11 栄華の代償
「子を失う可能性を度外視し、己の美を追求した王妃や公爵夫人が社交界を牛耳っていた時から、もう終わりが見えていたんだ」
体型が崩れるから子供は一人で十分。そう言って美しさを追求した二人の話は、母国でも有名だった。……発端は、母国の王妃様があまりに美し過ぎるから、対抗意識を燃やした結果だと聞いている。
しかしやり過ぎだ。
「どうしてそこまでしたのでしょうか」
「これには母国の王妃様だけではない理由がある。……陛下が王妃を放置し、叔父上が公爵夫人を甘やかしすぎた。それが全ての始まりだった」
陛下は、元々愛していた女性と結婚できず、親の決めた公爵令嬢と結婚した。愛情が無いから、予算内であれば何をしても無関心だった。
一方で臣籍降下した王妹は、溺愛されていた。だから何をしても叔父様は許したのだ。
最も高い地位にあるのに愛されない王妃、愛はあっても王族を出ねばならなかった元王女。やっている事は同じでも実は二人の仲は険悪で、見栄の張り合いが激化したのだ。
女性達の社交の場は荒れ、経済的に困窮していく貴族達。その裏には領主達の密かな増税があり、しわ寄せは庶民へと行ってしまった。
仕事も居場所も失った者達は、やがて徒党を組んで盗賊や山賊と言った犯罪者へと身を落としていった。陛下も叔父様も、この賊を取り締まる対策には躍起になっても、領主達がその原因を隠していたから大元が自分達の妻だとは思っていなかったそうだ。
「貴族の夫人は子を複数産んで育てるのは、家を背負った義務に等しい。養育費を考えなくていい王妃と元公爵夫人は、その分の予算を全て自分で使っていた。潤沢な資産でやりたい放題だったと言う事だ」
「正しく貴族の責務を果たしている者には、ついていけない贅沢ですね」
「そうだ。王弟殿下だった公爵を始め、王妃達を早々に見限った家が、今の状況で瓦解を防いでくれている。……麻薬に手を出した者とそうでない者の差も同じだ。……彼らには被害が出ていないんだよ」
つまり、王太子と公爵令息に取り入った者達が、麻薬に手を出したのだ。
「陛下も叔父上も、事実が分かったのは全てが終わった後だった。……たから、僕が呼ばれたんだ」
誰も継がない公爵家。跡継ぎの居ない王家。……クリス様の城での重責を思うと胃がきゅっとなった。
「クーデターを起こそうとしている人達は……元々の素行が悪かったと言う事なのですね」
「そう。……だから、そんな彼らにしっかりと貴族の義務を思い出してもらうつもりだよ。読み書き計算、外国語、剣術、馬術。血税で得たものは、ちゃんと労働で返してもらわないとね」
貴族の平民落ちは罰であり屈辱とされているが……責務から解き放たれ、知識を活かして生きていけるから実は平民の中では尊敬を集めるし所得も高くなるそうだ。
給金を減らして貴族のまま働かせるとクリス様は言う。目が怖い。
「立て直すには時間がかかる。……君とゆっくりできる日は多く取れないと思う。だから心穏やかに過ごす事を優先して欲しい」
心安らかにと言われても、国を出られただけで十分心安らかだ。こんな物騒な話をきかされても、それは変わらない。
「クリス様は……どうしたら心安らかになれますか?」
「……僕?」
「はい」
私はこの屋敷で学んでいるだけだ。どちらかと言えば、クリス様が心配なのだ。
「私だけが心穏やかではいけないと思うのです。……その、お役に立ちたいのです」
ちょっと偉そうな事を言ってしまった。そんな私の頬に手が伸びてきた。
クリス様は私の頬が柔らかくて好きだと言う。だから、気分がいいとこうやって触れて来る。
「じゃあ、手紙をくれるかい?返事は書けないかも知れない。けれど、必ず読むから君の毎日を教えてくれないか?」
「はい!毎日出します」
元気に返事をしたら、クリス様が嬉しそうに笑った。
貴族達の話をするときのクリス様の目を思い出す。以前言っていた通り、人を大勢殺せてしまうのは本当なのだと思った。
かつて、私に言葉を投げかけ続けてくれたカイルの様に、今度は私がクリス様の心を支えなくては。
婚約者としての交流も多くはなかった。これから始めよう。
クリスがこの国に破格の待遇で招かれ、周囲の国もそれを容認したのは、王政の国家ばかりだった事が理由です。クーデターが起こり、民主化が始まると近隣国も影響を受けます。クリスはそれを止める使命を負っています。
男爵親子が惨殺された事件で、税率を上げて王妃達におもねっていた貴族達は命の危機を感じている為、クリスの言い分に大人しく従っています。




