047 真相はいかに
横道に逸れまくりの犯人探しの旅。
とうとう船は無事航海を終えられそうだ。
「それで、先程の質問に戻るけれど、ショーン様、あなたが携帯を置いた席で接客していた女性は、エースなの?」
フローラ様の問いかけにシーンと静まる室内。
「そうだよ、あの子はエースだ」
デミアン君が観念したように口にする。
その瞬間、フローラ様が勝ちを確定したかのように、不敵に微笑んだ。
「では、順を追って説明させて頂きますわ」
居住まいを正すフローラ様。
「お願いします」
私はソファーに腰を下ろす。
「頼む」
殿下もまた、空いているソファーに腰を下ろした。
「フローラ様、頑張って下さい」
ジュディの声援にフローラ様はニコリと微笑む。
「まず、基本的にホストクラブというものを殿下はご存知ですか?」
「一般常識としてなら。女性が対価を払い、男性と飲む場所だと認識している。しかし足を運んだ事はないので、なかなか想像し難い部分はあるが……」
「おおよそ、その通りです」
私は自信なさげな殿下を肯定しておく。
すると殿下は嬉しそうに微笑んでくれた。
デミアン君が古代魔法研究に来て、殿下がすねた時。あの時もこんなふうに私は殿下に、気を使ってあげてたなと、少しだけ懐かしむ気持ちになる。
「そうですわ。ホストクラブはゴージャスで優雅な非日常的な空間で、女性が男性従業員と一緒にお酒を飲んだり、対話を楽しんだりし、ストレスを発散する場所です」
フローラ様は一旦言葉を切ると、そのまま続けた。
「一方で、サービスを受けているうちに、一部の女性客は、担当と会話以上のもの。つまり恋愛関係になることや男女の……ロマンスを求めることがあるんです」
私はニア様を思い浮かべ小さく頷く。
「割り切って疑似恋愛を楽しむ、そういうことか」
殿下も腕を組み、神妙な面持ちで相づちを打つ。
「割り切って、それが出来たら画像が出回る事はなかったでしょうね」
フローラ様は伏し目がちで続ける。
「担当の一番。つまりエースとなる子は、金銭面の負担も大きいはずです。けれどそれだけ本気で応援している、もしくは大好きだから尽くしたいと思っているわけです」
「ふむ。一途なんだな」
「そうとも限らないですよ、殿下」
静かに話を聞いていたデミアン君が口を挟んだ。
「それこそ連絡が数分遅れたという理由で、他店に行ってしまったりする子もいますし。まぁ、客だから店を選ぶ権利はある。だから当たり前なんですけどね。でもこっちもその子に来店してもらおうと、仕事外で時間をかけてるわけですから、イラッとしちゃう時もありますけどね」
愚痴を吐き出したデミアン君は、ふぅと脱力した。
「なるほど。何だか女性不信になりそうだな」
「殿下はすでにその気ありですよ?」
デミアン君が殿下をからかう。
「いや、俺は女性不信なわけじゃない。個人的な付き合いに慣れていないだけだ」
いやにきっぱりと言い切る殿下。
「コホン、お話の続きをいいかしら?」
フローラ様の一声で、私達は彼女に注目し口をつぐむ。
「デミアン様がおっしゃる通り、ホストはお仕事の一つです。だから、多数の女の子を相手に接客します。そしてそれを咎める事は出来ない」
「そう。仕事だからね」
デミアン君は調子良く合いの手を入れた。
「よって、自分がどんなに頑張っても、自分よりお金を使う子が現れたら一番にはなれない。だから女の子は同じ担当を気に入った子同士で、常に戦っている状態になります」
「そう、その管理が本当に気を使うんだよね。特にエース争いとかされると、稼げるけどその分フォローが大変なんですよ。ほんとに」
妙に感情のこもった言い方が、デミアン君の日頃の苦労を感じさせる。
「そうか。君は生活のために頑張っているのだな」
エメル殿下はデミアン君をまるで弟に向けるような、そんな優しい眼差しで見つめた。
どうやら私がいないうちに、師弟関係がバッチリ構築されているようだ。
「でももうすぐ辞めます。ある程度貯金できたし、古代魔法研究所に入所するための試験勉強もしたいですし。あ、勿論研究所でのお手伝いの方は頑張りますので、よろしくお願いします」
「助かるよ」
二人の信頼し合うやり取りを見て、少しだけ寂しさを感じた。
もちろん自分で辞めたのだから、こうなる未来はわかっていたけれど、なんとなく疎外感を感じ、寂しい気持ちになってしまう。
「あ、もしかしてこれは……」
私は今、かつて私とデミアン君のやりとりを見てさみしげな視線を送ってきていた殿下と同じ状況なのかも知れない。
