話をします
「いつまでついてくるつもりですか」
「賢者のくせにつれないこというなよー、アンタといれば儲かりそうだしな」
私は港町にしばらくの間滞在していた。人と物の流れが盛んな場所だけに、いろいろな場所の情報が入ってくる。平和になった世界の変化を知るには良い場所であった。市場をひやかしたり教会に寄付をしたり街の図書館で本を読んだり酒場でだらだら酒をのんだりして暮らしていたのだが、毎日のように私のあとについてくる小さな影があった。あの褐色娘である。それも隠れてついてくるような可愛げのあるものではなく、食堂で堂々と私と同じテーブルについてごはんをたかる図々しさである。
蔵書印の価値を教えてくれたかわりに、盗みのことを見逃してあげたのがまずかったのかもしれない。紋章印や身分証も返してもらったし、もう盗みはしないようにきつく言い含めてから解放してやった。だが、次の日にはなぜか宿に押しかけてきて私につきまとうようになったのだ。
年の割に目端が利く娘であった。蔵書印のこともそうだが何かと物知りだし、私が市場で買い物をしていると横合いから口をだしてきてまたたく間に値切ってしまう。それでいて相手にも嫌な印象を与えないのだから、私としては見習いたいくらい世慣れている。
今日もまた、異国の旅人と露天の果物売りの間に入って交渉をまとめていた。お礼にと旅人から果実を幾つかもらっていたようだ。
「あなた、これまで何をやってたんですか?」
夕食を取りに入った酒場で私は褐色娘に尋ねた。あれこれと世慣れた娘を見ているうちに気になってきていたのだ。
「んー? なんだ賢者。ついにあたしの正体が気になってきたのか」
「まぁ、正体というか。子供のくせにいろいろ知ってるから、どういう育ちをしたのかなぁと」
「なぁなぁ、この魚の揚げたの頼んでいい?」
「……、いいですよ」
「おねーさん! これ二つおねがーい」
勢い良く店員に声をかける。店員の中年女性は、「お姉さん」と呼ばれたことに気をよくしたようで、魚を一匹づつサービスしてくれていた。
「……ほんっとに世間ずれした子ですね」
「こんくらい普通だっての。むしろあんたが箱入りすぎんだよ」
「む。失礼な。私はいちおう勇者様と世界中を旅したんですよ。それなりに世間は知っています。それに教会の孤児院育ちですから子供のころはけっこう苦労しましたよ」
「あのなぁ、世間を知ってる奴があんな腐りかけの果物売りつけられるわけねえだろ。あたしが言わなかったらどうなってたよ。つーか孤児院育ちでどうやったら賢者になるんだ」
「私ですか? 私は子供の頃から本とか学問が大好きだったんですけど、そのうち机上の学問だけでは満足できなくなりまして。世界を見て回るために巡廻伝道者になったんです。それで勇者様と出会って……からはご存知ですよね?」
「大体はなー。劇とかで見たから」
私たちの冒険を題材にした劇や舞台がちまたでは大人気になっている。この街にいる間も何度か大道芸人たちが劇をやっているのを見た。気恥ずかしくてなるべく見ないようにしているのだが、どの劇もそれぞれ演出や脚色がされていて私たちの性格などは別人のようになっている。とくに私は「賢者」という肩書きからか、まるで聖人のように演じられていて申し訳なくなるくらいだった。
「アンタほんとに本物かー? 身分証とか偽造した偽物じゃねえよな?」
「しつれーな。この身は史上二十三人目の賢者にして救世の英雄の一人ですよ。そりゃあ、まあ。劇とかに出てくるような、みんなが思ってる賢者じゃないでしょうけど」
小さく胸をはってから、あつあつの魚を食べる。サクりと上がった表面とほろほろの白身が小気味いい。付け合せの甘辛いタレにつけるとまた食感が変わる。
世界中を旅して知ったことだが、人と物が集まる場所は食べ物も美味しい。様々な食材と食文化が融合して新しい料理が生まれるのだ。平和になったこれからは、もっとたくさんの文化がからみあっていろんな料理が生まれてくるのだろう。
