091 古代魔法フェスティバル4
古代魔法フェスティバルの本祭は、昨日と比べ物にならないほど多くの人で溢れていた。
家族連れは勿論のこと、カップルに友人などなど。隣を歩くパートナーの関係性は様々でも、皆思い思い楽しんでいる様子だ。
そんな中、私達が開く『魔法使いの館』も大盛況。私はフローラ様に、シャローゼ様、それからジュディまでもを巻き込み、てんてこ舞いの忙しさでテント内を駆け回っていた。
「お姉さん、写真を撮ってもいいですか?」
「あら、喜んで。ララルーラ!」
シャローゼ様は、ノリノリな性格が功を奏したのか、本格的なカメラを持った男性相手に大人気。
朝から撮影待ちの行列が出来るほど、彼女の周りには人だかりが出来ている。そんな看板娘として忙しい彼女の代わりに働くのは、普段その存在を一切私に匂わすことのなかった、自称「友人だ」という男性陣三人。もちろん、もれなくあざとかわいい系男子君たちだ。
「お待たせしました、こちら花咲く魔法のジャスミンティーです。見てて下さいね。上手くいくといいな。よしっ、ララルーラ!」
あざとかわいい君が振るのは、先がボールペンになったマジックワンド。彼はそれを透明なグラスの上で振りつつも、もう片方の手でグラスにお湯を注ぐ。すると透明なグラスの中にジャスミンの花がふわりと咲いた。
これはただ、蕾状態にして凍らせた花を半解凍し、それにお湯をかけただけという、インチキマジックだ。
「わー綺麗!!」
「とっても映えそう。写真とろっと。あ、あなたも一緒に」
注文した女子は、可愛いお茶と、あざとかわいい男子君に大喜び。
幸せがテーブルを包みこんでいる事に私は満足する。
実は女性たちに大人気の『花咲く魔法のジャスミンティー』はエメル殿下が考案したお茶の一つだ。
『東方ではかつてこうして花を咲かせて飲む風習があったそうだ。見た目に綺麗だし、どうだろうか?』
そんな風に目を輝かせ、私の前で実演し、楽しそうに説明してくれた愛しい殿下はもういない。
「フローラ様、夢見る魔法使いのパフェを二個、五番テーブルにお願いします」
「分かりましたわ。ところでジュディ、五番テーブルってどちらかしら」
フローラ様はジュディから渡されたトレイを持って立ち尽くす。
「あーもう、こっちです」
ジュディはフローラ様から渡したばかりのトレイを奪う。
「フローラ様、五番はこっち。着いてきて下さい、あ、四番のも私がもってく」
ジュディはトレイに料理をテキパキと載せる。
「ジュディ、私もお手伝いをしますわ」
フローラ様が料理に手を伸ばそうとした腕を、ガシリと掴むジュディ。
「はい、これ。フローラ様はおしぼりをお願いします」
「かしこまりました!」
おしぼり片手に、嬉しそうなフローラ様。
フローラ様とジュディも手分けして、接客や行列の整理などをしてくれている。
フローラ様に至っては邪魔してるとも言えなくもないが、ジュディが二人分以上の働きをしてくれているおかげで、何とか捌き切れているという状態だ。
そして問題はこっち。
「エメル殿下、お写真ご一緒してもよろしいですか?」
流行りのミニスカートで膝を出し、髪の毛をくるりんと可愛らしく巻いた女の子達。
その中心にいるのは私の婚約者、エメル殿下だ。
「はいはい、勿論いいですよー。じゃ並んで下さい。殿下、笑顔でお願いしますよー」
殿下の従者と化したデミアン君が女性のエーテルフォンで「はいチーズ」と写真を撮る。
「わ、ありがとうございます!この写真待ち受けにしますね」
女の子達は嬉しそうにエーテルフォンを受け取り、きゃぴきゃぴと去っていく。その後ろ姿を見送る殿下の笑顔は満更でもない様子。
「私達もエメル殿下と写真いいですか?」
新たに現れたこれまたキラキラオーラを放つ、お洒落な女の子達。
「どうぞーはい、殿下、笑って笑って」
デミアン君はこれまた爽やかな笑顔で、先程と同じような台詞を再び口にする。
普段研究所にいる事の多いエメル殿下だし、一般人とこんな風に関わる機会がないから、女の子達が殿下に群がってしまうのは仕方がないのだろう。