なるほど、確かに寂しい気分になるものだ。
「ちょっと、みなさーん。脱線しすぎです。フローラ様のお話を聞いてくださーい」
ジュディが口に手をあて、私達を呼んだ。
「あ、ごめんなさい」
「すまない。つい」
「知ってる界隈の話だからさ、つい補足したくなっちゃうんだよね」
私達は今度こそと、三人揃ってフローラ様にしっかり向き直る。
「担当ホストの一番になりたい、特別でいたい。そう思いお金を使うエースと呼ばれる子は、同じホストを指名している女性から常に睨まれる存在になります。わかりやすく言えば、三角形の頂点がホストで、彼らはそこから手を伸ばしているわけです。そして大勢の女性が頂点から伸ばされる手を取ろうと這い上がる。でもホストが伸ばした手は一つ。だから近くの子を蹴落とし、自分が手を取ろうとチャンスを常に狙っている、狙われている状態というわけです」
「想像すると、恐ろしいな」
エメル殿下は、わかりやすく眉間に皺を寄せた。
「ホストが伸ばした手は常に他の子に握られる可能性がある。それって終わりのない、不毛な戦いで、疲れちゃいそう」
私は思わず、デミアン君が膝の上で軽く握る手を見つめる。
「僕と手をつなぎたいの?ティアリス様なら特別にタダで繋いであげてもいいよ」
デミアン君がぬっと私の方に手を伸ばした。私はその手を即座に払い落とした。
「いてっ、冗談なのに」
「私に手を伸ばす暇があったら、ニナ様の手を握ってあげなさいよ」
デミアン君がそうやって私をからかうから、今回は酷い目にあったのだ。
「だんだん、諸悪の根源はデミアン君な気がしてきた」
「ティアリス様の方が、自覚ないぶん悪質だけどね」
「一体何の自覚よ」
「人誑しの自覚」
「お生憎様、デミアン君には敵わないわ」
私はデミアン君と思わず言い合う。
「本当に仲良しですわね」
慈愛に満ちた笑顔を、デミアン君と私に向けるフローラ様。
「付き合っちゃえば?あ、でもそしたら、ショーン様のエースに刺されちゃうか」
サラリと恐ろしい事を言うジュディ。
ニナ様の件があったばかりなので、洒落にならない冗談だ。
「だって、付き合う?」
デミアン君がニヤニヤしながら私に問いかける。
「付き合いません、絶対に!!」
私は即答する。
「そうか、付き合ってはいないのか」
エメル殿下がボソリと呟く。
その言葉の真意を探ろうと思わず、みんなでエメル殿下の顔を見つめる。
「あ、いや。特に深い意味はない。さぁ、フローラ嬢、続けてくれたまえ」
エメル殿下は聞く体制完了といった感じで腕組みをした。
「あ、はい。えっと、どこまで話をしたかしら?」
フローラ様はジュディに尋ねる。
「担当ホストの一番になるのは大変。そして、なったところで常に蹴落とされる恐怖に怯え、周囲を警戒し、気の休まる暇がないって感じでした」
「ありがとう、ジュディ。そもそもエースになったところで、優越感は得られるけれど、自分だけがお客さんという状態になるのは不可能だわ。だからホストの行動を監視したくなるし、自分以外の子の動向を気にしてしまう。そんな状態で大好きな人の情報が詰まったエーテルフォンが置いてあったら。しかも担当がいなかったら……」
フローラ様は先生が生徒に考える時間を与えるように、言葉を切った。
自分だけじゃないという不安、好きな人の情報の詰まったエーテルフォン。
「あっ、わかりました!」
私は手を挙げる。
「ティアリスどうぞ」
「はい。確実にそのエースはエーテルフォンを盗み見ます。それに好奇心を満たす事は、不安解消にも効果的だと言いますし。あ、でも私は心揺れて悩むけれど、見ないと思います。世の中には知らない方が幸せってこともありますし」
私は堂々と発言する。
「ほんとかな。好きになったらどうかな。案外見ちゃうタイプかもよ?」
デミアン君がからかうように私に言ってきた。
けれどいちいち付き合っていると話が横道にそれるので私は無視を決め込む。
「他人のエーテルフォンを盗み見か。なるほど。エースと呼ばれる女性がデミアンが置き忘れたエーテルフォンを勝手に盗み見し、例の画像を発見した。そしてショックを受け掲示板に投稿した」
とうとうエメル殿下が真相を導き出す。
「これが画像が流出した原因に間違いないですわ」
フローラ様が確信を持った声で告げた。
「つまり、僕はエーテルフォンを、エースのテーブルに忘れるというミスはしたけれど、画像は拡散してないってことの証明が出来たってことだよね」
デミアン君は今日一番、勝ち誇った笑みを私に向け、そう言い放ったのであった。