「しかし、世界を見て回るためねー。劇とかでは正義のために教会をとび出たとか色々あったけどあれは?」
「勇者様と旅に出てからはそういう気分もなくはなかったですけど、最初はただの知識欲でしたね。演出ですよ演出。というか、純粋に世のため人のためって人は私たちの中にはいませんでしたよ」
「はぁ? そうなのか?」
褐色娘が驚いた顔でこちらを見る。
「勇者さんとかは聞く感じじゃあすげー正義に燃えてる男なんだけど」
「そんな大層なものじゃあないですよ。結局は、勇者様も女戦士さんも武闘家さんも、自分のために戦ったんです。大魔王と戦うような命がけのことはですね、世界のためとか人のためとかそういう気分じゃ絶対にできません。絶対的な困難や恐怖に打ち勝つことができるのは、欲望とか好奇心とかそういうストレートな感情だけです」
「救世の賢者の言葉にしては世知辛いねえ」
「事実です」
そういう部分の話はあまりしなかったが、世のため人のためが全てで戦ったのでは決してなかった。武闘家は人格者なのだが、武術を実践で研鑽したいという、戦闘そのものを楽しむようなところがあった。女戦士は単純にお金が好きだった。考えてみると道中のお金の管理や宿の手配などはほとんど彼女がやってくれていた。
勇者様だけはよくわからない。彼だけは、世界を救いたいという大言壮語を本気で思っていたような気もする。それは、勇者たれと育てられた彼にかけられた呪いのようにも思えた。
私自身はというと、やはり知識欲や好奇心が優っていた。世界を旅し、学問を学ぶたびにその気持ちは強くなった。世界と、人の英知はこんなにも素晴らしいものなのだ。それなのに、魔王との戦いなんかに、人間という限られた資産を費やすのはもったいない。魔王さえいなければ、もっと学問は進んでもっと偉大な発見がされていたのだろう。そういう想いが私を突き動かしていた。
つまるところ、救世の英雄とは狂人のあつまりだった。命を無駄にしても欲望を優先させる物狂いの集団だ。一歩間違えれば大犯罪者や極悪人と呼ばれていたような連中だ。それが世界を救った英雄にまでなりおおせたのは、きっと勇者様の力だったのだろう。勇者様の分け与えてくれた勇気によって、私たちは狂人から英雄になれたのだ。勇者様と出会えなければ、きっと私は賢者にはなれなかった。なれたとしても、他の賢者と同じく世間すべてを俗世と切り捨て好奇心と知識欲だけに従う世捨て人になっていただろう。
勇者様のことを思い出し、じわりと感情があふれそうになる。それを誤魔化すように私は褐色娘に尋ねた。
「私のことはいいですよ。私は世界でもっとも有名な四人の一人なんですから。あなたがどこで何やってたかって話です」
「あたし? ふつーだよ、救世の賢者様にくらべたら。親父が行商人でさ。ガキの頃からあっちこっち行ってたからいろいろ覚えたってだけ」
行商人。それならこれだけ世慣れているのもよくわかる。旅と交渉を繰り返す彼らにとって耳ざとさや社交性は必要最低限の技術だ。父親に小さなころから仕込まれてきたのだろう。
「ふうん? お父様はどうされているのです? おうちに帰るのなら送ってあげますけど」
「あたしも帰る家はねーよ。一人きままな身の上さね」
「あ……そう、ですか」
聞いてはいけないことを聞いただろうか。私はもともと孤児だったのでよく分からないが、このくらいの年の頃では親との別離はまだ遠い昔のことではないのだろう。
「ん? ああ違う違う。そういうんじゃないって」
「あ、あら? そうなんですか?」
「二年くらい前にちょっと南の方に店を構えたんだけどさー、店持ったとたんに親父の野郎色気づきやがって再婚とか言い出したのさ。再婚相手とはいまいち合わなかったんで独り立ちしたってだけ。ま、行商人でコブ付きじゃ結婚なんて出来なかったんだろうから、良いことだとは思ってるよ」
