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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第四章 新たな魔物と対峙する
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078 説得力ある嘘1

 エメル殿下の誕生日を盛大に祝うはずの舞踏会は、今まさに私がホストと不貞行為をしたのかどうか。という実に恥ずかしい議題で盛り上がっていた。


 さらには、当事者であり、私にとっては戦犯とも言えるデミアン君が突如群衆の中から出現した。彼の顔に浮かぶのは余裕の笑み。絶対に何か企んでいる。私はすぐにそう勘づいた。


「陛下、こちらの彼は古代魔法研究所にて、私やティアリス嬢と共に働く職員です」


 エメル殿下が陛下を通し、さくっとデミアン君の紹介を会場内の人間にした。


「古代魔法研究?ホストじゃないのか?」


「あの顔は写真のホストと同じだ」


「でも、殿下が嘘をつくはずがないし」


「いったいどういうことだ?」


 周囲がざわつく中、デミアン君は私の隣に並び立つ。もはや公開処刑の仲間が増えた。そんな感じで嬉しいような、悲しいような、とても複雑な気持ちだ。


「彼は今年帝都大学を卒業し、研究所に今年最高成績で入所した未来ある若者です。そんな彼のご両親は幼い頃亡くなり、身よりもなく、彼は孤児院で育ったそうです」


 孤児院という言葉を聞き、何となく同情するような、しんみりとした空気に包まれる。


 当の本人は念願だった研究所に入所出来た現在、生まれなんて気にしていないだろう。けれど孤児院出身と聞き、「可哀想だ」「恵まれない子」だと、周囲がついそう思ってしまうのは、時代が変わっても変わらない気持ちのようだ。


 因みにかつての私は、孤児院出身を遺憾なく利用し、わりと奢ってもらった覚えがある。


 そう、時と場合、それから気の持ちようによって、孤児院出身は武器にもなり得るというわけだ。


「皆様もご存知かとは思いますが、帝都で生活するにはお金がかかる。頼る親もいないとなれば、何とか自分で稼がなくていけない。しかし学生である彼は勉学を疎かに出来ない。さらに彼は昼間、私の研究室において助手をしてくれていた。よって副業をするにも時間が限られていた」


