、あなたの家が女学院の様になっているものね」
ロザミア様が同意してくれるので、話を切り出す。
「ロザミア様、学園の校長をやってみませんか?」
ロザミア様はぽかんとされてから、目をきらきらさせながらも唇を戦慄かせて言った。
「他に適任者がいるのではなくて?」
凄くやりたいの我慢してる!
「いいえ。ロザミア様は、以前の学園に通っておられませんでしたから麻薬と無縁です。しかも大学も出ていらっしゃいます。これ程の適任者はいませんわ」
必死に口角があがるのを我慢しているが、誤魔化しきれていない。
「あ、あなたがそこまで言うなら、引き受けてあげてもいいわよ」
学園長を引き受けてもらえるように頼んで欲しいと、クリス様から指示があったのだ。
「ありがとうございます」
ほっとしてお茶を飲んでいると、ロザミア様は悪い顔をした。
「ただし……あなたとエリーゼを副学長に任命するわ!」
「え?」
閣下と夫人がうんうんと頷いている。……エリーゼ様の困った顔が脳裏に浮かんだ。
「そ、それこそ他に適任が」
「いないわ。学園長命令よ」
まだなってないのに。
結局……私とエリーゼ様は抵抗も虚しく、再開した学園の副学長となった。
げっそりした表情でロザミア様の左右に立つ私とエリーゼ様。ご機嫌なロザミア様は、始業式で機嫌よく話し始める。
「今日から再開する学園の校長であるロザミア・スラートです。麻薬の蔓延と言う不幸な出来事があった為、学びの場は閉ざされてしまいました。しかし!今こうして再出発をする事になりました。悲劇を繰り返さない為にも、毎日の暮らしが乱れない様にしながら、楽しく生活してください」
こうして、学園は再開したのだった。
新生の学園は評価が高まって行った。
令息達には、女性を人として尊重する教育を取り入れた。私達三人の総意だ。女性を所有物の様に扱っていいと言う考えは困る。
一方で女性にも経営学や算術の授業が必須になった。領地の収支やドレス価格の計算が出来なかった事が不幸の原因だったと考えられたからだ。
日々は穏やかだ。エリーゼ様が剣術や馬術の指導をしているときもあるし、ロザミア様が授業に紛れている事もある。
ロザミア様の行動は最初こそ驚かれたが、時間が経つにつれて慣れて、ロザミア様が教室に来るのを、学生達が楽しみにするようになったのだった。
学園に通いたかったロザミアは、眼鏡をかけて制服を着た上でいそいそと好きな授業に紛れます。
見つかったら「授業視察」と言う感じです。眼力を削減されると、ロザミアは小柄でかわいい令嬢なので、人気になりました。
エリーゼは馬術や剣術のクラブで顧問もしており、男女共に生徒が多く参加しています。
メイフィーは、ロザミアの放り出した書類の始末をしています。別館で授業を一緒に受けていた令嬢が遊びに来るので、一緒にお茶を楽しんだりも。学生ではないものの楽しく過ごせています。