まだ親恋しく遊びたい時期だろうに、褐色娘はそれが当然のことのように言う。店を構えるほどの商人の娘ならそれなりの暮らしも出来たはずなのにだ。昔のことを思い出して感傷的になっていたところに、思わぬ健気な話をきいてしまい、ついほろりと涙が流れた。
「なるほど……見上げたものです。親御さんのことを考えてあえて苦しい選択をするとは。私のような強欲者からすれば見上げた孝行娘です」
「いや、そんな大したもんでもねーよ。家出るときにそれなりに小遣い持たされたし」
「まだ子供なんですからそれくらいは気にしないでいいんですよぅ」
私はえらく感動してしまい。おいおい泣いた。ひとしきり泣き終わると店員を呼ぶ。
「店員さん。この娘さんに何か甘いものをお願いします」
そういって銀貨を一枚渡す。店員はほくほく顔で厨房に飛んでいった。
「お? いいの? やったー!」
しばらくすると木の実のたっぷり詰まったパイがやってきた。上にたっぷりと蜂蜜がかかっていて甘い匂いをあたりに振りまいている。店員が切り分けたそれを褐色娘は満面のえみでかぶりついた。
私はそれを見ながら良いことをした満足感でいっぱいだった。だが、はたと我にかえった。
「……ん? ちょっと待ちなさい。それがなんで私の船室泥棒なんかやってるんですか?」
問い詰めると、口のなかにパイを突っ込んだままばつの悪そうな顔を見せた。
「だ、だだ、だましましたね! パイ返しなさい! というか私の涙を返しなさい!」
褐色娘の前においてあったパイを二切れひっつかむ。むこうも負けじと残りのパイを手元に持っていった。
「別にだましてねーよ! ほんとの話だよ」
「じゃあなんで盗人なんかやってるんですか」
「し、仕事なくなっちまってさ……だからその……ちょっと小遣い稼ぎというか」
「小遣い稼ぎじゃあありません! 親御さんが泣いていますよ! 男手ひとつでここまで育てたというのに……」
「あんたはウチの親父のなにを知ってるんだ……?」
「だいたいなんのお仕事してたんです?」
「えーと……」
褐色娘は実家を出てからのことを話し始めた
彼女は傭兵隊の雑用をしていたらしい。もともと父親が所属していた商隊と懇意の傭兵隊で、褐色娘も知人が多かったそうだ。物資の買い込みや仕事の調整など、傭兵たちの仕事を影で支える役割で、小器用な商人の娘は重宝された。
傭兵隊と言っても様々な種類がある。国に雇われて正規の兵ではできないような仕事をこなしたりするものもあれば、半ば山賊まがいの暴力集団もある。褐色娘のいた隊は、街道を行く商人や旅人の護衛をして報酬を得ていたそうだ。私も、一人で旅をしていたときにはこういった傭兵隊と同道することが多かった。僧侶の癒しの御業はどこでも必要とされていたし、私としても食べ物などを調達しやすかった。なにより、大人数で旅をすればそれだけ安全なのだ。怪物に襲われても対処がしやすくなる。どこの街や街道にもこういった傭兵隊がひとつはあって、旅人や商人の安全を守っていた。
「安定したお仕事じゃあないですか」
「そーなんだよなー、食いっぱぐれないはずだったんだけど」
「けど?」
「魔王が死んでから、護衛の仕事が儲からなくなったんだよ。怪物がでないからからっきしさ」
「あー……」
私も何度か経験があるのでわかるが、護衛の仕事というのは怪物や山賊に襲われるかどうかで報酬がまったく違ってくる。そのため悪質な傭兵になると、山賊を装った別働隊とそれらしい戦いを演じてみせたり、怪物を追い立ててわざと襲いにくるようしむけたりするらしい。
傭兵の仕事は結局、魔族や怪物という脅威ありきの仕事だったのだ。私たちが大魔王を倒したことで、魔族は激減。怪物たちも組織性や凶暴さがなくなり、ただの猛獣に成り下がった。間接的にとはいえ、傭兵たちの仕事を奪ってしまったのは私たちだった。