そう大人びて自分に言い聞かせるも、私はイライラしている。
何が嫌って、殿下もちょっと浮かれているところだ。
「ティア、ほらサボってないで。これ八番テーブル。ティアの担当でしょ。それから七番にも新しいお客さんが席についてるから、帰りにオーダー取ってきて」
カウンターの影に隠れながら、こっそり殿下を観察していたのが、我らが司令塔ジュディに見つかってしまったようだ。
「はい。八番いきまーす、帰りに七番のオーダーとってきまーす」
私は銀のトレイの上に『魔法の精霊サラダ』と『魔法の四大元素プレート』を乗せ、席までスイスイ移動する。
因みに『魔法の精霊サラダ』は、自然界に生息する魔法の精霊が宿るとされる、新鮮な野菜と果物を使ったサラダで、『魔法の四大元素プレート』は魔法の四大元素である土、風、火、水をイメージした多彩なパンの盛り合わせとなっている。
八番テーブルについた私は、商品説明と共に華麗に料理を提供し、そのまま滑るように七番テーブルへ。
「ララルーラ、いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
杖をフリフリ一回転。最後の「お決まりですか?」の所で杖を両手に持ち、頭をコテンと横に向けるという、くっそはず……とても恥ずかしいポースを決めたところ、私はお客様の顔を見て固まる。
「昨日ぶり、って言うか、わりとノリノリじゃん」
ニヤニヤとしているのは、採掘の先輩だ。
「ユアンさん、来てくれたんですか?」
昨日はサクッと断ったわりに、再度足を運んでくれるなんて、やっぱりいい人だと感動する。
「実はリサイクル品を出店してる友人に、お昼の店番を頼まれてさ。それが終わって、こっちにきたら、丁度入れそうだったから。しかし、大盛況だねぇ」
ユアンさんはお店をぐるりと見回す。確かになんだかんだ、有り難いことに席は埋まっている。
「あ、こっちはカフェで働く仲間のロイド。彼女が噂のエメル殿下の婚約者のティアリスさんだよ」
ユアンさんは連れの男性を紹介してくれた。
「初めまして。何だか有名人に会った気分」
ロイドさんは、一見すると地味で平凡な容姿をしているが、よくよく見ると顔のパーツは整っており、なかなかのイケメンさんだった。
「ティアリスです。私はただの人ですよ。有名なのはあっち」
私はウイッチワンドの先端で、群がる女子の中心にいるエメル殿下を指す。
「あー、確かに。女の子がみんな殿下に吸い寄せられてるね。まるで魔導掃除機に吸い込まれるみたいだ」
ロイドさんは苦笑いする。私は彼の例えに「わかる」と、クスクスと笑ってしまう。
「長居させちゃ悪いよな。オススメはどれ?」
流石フランケンシュタインカフェの店員さんだ。ユアンさんは忙しく働くこちらに配慮し、即座にメニューを決めようとしてくれる。
「えーと、『魔法使いの秘密のサンドイッチ』ですかね。これ私が監修したんですよ。あとは、『呪文シナモンロール』も美味しくて、個人的にはオススメです。お飲み物は『魔法ポーションコーヒー』がただのコーヒーですが、売れ筋です」
「うちの店のネーミングセンスもやばいけど、これも恥ずかしいね」
「でもそっちと違って、ここでは無理やりメニュー名はお客様には、言わせませんよ?」
前回お店で『無罪放免サラダ』と『不完全な生き物』をちゃんと言えと叱られた時の事を思い出し、意地悪く伝える。
「ははは。まだ根に持ってるんだ。じゃ、俺は『魔法使いの秘密のサンドイッチ』と『魔法ポーションコーヒー』をお願い」
「かしこまりました。ロイドさんは?」
「俺はそうだな。『幻想の月光ティー』と、『魔法の輝きフルーツサンド』で……って、確かに言わされる方は恥ずかしいんだな」
ロイドさんは赤くなる。
「では少々お待ち下さい。ララルーラって、こっちもわりと恥ずかしいですよ?」
ウィッチワンドを振り、思わず赤面すると、二人は「わかる、その気持ち」と同意してくれたのであった。




