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遺物扱いされる私と、遺物マニアの皇子殿下  作者: 月食ぱんな
第二章 とりあえず、巣立ちます
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046 犯人はお前だ!!

 犯人探しの旅は難航中。

 座礁どころか転覆しかかっている。


 フローラ様は恋する乙女モードだし、ジュディはフローラ様を見て嬉しそうだし、エメル殿下は麗しいお顔を惜しみなくカーテンに向け、何やら考え込んでいる。


「ねぇデミアン君、ちょっと」


 私は一人がけのソファーに座り、この状況を楽しそうに眺めているデミアン君の袖を引っ張る。


「なに、愛の告白?」


 デミアン君は私の方に顔を近づける。


 距離が近いどうこうを指摘すると、また話が横道にそれ面倒だ。


 私はもう彼の職業病だと思う事にして、距離感の不具合を正すことを潔く諦める。


「違うって、白状しなよ。怒らないからさ」


 私はデミアン君に小声で告げる。


「ひどいな、ティアリス様はどうしたって僕を犯人にしたいみたいだ」


「だって、私が殿下に連絡しないと、ニナ様にあの日のことをバラすって言ってたじゃない。だから犯人はあなたしか考えられないんだけど」


「つまり君は殿下に連絡しなかったわけだ」


 指摘され、墓穴を掘ったことに気付く。

 けれどここで主導権を渡してたまるものか。


「こっちも大変だったんだから。執事がぎっくり腰になるし、ハウスキーパーは胃腸炎になるし、そもそも交代で連休を回している最中だったし。もう少し待ってくれても良かったと思うんだけど」


