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営業まわりに行きます

「うふ。うふふふふふ」


 ぐつぐつと煮立った大鍋をかきまわしていた。薄暗い鍋のなか、大鍋のなかには茶色いどろりとした液体が煮詰まっている。薄暗い部屋のなかには泥臭い匂いでいっぱいだった。


「おーい賢者……何やってんだ?」


 褐色娘が扉をあけたとたん顔をしかめた。マスクをして大きな鍋の中身を一心不乱にかき混ぜる私の姿に見とれているようだ。


「どうです? なんか賢者っぽくないですか? ほら秘密の薬とかつくってるような」

「飯屋のババアが鍋煮てるかにしかみえねー、せいぜい魔女が毒薬作ってる感じだな」

「ぬ」


 自分ではそれなりに様になっていると思っていたのだ。


「まあいいです。ほれ、ちょっとこれ舐めてみなさい」

「……食えるのか? これ」


 鍋をかき回していた木べらを褐色娘に差し出す。茶色いどろどろの液体を、褐色娘は嫌そうな目でみていたが、何度もすすめるうちに恐る恐るといったふうに指さきにちょこんと取った。


「……甘い」

「でしょう!」

「え、なんだこれ……ハチミツじゃないし」

「ふふふ、それはですね。これです!」 


 私は大きな根菜を取り出して高く掲げた。


「ん? もしかして牛の餌に使ってるアレか?」

「そうです。これを細かく切って煮だした煮汁を煮詰めたのがこれです。いや、論文から再現するのには時間がかかりました。なかなか文章通りにはいかないものですねえ」

「ここ一ヶ月くらい引きこもってたのはこれか……」

「ふふふ。まだ改良の予知はありますが、基本的な製法は確率したのであとはこれをみんなで作ればお砂糖がたっぷり取れますよ」

「でかした! 砂糖は高く売れっからな。ひひひ」


 私たちがこの街にきてから数ヶ月が立っていた。その間にいろいろなことをやってみた。

 街の若者たちと一緒に農作物を片っ端から作った。新しい畑を作るのには、私も魔法で大岩をぶっとばしたりして手伝った。クワを持って手伝おうともしたが邪魔になるばかりだ。やはり私は肉体労働にはむいていない。


 私も褐色娘もとても好きなサツマイモは残念ながら土地に合わなかったようだ。ほとんど育たず、芋ができても小さく土のような味のものしかできなかった。ジャガイモはなかなか順調だ。土のなかでゴロゴロとたくさんのイモが実っている。トマトも初めてつくったにしてはなかなか美味しい実が出来た。


 畑が始まると私の出番はあまりなかった。野良仕事などしたことがないので手伝えることがない。一人でも何かできることをということで、家畜のごはんに使われていたテンサイという根菜から砂糖を抽出する実験をしていたのだ。どこかの科学者が成功させたという論文をたよりになんとか再現した。


 他にもやることはあった。根回しである。町長さんや宿屋の組合に少しばかりお金を包んでおいたのだ。褐色娘の入れ知恵だった。ああいう人たちはお金をあげておけばとりあえず黙るというのだ。たしかに、お金を渡したあとからは私たちの扱いがぐっと変わった。農作業に参加している若者が酒場に行っても普通に食事が出る。数少ない旅人を他の店が囲い込むようなことがなくなり、宿屋もやっている者の宿にも人が泊まるようになった。

 結局のところはお金がなければなんにもならないのだ。物を買うのは当然だが、人を動かすのにもお金がいる。わかってはいたが、世知辛いものだ。

 

「えー、ではみなさん。今日までよく頑張ってくれました。今日は港湾都市まで行商に行きます」


 馬車の御者台に立って私がそう言うと、みんながわっと声を上げた。

 荷台のなかには収穫した芋やトマト、乾燥させた果物、鶏肉の塩漬けなどがたっぷりつまれている。私が精製した砂糖をもっていく。これらを港湾都市で宣伝ついでに売るのだ。砂糖はもともと高価だし、トマトなどはここらではまだめずらしいのでいい値段で売れるだろう。