「もう護衛の仕事じゃ今までみたいに食えなくなるってみんな分かったんだよ。怪物が出ないと金にならないし、安全だってわかったら値切ってくるやつらも出てきた。みんなで話し合って、隊を小さくすることにしたんだ。完全に仕事がなくなったわけじゃないから、人数減らせばやってけるからな。残留組はもうほかに稼ぎ口も見つからないオッサン連中で、若いのはバラバラだな。剣を鍬に持ち帰る奴もいればソロバンを習うやつもいた。でもやっぱ、傭兵になるような連中はそれでも剣が捨てられないってやつが多かったよ。正規兵になろうとしてるやつもいたし、山賊が多いような場所行って傭兵続けるってやつもいた……ちゃんと、やれてるのかな。あいつら」
さみしそうに褐色娘はいった。彼女ほどに賢い娘でも盗みに手を染めるほどに困っていたのだ。他の兵たちがどうなっているかなど想像にはかたくなかった。
私は酒場のなかを見回した。みな、平和になった日常を楽しんでいるように見える。だが、そんな空気の中で肩身が狭そうにしている無骨な男たちがいた。その体つきやあちこちについた傷跡から、傭兵働きを生業にしているものだとわかった。
傭兵たちの身にまとう空気は街のそれではない。荒野の、戦場の、鉄と血の匂いが彼らには染み付いている。大魔王のいた時代には、街の中でもそれは普通のものだった。荒事が日常の一部である時代が長く長く続いていたのだ。
今はもう、違う。日常は安全とは言えないまでも、戦いからは遠くはなれたものになりつつある。平和で和やかな時代。街のなかに傭兵たちの居場所はどんどん少なくなっていくのだろう。平和な日常のなかでは、彼らは異物なのだ。普通に作物を作り、品物を加工し、商品を売る。そんな循環のなかでは不要な存在なのだ。
「クソっ、まったく余計なことしてくれたぜ。勇者様はよぉ!」
酔っぱらった傭兵風の男たちがそんな声を上げた。無論、一斉に酒場中から白い目で見られ、居づらくなったのかすぐに出ていった。
「お、おい……気にするなよ。賢者。確かにああいうやつもいるけど、傭兵だってほとんどは平和になったの喜んでるんだから」
「いえ……何事も裏と表があるんです。いいことばかりじゃない。こういうことだってあるでしょう。……ちょっと行ってお話をしてきます!」
「待て待て待て待て!」
私が席をたって男たちのあとを追おうとすると、褐色娘が私の手を引き止めた。
「なんです? 今は賢者とは言え元は僧侶。彼らに道を説くのは私の義務でしょう」
「酔っぱらいに説教したって無駄だって。それにああいうやつは掃いて捨てるほどいるんだからさ、全員に説教するわけにもいかねえだろ」
「う……そうかもしれませんが……」
しぶしぶ椅子に座り直す。
「まーだ魔王が死んでそれほどたってないだろ。うちの隊は早めに決断したけど、まだ古いやり方を変えられないひとのほうが絶対多いよ。もうしばらく待てばみんな変わってくるさ」
「そう……そう! いいこと言います! 新しい時代なんですから。きっとこれから想像もしなかった新しい発見や発明が生まれてきます。新しいお仕事もたくさん出てくると思うから、大丈夫ですよ」
特に根拠もなくいう。だが、そのために私は世界を救ったのだ。新しい何かを見るために。それでなくては困る。
ひとりで納得して頷いていると、なぜか呆れたような顔で褐色娘がこちらを見ていた。
「なるほど……、たしかに。あんたは善人でも、ましてや聖人なんかじゃないや」
「そうですけど、悪人のつもりもありませんよ?」
そういうと褐色娘は下品にげらげらと笑った。何がおかしいのかよくわからなかったが、釣られて私もくすくすと笑ってしまった。
「それで、あんたはこれからどうするんだ?」
「山道の街に行くつもりです。道中でお世話になった街でして。一度ご挨拶にいかないとと思っていたんです。私よりもあなたはどうするんです? ご実家に帰るなら近くの街まで送ってあげますけど」
