12 不遇なエリーゼ
私の勉強にエリーゼ様が付き合ってくれるようになって三ヵ月が経過した。
当たり前に分かっている事もエリーゼ様にはあるだろうと思い、何か学びたい事があったら是非と言ったら、
「では……ピアノを」
との事で、音楽の家庭教師を増やす事になった。
エリーゼ様は、乗馬や剣術の時間が多かった為、ピアノのレッスンができなかったそうだ。
エリーゼ様は、幼い頃に御母上を亡くされている。騎士団長様の采配で、嫡男であるお兄様と一緒に教育を受けたそうだ。
社交が酷く荒れていた時期でもあったので、周囲もそれを変えるように言わなかったそうだ。だからそのままになってしまった。
(本当はピアノも弾きたかったのに、言えなかったのでしょうね)
そう思うと、ほんの数か月前の自分を思い出す。落ち着かない。だから協力出来る事はしたいと思った。
私はピアノの基礎を習っているエリーゼ様の側で、他の授業の予習や復習をする。
そして授業の締めくくりに私がピアノで一曲弾く。
ピアノは母国ではコンクールもあって令嬢に人気だ。音楽家として名を売れば結婚もしやすく、社交も楽になるからだ。私は話題に困るとピアノに話題を振って弾いていたから、結構うまい方だと思う。
公爵令嬢に下手だと言う人はいないので、本当の所は分からないけれど。
教師には絶賛されたし、エリーゼ様には尊敬のまなざしを向けられた。……ちょっと恥ずかしい。
「練習を怠らないで下さいね」
エリーゼ様にも私にもそう釘を刺して先生は帰って行った。
エリーゼ様とは話してみると気が合った。……私と同じく、家族の為に色々と諦めて来た過去があるからだろう。分かってしまえば気楽だった。
エリーゼ様もそう思っていてくれるのか、屋敷へも気楽な雰囲気で来てくれる様になった。
ドレスに関しては、私の予想通りの答えだった。やはり王妃様と公爵夫人に対して、抗議の意味があった様だ。
「そもそも、ドレスを作る事を父が許可してくれなかったのですけれどね……」
「どうしてですか?」
「母は……王妃様と公爵夫人の茶会に参加していて、体調を崩して亡くなったそうです。だから茶会に参加しないようにと」
クリス様の情報と食い違う話に、内心首をひねる。
確か辺境伯家は王弟派だと聞いた。つまり……王妃の歓心を買う事をせず、質素倹約して領地経営に力を入れている筈だ。何故茶会に?そもそも……
「では、どうして婚約されたのですか?」
「私はロザミア様の道連れで婚約したみたいです」
「道連れ?」
ロザミア様は、この国にもう一つある公爵家の令嬢で、現陛下の弟君を当主にしている。つまり、前公爵夫人のもう一人の兄にあたる。実はこの王弟にあたる方の夫人は、社交に顔を出さなくなっていた。
『わざわざ華美で高価なドレスを着ていじめられに行きたい夫人は居ない』
と王弟閣下は伝えたのだが、陛下はそれを曲解した。ドレス代も出せない程に臣籍降下してからの領地経営が大変なのだと思い込み……ロザミア様との縁談を王命として進めたのだ。
『娘にはまだ早いかと。お許しください』
『問題ない。案ずるな』
と、さもいい事をしたように王命を出されたとか。
それで……エリーゼ様は道連れにされた様だ。
「そう聞いています」
「どういう事でしょうか」
「その、縁談が来た当時の記憶があやふやなのです。母を亡くしてからあまり時間が経っていない時期だったせいかも知れないのですが。本当に覚えていないんです」
幼少期の記憶にところどころ欠落がエリーゼ様にはあるそうだ。
「覚えている限りでは……ロザミア様は幼い頃から怖い方でした」
強いエリーゼ様にそう言わしめるロザミア様。怖すぎる。
そこでふと思う。
「ロザミア様は、王位継承権をお持ちではないのですか?」
王太子殿下の死後、後継は決定されないままになっている。
「持っていますが……ご本人にその……色々と問題がありまして……それで御父上の公爵閣下も立太子を拒んでおいでです」
陛下に何かあった時に継ぐ人が分からないと言うのは、貴族も平民も不安だと思うのに何故なのだろう。
そんな事をクリス様の手紙にしたためた翌日……。そのロザミア様がエリーゼ様と共に屋敷にやって来た。