 褐色娘をしばらく港湾都市で好き勝手させておいたので、このあたりの物価の相場もわかっていた。ジャガイモなどは珍しくもないようだが、この付近ではまだ作られていないので輸送コストのことを考えれば十分利益は出る、ということだ。


 今回行くのは私と褐色娘、それに若者たちから五人を連れて行くことにした。やはり都会に出るのは楽しみらしく、若者たちの間で誰が行くか熾烈な争いがあったらしい。


「これからはこういう機会も増えるでしょうしから、今回行けなかった人も気落ちせずに畑仕事に励んでください。あと、出張組のひとたちはみんなにおみやげを買ってくるように」

「了解しました賢者さま!」

「てめえら絶対に土産かってこいよー!」


 見送りに集まってくれたみんなと話していると、荷台のなかから褐色娘が顔を出した。


「賢者、積み込み終わったぞー」

「はいはい」


 私は御者台に座る。だが、手綱を握るわけではない。印を組みながら、呪文を唱え始める。


《転移》の呪文だ。《転移》は術者以外の人間も移動することができる。それだけでなく、荷物や馬車なども一緒に飛ぶことができるのだ。術者の力量によっては、大型船をまるごと飛ばすことも可能である。


 そして、私は世界最強の賢者である。たかが馬車一台程度、毛ほどの重さも感じずに移動させることができる。


 ちょっとズルかとも思ったし、いずれは私はここからいなくなるのだから楽を覚えられても困るとも思った。だが、実際問題として今は私たちにお金がない。移動中の雑費も馬鹿になるものではないし、野菜は早く持っていかないと腐ってしまう。

 今回くらいは、ということで私は《転移》で移動をすることにしたのだ。


「おおー、何度やってもすげえなあ」


 港湾都市の目の前まで一瞬で移動する。褐色娘も驚いていたし、若者たちも大はしゃぎしていた。


「別に難しい呪文じゃあないんですよ、これ」


 便利な呪文なので補助体制がしっかりしているのだ。一度いった場所に飛ぶための呪文だと思われているが、正確にはちがう。町や村に張ってある魔法陣へと飛んでいるのだ。なので、行ったことがあっても魔法陣のない原野や孤島には飛ぶ事ができない。逆にいえば廃村だろうが山のてっぺんだろうが、魔法陣があれば飛んでいける。世界中の大都市や要所にはこの魔方陣が設置されている。設置するのには特殊な宝石と膨大な魔力が必要で、一個の魔法陣を作るのに国の宮廷魔術師が総出になるくらい大掛かりなものだ。この陣の補助があるから下手くそな魔術師でも簡単に使うことができる。陣の補助ぬきでやろうとすると途端に難易度がハネ上がる。失敗すれば岩や壁のなかにつっこんで死亡することもあるくらいだ。


 呪文についてのレクチャーを延々としていたが、途中でみんながあまり聞いていないのに気がついた。褐色娘は退屈を隠そうともしないし、若者たちはそれよりも早く都市のなかにはいりたくてウズウズしているようだ。


「えー……、コホン。じゃあ行きましょうか」

「いよっしゃー!」


 自分たちの汗水の結晶である農作物をかかえ、私たちは意気揚々と港湾都市に入っていった。


 今回の目的は二つあった。


 一つは宣伝だ。

 安くて珍しい作物を山の街で作っていると、港湾都市の商人たちによく知ってもらうのだ。とにかく多くの人の目に触れてもらおうと色んな場所を回っていった。事前に調べていた商会にはすべて行ったし、市場の露天にも顔を出した。

 褐色娘が言っていたように、船などと比べて輸送費がかからない分、安く設定できる。そのためどこに持ち込んでも喜ばれた。そして更に一言付け加えるのだ。

「売るときに山の街でこれを作ってることを言ってくれるなら、もう一声安くするよ」

 向こうも心得たものでにやりと笑って交渉がまとまる。

 褐色娘はどこに行ってもこの手の交渉がべらぼうに上手かった。金は二の次の宣伝目的だったはずだが、口八丁手八丁でがっつり利益を確保してしまう。


 もう一つの目的が、若者たちを商売に慣れさせることだ。宿場町の若者たちは、宿屋などもやっていて多少は計算ができるものの、やはり基本は田舎の純朴な青年たちだ。今のままでは、作物を商人たちにいいように買い叩かれてしまうだろう。そうさせないためにも、売り買いの現場に連れてきて商売がどういうものかを肌身で感じさせなければならない。