勇者様が一度たちのわるい毒にやられたときに立ち寄った街だ。山間の宿場町で、なかなかに活気のある街だった。
「ガキじゃねえんだから一人でいけるっての。てか、別に実家には帰んねーよ」
「そういう意味じゃないですよ。行きたいところがあるなら、私の『転移』で連れて行ってあげるってことです。日銭に困ってこそ泥するよりはマシでしょう」
条件付きだが、一度行った場所なら一瞬で移動できる呪文である。術者だけでなく仲間も同時に移動することができる。世慣れているとはいえ、まだ少女と言うのもためらわれるような娘だ。少しくらいは手助けしてやろう。
「ん? あんたついてくに決まってるじゃん?」
「え? いやですよめんどくさい。コブつきなんてお断りです」
「いいじゃねーかよー、あんたの財布の管理もしてやるからよー」
「ぬぅ」
褐色娘がつきまとうようになってから、お金がかなり節約されているのは事実だった。この娘にちょくちょく食事をおごっていたりするのに、それでもまだ余るくらいの額だ。小遣いくらいはやってもいいかもしれないが、ずっと私の財布番をさせておくわけにもいかないだろう。
「だめです。私もまだ修行中の身。子供を連れて歩く余裕はありません」
「んだよケチ。あんたといると儲かるんだからいいだろー」
「だーめ」
私がどうあっても連れて行かないという態度を見せると、褐色娘は一枚の紙きれを取り出した。
「いーよ、じゃあ。これで稼ぐから」
「ん……それって……あ!」
褐色娘が出したのは、私の紋章印が押されたカードだった。
「これをてきとーな本に貼り付けて売れば高く売れそうだなあ」
「えい」
私が睨みつけると、カードは粉々になって床に落ちる。
「うおおぉっ! ビビったぁ。まだあるんだけどね。一枚のはずねーじゃん」
「ぬ。うぬぬぬ……」
おそらく無数にカードを作ってあるのだろう。この娘と言い争っても堂々巡りで絶対に勝てる気がしなかった。
「わ、わかりましたよ! 連れてけばいいんでしょ! 連れてけば!」
次の日。私たちは旅支度を済ませると宿を出た。
「なー、その山道の街ってどういうとこだ? 聞いたことないけど」
「ここからは山をいくつか超えないと行けませんからね。山の街道にある宿場町ですよ。商人も旅人も好んで使ってますね。もしかしたらあなたの働き口もあるかもしれません」
「へえ。ここんとこ海ばっかだったから、山もいいかもな」
「お魚もいいですけど羊とかも食べたいですよねえ」
話しながら歩いていき、街の外れまでやってきた。
「い、いよいよか。ちょっと緊張するな」
私の手をにぎって褐色娘がそんなことを言った。転移の呪文で移動するのが初めてなのだ。私も最初のころはおっかなびっくりだったので気持ちはよく分かる。初心者ならともかく、この私の転移では手などわざわざ握っていなくても跳べる。だが、安心させるために手をにぎりかえしてやった。はしこく生意気な娘だが、やはり手は年相応にちいさかった。
「行きますよー」
片手で軽く印を切る。
「『転移』!」
呪文を唱えると同時に、私達の体を緑色の光が包み込んだ。緑光で視界がうめつくされていき、一瞬の浮遊感のあと、光は霧散し視界が回復していった。
「つきましたよ、褐色娘」
「う……ほんとか?」
ぎゅっと目を閉じていたようだ。恐る恐るといったふうに褐色娘は目を開ける。
「お、おおーっすっげー! ほんとに山のなかだよ! ってーか涼しい!」
褐色娘はくるくると風景を見ながらはしゃぎ回る。その反応に満足すると、私は街のほうに目を向けた。
「あ、あら?」
「どした? 賢者」
褐色娘も同じように街を見る。
以前に一度やってきたときには通りにいっぱい人のあふれる活気のある街だった。その街が、まるでゴーストタウンのように閑散としてしまっていた。
「どうしたんでしょう、一体?」
違う街にやってきたが、楽しい出会いばかりというわけにはいかなそうだった。