「でも常識的に考えたら、あのタイプの約束って、待っても一週間じゃないかな。僕はそれ以上待ったわけだし、充分優しいよね?」


「やっぱり、犯人はデミアン君じゃない」


「でも僕がやったって証拠はないよ?」


 ニコリと微笑むデミアン君。


「でも状況証拠と動機がデミアン君を犯人だと示しているわ」


「まるで覚えたての難しい言葉を使いたがる子どもみたいで可愛いね、ティアリス様って」


「だからそういいの、いいから」


 私はやれやれと肩を落とす。


「会話が弾んでいるところ申し訳ないのだが」


 エメル殿下の遠慮がちな声が飛んできた。


「えぇ、とても楽しそうですわね」


 フローラ様も私とデミアン君を見て微笑んでいる。


「案外お似合いの二人なのかも」


 ジュディの言葉に私はすくっと立ち上がる。


「今度こそいいですか皆様。フローラ様は犯人ではありません。なぜなら私は犯人を知っているからです」


「そうなのか?」


 エメル殿下が私の言葉にわかりやすく食いつく。

 しめしめといった思いで、私は殿下にしっかりと体を向ける。


「はい。私はデミアン君に脅されていたのです!」


「あら、どうしてなの?」


 フローラ様から素朴な疑問が飛んできた。

 まぁ、そうなるよねと私は覚悟を決める。


「デミアン君から殿下に連絡しなければ、ニナ様に写真をばら撒くと!!」


「意義あり。僕は写真をばら撒くとは言ってません。ティアリス様、嘘はつかない。訂正して」


 ソファーの肘掛けに、他人事といった感じで頬杖をつくデミアン君にサラリと注意された。


「た、正しくは、ニナ様にデミアン君のお家に泊まったことを言うと脅されました。因みにデミアン君は、ニナ様が自分に気がある事を認識済みです」


「まぁ、わかりやすい好意を寄せられていたのは確かです」


 流れがきたと、私は小さく拳を握る。


「そもそも何で、ティアリス嬢は俺に連絡しなきゃならないんだ?」


 エメル殿下が完全に流れをぶった斬るような、素朴な疑問を口にする。


「まぁ、なんて鈍感なのかしら」


 フローラ様が殿下に憐れみの視線を送る。 


「皇子様ですから、浮世離れなさっているんじゃないですかね」


 ジュディがわりと的を得たような返答をした。


「確かに俺は鈍感だと言われる。しかし何か用事がなければ普通は連絡などしないものだ。むしろ頼りがないのは元気な証拠と言うじゃないか」


 殿下は至極真っ当な意見を述べる。


「殿下は女性に対する経験値が低いからそう思うんですよ。用事がなくても、お互いの近況や興味を共有することで、より深い関係を築けるものなんです」


「そうなのか……」


「確かに人とのつながりを大切に思う人ほど、こまめに連絡をして下さるイメージですわ」


 フローラ様はうんうんと頷く。


「つまり、殿下に連絡をしなかったティアは薄情な人間ってことになっちゃいますね」


 ジュディがサラリと余計な事を口にする。


「ちょっとジュディ、それは違うわ。殿下だし、一応時候の挨拶とかした方がいいかなって思っていたから、なかなか送れなかっただけ」


 誤解を解くため、私はすかさず弁解した。


 それに喧嘩するように自分の思いをぶつけて飛び出した手前、なかなか連絡できなかっただけだ……ってまた変な流れになってきているではないか。


「と、とにかくこれからはこまめに連絡しますってことで」


「うまく誤魔化したねぇ」


 デミアン君がニヤリと口元を歪ませる。私はデミアン君を完全に無視し、話の先を急ぐ。


「犯人はデミアン君。だとすると先程彼は見せてない、送ってない、掲示板に投稿もしていないと証言していました。これを信じるならば、一体どんなからくりがあるのか。それを解明して下さい、殿下」


 私は殿下に縋るような視線を送りつけた。


「確かにそうだな。デミアン、嘘はついてないんだな?」


「はい。エメル殿下に誓って」


 デミアン君は左胸に手を置き、忠誠心をあらわした。


「ふむ。俺も君を信じよう。しかし、君がティアリス嬢を脅していたのは確かなんだな?」


「そうですね。僕はお二人に仲良くして欲しい。その気持ちから、確かに脅すような事をしたと認めます」


 デミアン君は尊敬すると口にするエメル殿下には素直になれるようだ。


 あっさりと私を脅した事をしおらしく認めた。


「でも多分、あれもしおらしいフリだけどね」


 思わず指摘するとエメル殿下に、ため息をつかれた。


「ティアリス嬢が自分を脅したデミアンを責めたい気持ちはわからなくもない。けれど、彼は彼なりの正義で行ったことだ。やり方は間違ってしまったようだが、誰かのために自分が悪者になれる。それは立派なことだと俺は思う。少なくとも俺には真似ができないし」


 前半はわりと威勢よく私を諭していたのに、後半は自己嫌悪で終わるところが殿下らしいというか、なんと言うか。


 殿下は確かに鈍感だ。でも人の気持がわからない人ではないし、言えばちゃんと気付ける人だと思う。素直なぶん、伸びしろだけは誰よりもありそうだ。


 なんて上から目線で意見できるほど、私だって完璧じゃない。


「肝に銘じておきます」


 私はこの場は殿下を見習い、素直に引き下がることにする。


「俺もだ、肝に銘じておく」


 エメル殿下はデミアン君に向き直る。


「デミアン、脅し以外に何かしたのか?本当に画像が拡散された件に関与していないのか?」


 デミアン君は口ごもった後に、少し考えるそぶりを見せる。


「僕は夜の仕事中、エーテルフォンをテーブルに置き、席を立ちました」


「どういうこと?」


「どういうことだ?」


 思わず殿下と声が揃い、私達は顔を見合わせる。


 そして何となくお互い恥ずかしくなり、不自然に視線をそらした。


「謎は解けましたわ!」


 フローラ様が突然パンと大きく手を打った。


「凄い、流石です」


 ジュディが尊敬の眼差しをフローラ様に向ける。


「では、ぜひとも解けた謎を披露してくれないだろうか?」


 エメル殿下がフローラ様を促す。


「かしこまりました。簡単なことですわ。でもその前に一つだけ、デミアン様に確認させて下さい」


 フローラ様は真面目な顔でデミアン君を見つめる。


「あなたが携帯を置いた席で接客していた女性は、エースですか?」


「「エース?」」


 またもや殿下と声が揃う。


 二度目ともなる今回は、お互い視線を合わせ、思わずおかしくて口元を緩ませる。


「エースというのは、自分の担当ホスト、つまりお気に入りのホストに一番お金を使って、そのホストの月の売り上げに貢献した客の事。因みに指名エースってのもあって、それはその月に一番そのホストを指名したお客様のことなんだってさ」


 やたらホスト事情に詳しいジュディ。

 まさかジュディもホストにハマっているのだろうか。


「フローラ様と一緒にネットで学んだからね。行ったことはないけど、知識だけはあるんだ」


 私の疑問が顔に出ていたのか、ジュディが説明してくれた。


「それで、先程の質問に戻るけれど、ショーン様、あなたが携帯を置いた席で接客していた女性は、エースなの?」


 どうみても確信に迫っていそうなフローラ様の問いかけに、私は固唾を呑んでデミアン君の答えを待つのであった。


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