「ああ? いくらだって? さっき向こうの通りでババアが12で売ってるのみたぞこら。こっちが田舎もんだからってなめてんのかおい。おう、名前なんてえんだアンタ。んだおい、最近のわけえのは自分の名前も言えねえのか。もういい、商会のモンに聞いてくるわ。あぁ? だったら最初からそういやいいんだよクソガキが」


 勉強になっているのかどうかは分からなかったが、海千山千の商人たちと小娘の褐色娘が言い合っているのにはなにか感じ入るものがあったらしい。少しずつだが、自分からも交渉に加わっていった。


 

 一日でなんとか最低限のものは売った。新鮮さが命のトマトなどの生野菜だ。あとはイモや漬物など日持ちするものばかりだ。


「で、あたしの取り分なんだけど……これくらいでどうかな?」

「ボリすぎです。だいたい、投資者である私の取り分と、実労働者のみなさんの給金が先でしょう」

「あー、やだやだ。これだから商売しらねえ人間は。汗水働くことだけが労働だと思ってやがる」

「私も商人には敬意を払ってますよ。世の中の流れを早めて活性化させるのは商売だと思っています。でも今回はこんなもんでしょう。長く取引を続けて小さく儲け続けるのが良い商人です。一回で大儲け狙うのは博打と変わりません」

「くそう、いらん知恵つけやがって。ヘタレ賢者が」

「最近は経済書をよく読んでますからね。この強欲娘」

「ゲロ女」

「あこぎ商人」


 宿屋の下の食堂で褐色娘と話をしていると、若者たちも部屋から降りてきた。ちなみに私と褐色娘が同室、若者たちは二・三の部屋割りだ。


「あのー、賢者さま」

「あ、お疲れ様でした」

「はい。それでですね。俺らちょっと街を見物に行ってきたいんですがいいでしょうか?」


 若者のリーダー格の青年がいう。他の者たちももう早くいきたくて仕方ないといった様子だ。


「ああ、じゃあみんなで行きましょうか。ついでにどこかでお酒でも飲みましょう」


 私もそうだったが、田舎から大きな街に出てくるとそりゃあ楽しいものだ。見るものすべてが垢抜けてみえ、歩いているだけでも気分がどきどきした。若者たちも仕事ばっかりではつまらないだろう。


「あ、いえ……、賢者さまの手を煩わせることは」

「いいんですよ? 私もしばらく都会に出てきてないから」

「あの……そのぅ……」


 なぜだか若者たちが言葉を濁す。全員からついてくるなという無言のプレッシャーが感じられた。まるで私がひどい邪魔者のようだ。ここ数カ月でそれなりに信頼関係を築けたと思っていたのに、この反応はなんだろう。


