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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第五章 百五十年後の世界に出会えてありがとう
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083 日々、いいように丸め込まれる

 殿下が引いたくじ引きは、明らかに細工されていた。


 けれど、どうやらそれは、「コンカフェなんてやりたくない」という、研究員達による満場一致で仕組まれたものだったようだ。なぜならそもそも今回のお祭りでコンカフェを出そうと提案したのが、何を隠そう殿下だったらしいから。


『パトーラで立ち寄った『英雄のさかな』を思い出したんだ。今年開催される古代魔法フェスティバルは魔法使いがテーマだからな。店員が魔法使いの役になりきるのは、なかなかいい案だと思ったんだ。それに他に何も思いつかなかったしな』


『パクリですよね?』


『まぁ、そうともいう』


 さりげなく確認したら暴露した。だから間違いない。殿下は自分で自分の首を絞めたようだ。


 とはいえ、殿下はやると決めたら頑張る人だ。しかも下手に知識と財力があるので、とことん突き詰めたりもするタイプ。


 よって巻き込まれた私達は当日に向けて、やたらクオリティーの高い物を準備させられる羽目になった。


『衣装は君に任せよう』


『え、お裁縫しろと?』


『いや、縫うのは知り合いの業者に頼むつもりだ。デザインを頼む。当時に忠実にな』


 などど殿下に丸投げされた、絵を描くセンスも、なんなら服のセンスもゼロな私は、新しく同居人となったフローラ様に助けを求めた。


『屋敷にいた時、暇を持て余してたから、裁縫は得意なの。任せて、ティアリス様!』


『私は裁縫が苦手だけれど、フローラ様を精一杯励まします!』


 フローラ様の隣で張り切るのは、サザランド男爵家のメイドで、私の友人ジュディだ。


 殿下と共に参加した舞踏会では勢いでフローラ様を侍女にと口にしたものの、私は普段仕事があるため平日の昼間は家にいない事が多い。流石に職場に侍女を連れていくわけにもいかないため、ジュディをフローラ様のお世話係として、まるっと殿下に雇って貰う事にした。


 彼女たちにかかる必要経費は、私が殿下と結婚するまでに使っていい「支度準備金」というものから出されているそうだ。


『だから君が俺に後ろめたい感情は抱くなよ』


 殿下は私がそうなると見込み、先回りしてそう教えてくれた。


 元々慣れない屋敷でフローラ様を一人にさせてしまうのも何だか悪いと思っていたし、何よりジュディがいればフローラ様は明るくなれる。


 だから私の中で、二人はペアのくくりだ。そして二人を一緒に屋敷で雇っていい。そう許してくれた殿下には本当に感謝しかない。


 という経緯を得て、コンカフェ用のコスチューム制作に向け、力強い助っ人を味方につけた私は「当時を忠実に」を念頭に、頑張って何とか試作を完成させる事に成功。


 ただし見た目は物凄く野暮ったいものになったが、なんせ当時を忠実になので仕方がないというもの。


 ところがこの試作品に待ったがかかった。


 その日いつも通り夕食を済ませた私は、殿下とまったり屋敷の家族用のサロンにいた。


「俺は君のこの変哲のない、素朴なデザインは当時そのままでいいと思っている。何よりこの長いローブは最高だ」


 殿下がベタ褒めしたのは、私が試作品として提出した魔法使いといえば「アレ」とみんなが想像する黒いフード付きのローブだ。


 私が監修したそれは、わざわざ黒のリボンで布の端をしっかりとパイピンクしてある贅沢な逸品。しかも肌触りが良くしなやかな生地に緋色のサテンの裏地までつけた贅沢仕様。正直当時の私が着ていたものより、いいものだ。


