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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第五章 百五十年後の世界に出会えてありがとう
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084 困った時のシャローゼ様1

 殿下の誕生日が迫る中、私はいくつか悩みを抱えていた。


「困った時に頼る人。それはシャローゼ様に決まってるわよね」


 私は脳裏に浮かんだ彼女を早速呼び出した。


 今回待ち合わせたのは、大きなビルの前。

 毎回呼び出すのは私が多いけれど、お店はシャローゼ様がチョイスしてくれる。なぜなら好奇心旺盛で、流行に敏感な彼女は、行きたいお店に事欠かないからだ。


「おまたせー」


「全然待ってないですよ」


 定型文となる会話を交わし、私はシャローゼ様に導かれるまま、ビルの中へ侵入する。そしてそのまま二人で、今は怖さを克服済みのエレベーターに乗車する。


 シャローゼ様がポチりと押したのは四十九階。

 わりと高度が高い場所にあるお店のようだ。


「今日は最近話題になってるお店なの」


「へー。何がオススメなんですか?」


「絶望の血したたる帝国牛のステーキかなぁ」


「え?」


 聞き間違いだろうか。今とんでもない単語が……と困惑していると、チンという音で、エレベーターのドアが開いた。


「さ、いこ」


 何故かシャローゼ様に腕をガシッとホールドされ、私はフロアに降り立つ。


 視線の先に最初に入ってきたのは、「エレガント・ティーガーデンカフェ」だ。


 入口には薔薇のアーチが咲き誇り、ガーデンパーティーのような雰囲気で女子ウケ間違いなしといった感じ。流石お店選びのセンスがいいなと感心し、そちらに向かおうと足を運び出したところ。


「あ、違う、違う。今日予約してあるのはこっち」


 シャローゼ様に腕をグイと引っ張られ、私は強制的に通路の反対側を向く事になる。


「え」


 私はポカンと口を間抜けに開けたまま固まる。


 古い洋館をイメージしたのか、入り口にはしっかりと閉じられた、立派な門。


 閉鎖的な雰囲気で、訪れる者を拒んでいる感じがありありと見て取れる。


 よくよく見れば、塀を見立てた柵の上にはドクロが刺さっているし、何故か血のついた包帯も巻きつけられている。


「あっちの方が」


 後ろ髪引かれる思いで、華やかな薔薇で溢れるエレガントなティーガーデンの方を振り返るも。


「たのしみ!!」


 なぜかウキウキするシャローゼ様に引っ張られ、私は来るなと拒む扉の中へと侵入する羽目になった。


 店内に一歩足を踏み入れると、壁には蝋燭を模した光がゆらゆらと灯り、暗い色合いのタペストリーや女の人の目玉が飛び出した不気味な絵が掛けられていた。


 高い天井からは、大きなシャンデリアが垂れ下がり、光の反射で部屋を照らしているけれど、その光は十分に広がっておらず、部屋全体を薄明るい影で包み込んでいる。


 入り口の一角には、大きな本棚が置かれ、そこには古代の魔法書を模したレプリカの本や怪奇小説がずらりと並んでいた。


 フロアに続く絨毯は、まるで血のように真っ赤な色。一応置かれた家具は全てゴシック調のもので統一されているようだ。


「なにここ、怖い」


 全体的に暗く厳かで不気味といった雰囲気漂う場所で、私は早くも引き返したくなった。すると突然、ゴーン、ゴーンと不気味な鐘の音が響き。


「よく来たな」


 照明を落とした薄暗い中。正面からヌッと何かが現れた。


「うわ、びびった」


 今度は私がシャローゼ様の腕をしっかりと掴み、後ずさる。


「驚かせて、悪かったな」


 許可なくポンポンと頭に手を乗せられ、もはや警戒心マックス。


 私は右手をニギニギとさせ、側に置いてある小さな壺に刺さった枝のようなものに手を伸ばす。


「駄目、魔法は駄目」


 私の行動を怪しむシャローゼ様に、ペシリと手を叩かれた。


「こんにちは。私達は初めてなの。この子はちょっと弱虫で」


 シャローゼ様に弱虫扱いされた私は、背筋をピンと伸ばす。


「全然怖くないし」


 最大限強がってみせた。


「ははは。ごめん。いつもの調子でやっちゃった」


 どうやら店員さんだと思われる、目の前の男性がポリポリと頭を搔く。


「だと思いましたわ。普段はフランケンシュタインカフェですものね」


「フランケンシュタインカフェ?」


 なんですか、それは?と私は首を傾げる。


「孤独こそが唯一の慰め。ようこそ、お嬢様」


 男性は私達に恭しく告げると頭を下げた。


 なるほど良くわからないけれど、ホストクラブのフランケンシュタイン版なのだろうか。


「お嬢様って言ってるし」


 向こうはお姫様だったけど。


 私は苦い記憶しか残らない、クラブ・レベンディスを思い浮かべ、ため息をつく。


「ため息つかれちゃった。でも今度古代魔法フェスティバルがあるだろ?それにメレデレク様の誕生日もあるし。だからいまは期間限定でフランケンシュタインの皮を脱ぎ去り、偉大な魔法使いメレデレク様になってるってわけ」


「メレデレク?」


 最近良くその名前を耳にするなと思いつつ、男性を上から下まで確認する。


 黒髪に、空色の瞳。背は高く、身体は細身でスタイルはいい。


 ジャケットを脱いだパンツスタイルで、黒いベストの上にはペラペラでツルツルとした魔法使いのローブを羽織っている。


 私の作ったローブの方が絶対クオリティが高いと、またもや殿下に丸め込まれた件を思い出して、イライラしてきた。


「ほら、『英雄メレデレクの冒険』に出てくる魔法使いの格好にそっくりでしょ」


 シャローゼ様が、さもそれを知らない人はいないという感じで『英雄メレデレクの冒険』とやらを名を出した。察するに絵本か小説なのだろう。


「ああ……なるほど、皆様はメレデレクのコスプレをされているんですね」


 わからないけれど、一応話を合わせてみた。


 実際のメレデレクの格好は全然違う。けれどそれを指摘するのがナンセンスなことぐらい、私も学習済みなので無視した。


「メレデレク様がツンデレって噂だったから、塩対応になるかもだけど、よろしく。じゃ、さっさと、こっちへ来いよ」


 突然オラオラ口調になった男性に驚くも「彼も仕事なのだから」と、私は静かに彼の背中を追いかけるように歩き出すのであった。

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