「そ、そうですか。じゃあ皆さんで楽しんできてください……」

「いえ、あの。別に賢者さまが邪魔とかそういうわけでは、そのぅ」


 私がしどろもどろになっていると、横にいた褐色娘が急に大笑いしはじめた。ひとしきり笑ったあとで場を仕切りだす。


「あーもう。悪いな、お前ら。この賢者は世間知らずで鈍いからよ」

「な、なんですか急に」

「だーかーら。野郎が街にきてやることなんかひとつしかねえだろうが」


 その意味を理解するのに数秒かかった。理解した瞬間、私は自分でもわかるくらいに真っ赤になる。ぼうっとしている間に手から褐色娘が財布を奪っていく。


「よしてめえら! 今から軍資金を補充してやる。好きなだけ女買ってこい! あと、酒飲むときはウチの街の宣伝を忘れんなよ!」

「ありがとうございます!」


 私の財布から何枚か硬貨を若者たちに渡す。若者たちはまるで王族にするように褐色娘に平伏していた。


「あと、あんま安い店では遊ぶな。チンポが腐る! おまえら身体が資本なんだからな。そのへんちゃんと気をつけろよ。病気もらってきた奴は街にいれてもらえねえぞ!」

「了解しました! 小さい姐さん!」

「よし行ってこい! 明日の朝までには帰って来いよ」

「わかりました!」


 若者たちは脇目もふらずに宿から出ていった。私が何も言えずにまごまごしていると、手元に財布を置かれた。


「ほら。まあ、あんだけ渡しとけば十分だろ」

「う、あ……うう……」

「あのくらいはいいだろ? 必要経費だ」

「そ、それはいいですけど。あの……」

「うん?」

「おん、お、お……女の子がち、ちん……とか言っちゃいけません!」


 私がなんとかそう言うと、褐色娘はげらげらとまた笑い始めた。


「ふ、不潔です。みんな、もう!」

「まー、いいんじゃねえの? 人はパンのみにて生くるにあらずだよ。酒も飲みてえし女だって買いたい。あんなシケた街じゃ若いのはいろいろ貯まるもんさ」


 そう言われれば確かにそうだ。山の街にも栄えていた時期は娼館も酒場もたくさんあったが、今ではほとんどが営業をやめてしまっている。そういうモノがあるのだと知っている分、何も知らない田舎者よりもつらいものなのかもしれない。無知は時に救いである。


「だ、大体。なんであんなに手馴れてるんですか」

「そりゃあ。あたしが前にどこにいたと思ってんだよ。ゴロツキぞろいの傭兵団だぞ。そこらの管理もちゃんとしねーと扱いにこまるからな」


 褐色娘が別に普通のことのように言う。人の営みの一つなのだから、集団を管理する上では考えないといけない要素なのかもしれない。


「大体さ。世界中旅してたんだろ? 男女四人で。そういうことはなかったのか?」

「え? は?」

「いや。そんな絶望的な顔されても……、別にあんたがどうこうってんじゃなくてほら、男だけでそういうとこに行ったりさ」

「……記憶にありません」


 本当に記憶にない。いや、『そういうこと』を意識していなかったので気づかなかったのかもしれない。もしかすると私の知らないところで勇者さまと武闘家二人してどこかに行っていたのだろうか。

 私が悶々としていると褐色娘が最後の追い打ちをかけてきた。


「あぁ、そういえば。この前こっちに来た時に勇者様と女戦士が結婚したとか聞いたな。旅の最中から……すまん。大体わかった、だから泣くな。落ち着いてくれ」

「おぐっ、ひぐ、ううう……」


 絶対に想像したくないものがいやでも頭に浮かんでくる。くそう。畜生。みんなしてサカりやがって。そんなに下半身の制御ができないのがえらいのか。頭でっかちで悪かったな。


 

 翌日。心なしかキラキラとしている若者たちと相反して私は深酒をして見事に二日酔いだった。本当に酒の飲み方をどうにかしないといけない。


「じゃあ、あたしらは売り込みに行ってくるから。お前は寝てろよ」

「ど、どうも~」


 ぐったりと半日ほど眠っているとどうにか起き上がれるようになった。一人だけ寝ているというのも気が引けるので、みんなに合流しようと街に出る。


 みんなはどこに行ったのだろう。酔いの残った頭で歩いていると、港の方へ出た。

 この街は港湾都市というだけあって船が非常に多い。小型の船から大型の帆船まで無数の船が停泊している。小型の船は近場の漁師が多いのか、魚をどっさり積んで漁船用の港に入っていく。大型船はついた途端に人夫たちが貨物を手際よく運び出していく。

 まさに生きている物流の拠点だった。人とモノがあつまり。それによって金も動く。これを、農業というものを核にあの街で再現しなければならない。そう思いながら船の行き交う港を眺めていた。


 ぼうっと眺めていると、海から一隻の船がやってくるのが見えた。少し大きめの中型船で、別に気に留めていなかったのだが、すぐに様子がおかしいと気がついた。

 マストが一本折れ、帆も破れているものがある。ところどころ焦げあとがあり、まるで戦争から帰ってきたような状態だった。


「またか……」


 近くにいた水夫たちが苦々しい顔で半壊した船を見ていた。私は駆け寄って事情を尋ねる。


「海賊が出るんだよ。最近。海魔がいなくなって安心したと思えばこれだ。いや、海魔よりもたちが悪い。女はさらうしモノは奪う。もともとの海賊だけじゃなくて、傭兵くずれも混じってるから手に負えねえ。こっちの航路や弱みを知り抜いてるからな」 