 ただ生地とデザインは当時を忠実にしたので、本当はもっと可愛いボタンやら、花がらのリボンなんかも取り入れたい気がしたが、そこは断念した。


 今回わかったことだが、手芸業界も時代の変化と共に、かなり進化していた。


 例えば魔導式ミシン。私が知る限り自動で動くなんて事はなかったし、エーテルフォンのように一家に一台という代物でもなかったはずだ。


『最新式のは、刺繍も勝手に出来ちゃうのよ』


 ダダダダダダと物凄い音を立てながら、恐ろしいスピードで縫っていく魔導式ミシン。それを自由自在に操るフローラ様は、魔導式ミシンの妖精といった感じだった。


『刺繍も自動なんて、もはや家庭科の先生はみんなに花丸をあげるしかなくなりますね』


 魔導式ミシンに驚きつつ、率直な感想を述べると。


『糸調子を整える感覚とか、布を引く加減とか、魔導式ミシンによってコツが違うから、掴むまでは大変なんだけどね』


 ダダダダダとまるで暴れ馬のように、魔導式ミシンを走らせるフローラ様。


『男性に手縫いですってハンカチでも送ったら、きっと違いなんてわかんないし、「おっ、この子は家庭的だな」なんて簡単に騙せそうでいいですよね、魔導式ミシンって』


 ジュディが思わぬ知恵を私に授けてくれた。やはり持つべきものはちゃっかり者の友人のようだ。


 思わず完成したローブを前に、そんなこともあったと思い出す私。


 そんなこんなで、私の注文通りに仕上がったフローラ様WITHジュディの完成品が、今現在ソファーテーブルの上に並べられているというわけである。


「師と仰ぐ者から譲り受けた紋章をこうやって、イニシャルと共に刺繍しておく。そんな情報は初めて知ったし」


 殿下は鳥の紋章が刺繍された、金色の部分に触れながら感慨深げにもらす。ちなみに入れてあるのは、試作品なので私のイニシャル。刺繍したのはフローラ様操るミ魔導式シンである。


「戦闘で万が一ミスって、死亡した時の身元確認用って感じですけどね」


 私が告げると、殿下は驚いた表情になる。しかし、すぐに心ここにあらずと言った感じで、またもや刺繍を指でなぞり始めてしまった。


「本当に、素晴らしい。だが」


「だが?」


 嫌な予感と共に、殿下に言葉を促す。


「ワンピースとセットでこれらを見せたところ、他の研究室の奴らが、もう少し派手にしないと、客が喜ばないと言い出したんだ。俺は絶対に君が監修したこっちの方がいいと思うのだが。絶対に」


 気を使ってくれているのか、やたら「絶対に」を強調する殿下。


 けれど内心、そりゃそうだろうなと私は思う。


 なぜなら私が監修したローブはともかくとして、ワンピースの方は側から見れば地味な黒い布を縫い合わせただけのもの。ある意味、歩くカーテンとも言える代物だからだ。


 現にフローラ様から。


『直線縫いばかりで、飽きてきますわね』


 そう言われたほどだ。


 ワンピースに関して言えば、一番力を入れたのは生地の素材と厚さ。だから可愛さなんてもの一ミリもない。


「すまないな、本当に。なぜか乗り気な奴らが衣装は任せろと。あいつら古代のお化け屋敷担当だからな。衣装は一緒に発注するとかなんとか乗り気で、なかなか断れなくて……すまない」


 私が傷つかないように遠回しに言ってくれたり、シュンと項垂れ、私に萌えを提供してくれる殿下には悪いと思った。けれど嫌味の一つも言わねば、フローラ様とジュディも浮かばれないと、私はムッとした表情で口を開く。


「あー、僕たち、私達が想像する魔法使い、はぁと。みたいな可愛いやつを作りたい、そういうわけですね。まぁ、いいんじゃないですか?みんながそっちにしたいって言うなら」


 私が言い切った途端、殿下は徐ろに私を引き寄せ、抱きしめてきた。


「ティアリス、すまない。でも俺は君のデザインした服の方が好きだ」


 耳元で囁かれる殿下の艶のある「好きだ」に、私は一瞬意識を奪われそうになったが、なんとか持ちこたえた。


 最近の殿下は馬鹿の一つ覚えのように、都合が悪い時はこうやって私を抱きしめたり、キスをしてきたりして、上手く丸め込もうとするという、実に姑息な手を使う事が増えた。


 私の機嫌を取ろうと誘惑するだなんて、殿下は世が世なら、絶対に悪い魔法使いになったに違いない。


「折角作ったのだし、これはこれで君に着用してもらい、個人的に目の保養として楽しもうと思う」


「殿下、その言い方、えろいです」


「えろいとか言うな。愛おしい者を愛でて何が悪い」


 殿下は私の頬を両手で包み込むと、こちらをじっと見つめてくる。


「本当にすまないな」


 すまないと謝るわりに、殿下の顔が私に近づいてきたので、思わず私はぎゅっと目を瞑る。すると唇に柔らかいものが一瞬触れて、すぐに離れた。


「顔が、赤いぞ。可愛いな」


 耳元でまた艶のある声で囁かれる。その声から逃げるように私が身を僅かに捩ると、殿下はクスクスと笑いながらソファーから立ち上がった。


「また明日な。おやすみ、ティアリス」


 そう言って殿下は身をかがめると、私の額に口づけを一つ落とす、そしてしっかりと私の作った試作品のワンピースとローブを手にし、ドアから出て行ってしまった。


 パタンとドアが閉まる音を聞き、私はソファーに身を預ける。そして両手で顔を覆う。


「また負けた……」


 こうして私は、今日も殿下に上手く丸め込まれてしまうのであった。

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