 殿下はそこで言葉を切った。そしてデミアン君にわざとらしく労るような視線を送る。そしてまた、聴衆に向き合い口を開く。


「そこで彼は「高収入、高待遇、学生、Wワーク大歓迎」だと謳われていたアルバイト。ホストを渋々始めたそうだ」


 私の脳裏に、闇バイトという文字が浮かぶ。

 どうやら殿下は私の話をちゃっかり真似したようだ。


「彼はそのアルバイト先となるクラブ・レベンディスにて、一人の貴族女性と知り合った。間違いないな、デミアン・ロトナス?」


 殿下はここで、ようやく公開処刑中にも関わらず、早く話したくてたまらないといった感じで、先程から、私の隣でうずうずしているデミアン君にパスを投げた。


「はい。間違いありません」


 デミアン君は実に嬉しそうに答えた。


「その女性は、お金払いはいいのですが、束縛がすごくて。それはもう、業務に支障をきたすくらいに」


 デミアン君はまるでその女性に怯えているかのように、小さく体を震わせる。


 なるほど。今日のデミアン君は、あざとい系男子を演じているようだ。


「あざとい系ね……ハッ、シャローゼ様」


 私はまずいと、シャローゼ様の姿を探す。すると群衆の中、デミアンを射抜く勢いで見つめるシャローゼ様の姿があった。


「ぶ、ぶれないんだ」


 どうやら彼女の萌えポイントは、あざとい系男子のプルプルする姿のようだ。私はまた一つ、シャローゼ様について無駄な知識を得てしまう。


「しかしホストなんて、女を騙して金をせびるのが仕事なんだろう?」


「その気もないのに好きだと囁き、女を本気にさせて店で金を使うようにさせるらしいぜ」


 会場のざわめきがまたもや大きなものになる。


 確かに「不貞」だの「ホスト」だの、宮殿で行われている舞踏会という神聖な場で、しかもこんなに大勢で議論する話題としては、あまりにもセンセーショナルすぎるとは思う。


 むしろ私がこの場で唯一冷静な人。そんな気すらしてきた。


「た、確かにホストにはそうい人間もいます。けれど僕は、仕事としてきちんと弁えていたつもりです」


 それはない。私はデミアン君に心の中で指摘する。弁えていたら、私を脅して呑ませたりしないはずだ。


「けれど彼女は営業で振り撒く愛想を勘違いし、僕に夢中になりました。そして困ったことに他の女性客に嫉妬するようになり……もうどうしたらいいのかわからなくて」


 デミアン君は説得力を出すためか、感情を込めて説明する。


「そこで私は、彼女に提案したのです」


 突如デミアン君が私を見つめた。そのせいで、完全に傍観者と化していた私に、会場内の視線が一斉に集まった。


「そう。私の心優しい婚約者ティアリス嬢は、勉学に励み生活苦の中、それでも必死に生きる彼に、自分が協力すると申し出た」


 私は「えっ?」という顔で、エメル殿下を見た。すると殿下の視線が「話を合わせろ」と私に指示するものになる。


「そ、そうなんです。私も孤児院出身ですので、デミアン君の事は弟のように思っておりましたので」


 咄嗟のアドリブ力(りょく)により、辛うじて話を合わせる事に成功した。


「ティアリス様は同僚である僕の話を親身になって聞き、そして案を出してくれました」


 デミアン君が私の方に体を向けた。


「そうなんです。案を出しました」


 私は何の?と思いつつ、まるでパスされたボールをそのままトスする要領で、流れに乗っておく。


「ティアリス嬢は、どうせあと少しで店を辞めるつもりならば、自分と付き合っている事にして、その女性と縁を切ったらどうかと」


 デミアン君の衝撃的な発言に、会場内がまたざわつく。


「ティアリス嬢は私の大事な人だ。それを知っていた彼は、悩み、考え、一つの案を思いついた。そうだね?」


 殿下がしれっと私へのオノロケを挟みつつ、デミアン君に華麗に話を振った。


「はい。彼女に寝たフリをしてもらい、写真を撮影しました。そしてそれを僕の顔と合成し、いかにも一緒に寝ているかのような、そんな写真に仕上げたのです。その写真を僕にしつこくしてくる女性客に見せつければ、僕から離れていくと思いましたので」


 デミアン君の言葉で、ようやく私は話が読めた。

 なるほど、あの写真は合成だという事にして押し切るようだ。


「なるほど。考えたものだ」


 殿下はわざとらしく、感嘆の声をあげる。


「つまりあれは合成写真なんだな」


 殿下が再度強調するように、私とデミアン君の顔を交互に見ながらたずねてきた。


「はい、合成です」


 私は乗るしか無い、この波に!の勢いで頷く。


「もちろんそうです。あれは僕が作った合成です」


 デミアン君が堂々と宣言する。


「つまり、ティアリス嬢は不貞など」


「そんなのデタラメだわ!あれは合成じゃないし、掲載された写真は本当に彼の家で撮ったものじゃない。嘘をつかないで!!」


 殿下の言葉を遮り、甲高い叫び声が上がった。


 それからすぐに人垣が割れ、輝く赤いドレスに身を包むニナ嬢が、顔を真赤にしこちらにツカツカと歩いてきた。


「これはサザランド男爵家のニナ嬢ではないですか。どうかされましたか?」


 エメル殿下がわざとらしく驚いた顔で呟く。するとニナ様はエメル殿下をキツく睨み、そのまま彼の横を擦りぬけると私の前に立った。


「あなたはショー……こちらの彼と一夜を過ごしたのでしょう?認めなさいよ」


「私はそんな事をしていません」


 きっぱりと断言する。


 一夜を過ごしたかも知れないけれど、やましい事はなかった。これが事実で、殿下もその事を知った上で私を庇ってくれている。


 だったら嘘つきと言われても、認める訳にはいかない。私はエメル殿下と、婚約破棄なんてしたくないのだから。


「合成だと言うなら、証明してよ」


「ふむ。いいだろう。そこまで言うのであれば、実際どのようにしてあの写真が作られたのか。それをお見せしようじゃないか」


 自信たっぷりな表情をした殿下が告げる。


「証明だと?」


「一体どうやって」


 混乱した声があがる。


「すまない、用意を頼む」


 周囲が困惑する状況を楽しむかのように口元をニヤリと歪めた殿下は、壁に立つ軍服を着た青年に大きく声をかけたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

今朝は、うっかり予約を忘れてました。

申し訳ございません……。

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