「海賊……」


 人を襲うのは怪物や魔物だけではない。同じ人間同士も傷つけあい奪い合う。いや、魔物がいなくなったこれからは人間同士で争うことのほうがずっと多くなるのだろう。

 水夫の話では、海賊には傭兵をやっていた者が流れ込んでいるらしい。褐色娘の傭兵団のように、怪物が減って傭兵という職業が成り立ちにくくなったのだ。その結果、海賊のような犯罪者を増やしている。


 思わず笑った。これによって、逆に傭兵の仕事は増えるに違いない。もともと同じような仕事をしていた連中が戦い合って金を奪い合う。無益な話だ。なぜ、皆もっと面白いことをしようとしないんだろう。新しくて楽しいことが世界にはあふれているのに。


 もやもやとした気持ちを抱えつつ、私は停泊した船に向かっていった。負傷者がいるのならば私が役に立てるはずである。

 治癒魔法の心得がある、というとすぐに船のなかに連れて行かれた。中はそとほどひどい状態ではなかったが、甲板に大きな血の跡を見た時には思わず顔をしかめた。

 怪我人は八人いた。どれも命にかかわるほどのものではなかった。船に残る死臭を考えると、これ以上の思い怪我をしていた者はここまで持たなかったのだろう。水夫たちに感謝されても、くらい気持ちは拭えなかった。

 治療を終えると、船主だという男性に声をかけられた。かっぷくが良い壮年の男で、髪は白くなっているがひょうきんな顔立ちから若くみえる。だが、それも今は苦いしわが刻まれていた。


「どこのどなたか存ぜぬが、部下たちの命をお救いくださり、感謝いたします。少ないですが、どうかお納めください」


 そう言って小袋を差し出してきた。治癒魔法が使える僧侶などはこうやってお金を得ている。私も昔はよくやったものだが、今はお金に困ってはいない。必要な人が持つべきだ。


「いえ。当然のことをしたまでです。海賊に襲われてさぞ大変なときでしょう。お金はいいので、水夫の方たちを労ってあげてください」

「……かたじけない。お恥ずかしい話だが、荷をほとんど奪われてしまい、これからどうしたものかと途方に暮れておるのです。せめて残っている荷が売れてくれればなんとかなるのだが……」

「売れないのですか?」

「売れることは売れるのだが……。見苦しい話になりますがな、船を担保にして買い付けを行なっていたもので。この船を安く手に入れようとウチの荷を期日まで買わないようにしている者がいるのだ」

「……荷は何なんですか?」

「ジャガイモです。軍船が通りかかってくれたからなんとか残ったものの、どうしたものか」


 船主はふかくため息をつく。

 私は自分の手持ちの金の額を思い出す。


「あの、ものは相談なのですが……」





 宿屋の部屋に帰り、褐色娘に得意げに自分のやってきたことを話す。すると見る見るうちに褐色娘の顔色が変わっていった。まずいと気がついたときにはもうあとのまつりだった。


「それで? あたしたちが頑張って売り込みに行ってる間に、アンタは勝手にバカみたいな量のイモを買い込んできたわけだ? 金を使い込んで?」

「あの、その、別に使い込んだわけじゃあないんですよ? 一時的に借りただけで」

「それを使い込みって言うんだこのバカ! この能なし賢者!」


 半分くらいは自費で支払ったが、残りはあずかっていた街のお金で払ってしまった。売ってお金にすればすぐに返せると思っていたのだ。褐色娘にものすごく怒られた。私がしたのは横領というとても悪いことらしい。


「お前はそれを一人でさばいてくるまで帰ってくるな。ちゃんと最低ラインは設定するからな。金の大事さをしっかり勉強してこい。あと、二束三文で売って自分の金で補充するのもダメ。せっかく安い作物をあたしらが売り込んだのにその価値下げてどうすんだ」

「え、ええ~……」

「大儲けしてきたら許してやってもいいぞ。まあ、無理だろうけどがんばって」



 賢者です。

 街から追い出されてしまいました。




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