お久しぶりです!
戦いなんてものはだいたい、本番よりも下準備や後処理のほうが大変なものだ。
山賊は全部で四十二人だった。
全員が黙って連行された。あれだけ脅してまだ逆らえるような胆力があれば、盗賊などやっていないだろう。幸い、元は宿場町だ。使っていない宿屋に見張りを立てて牢代わりにしていた。
街の役人たちが話を聞いてみると、やはり大半は仕事にあぶれた傭兵くずれであった。山賊仕事はこれが初めてという者も多くふくまれていた。
だが、中心になっていた者たちはそうとうタチが悪い。あの黒髪の頭目を中心とした数名のグループである。もともと傭兵と盗賊の中間のような連中で、仕事が減ってからは一気に盗賊へと鞍替えしたらしい。仕事のない傭兵たちに仕事を紹介すると言っては盗みを手伝わせ、共犯意識を作って仲間を増やしていた。
そうやってそうやって増えていくうちに四十二人。ちょっとした村なら全滅させることができる人数だ。しかも魔術師まで抱え込んでいる。気が大きくなるのも無理は無い。山の中で孤立しつつある街を乗っ取り、拠点として使おうという魂胆だったらしい。
今あるご立派な国々も、歴史を紐解いてみるとけっこう始まりはそんなものだったりする。もしかすると将来は新しい国家にでもなったかもしれないが、残念ながら彼らの伝説はここでおしまいだった。
中心となった特に悪質な山賊たちは、近くの裁判所のある教会都市まで連行されることになった。残りはまだほとんど盗人仕事をしていない、仕事にあぶれた傭兵たちだった。同じく、時代に取り残された者という共感があったのだろうか。街の者たちも同情的だった。
もちろん、選別は厳しく行った。これは褐色娘がとても役立った。
「ずーっと傭兵団で働いてるとさ、傭兵の質ってもんがなんとなくわかるようになるんだよ。強い弱いってだけじゃない。集団に馴染む奴か、手癖が悪くないか、女癖はどうか。八百屋とか食わないでも果物が甘いかどうか見分けるだろ? あれとたぶん一緒。同じ種類のモンをたくさん見続けるとなんとなく区別がつくようになるんじゃねえかな。んで、盗賊くずれかどうかを見抜くのは一番大事だ。傭兵団の信用に関わるからな」
褐色娘の鑑定眼はたしかで、山賊の中心だったくせに被害者面をする小悪党を次々と見ぬいていった。
だが、褐色娘も町の人も扱いに困る人種がいた。
魔術師である。
もともと魔術師というのはエリート意識が高く選民的なので、田舎町の小役人や世間ずれした小娘ていどではまともに会話も成り立たないような状態になってしまう。仕方なく、私にお鉢が回ってきた。
「七人? 私が見たのよりも一人多いですね」
「一人前に出てなかったヘタレが居たんだよ」
「ふうん……ああ、いやだなあ。私、人に上からどうこう言うの苦手なんですよ」
「元僧侶なのに?」
「あれはいいんですよ。私の言葉じゃあないから。教会の言葉であり主のお言葉ですからね。でも今の私、まだ十七の小娘ですよ? 賢者ってだけで頭下げられてえらそーにするのは苦手です」
「あんたじゃねーと無理だよ。あたしはもうあの連中の面倒みるのはまっぴらごめんだね」
なにやら苦労があったらしい。作物の買い付けに世界中回った時でもたいがい誰とでもうまくやっていた褐色娘にしてはめずらしいことだ。
「魔術師は別だよ。あいつら自分とこの御用商人しか相手にしねえんだもん。ま、こっちから願い下げだがな。金はもってるだろーけどあんなお高くとまってる連中相手にするのは疲れる」
「私も疲れるんですよ……。あの、いちおう私、真面目な感じで話すんで笑ったりしないでくださいよ?」
「けけけ。まぁがんばれや」
魔術師たちが勾留されている宿屋へ入る。
私が部屋へはいると、魔術師たちは顔を青くして跪く。杖やマントといった装備を没収されていたので、パッと見は普通の人たちに見えた。
褐色娘はそれを見て驚いていた。よほど他の相手には横柄な態度でいたのだろう。それが私ひとり来ただけでこの変わり様だ。
震えながら小さくなっている魔術師たちを見下ろしながら、私は小さくため息をついた。頭の中で意識を切り替える。これからは外交モードだ。
魔術師たちのなかでいちばん年かさに見える男がか細い声をだした。
「ま、まさか救世の賢者さまとはつゆ知らず……ひらに、ひらにご容赦のほどを」
態度は別にして、謝罪の内容が気に入らなかった。
「私に謝る必要はありません」
我知らず声がきつくなる。
「は……」
「貴方の師に謝りなさい。貴方の親に謝りなさい。貴方の友に謝りなさい。そして、貴方たちが傷つけようとしたこの街の人達に謝りなさい」
自分でも驚くほどに冷たい声音が出た。私の言葉ひとつひとつに反応して、相手が体を震わせるのがわかる。絶対的な力の前に出された罪人の反応としては正しいのだろう。自分が化物なのだと思わされる反応で、けして気分のいいものではない。
「ま、まことに申し訳のしようもなく」
「……まぁ、私は、別に盗人や山賊を軽蔑したりはしません。そうするしか生きる術がない人もいるでしょう。盗まなければ、奪わなければ生きていけない場所もある。それは仕方のないことです」
「は、はい。実は……」
すかさず言い訳をしようとした男の言葉を聞こうともせずに、私は続けた。
「ですが、
あなたたちは違います。魔術を習得することができるのは運と才能に恵まれた限られた人のみです。あなた達は字が読めるでしょう。学問もあるでしょう。そして、魔術という人ならぬ技まで体得している。
奪う側に回らなくても生きていく方法はあったはずです。人のために生き、感謝されて暮らせる道があったはずです。
自分にできることをしないで、他人を傷つける人が私は大嫌いです」
魔術を習うには才能はもちろんのこと、けっこうな学費が必要だ。それを捻出できるということは少なくとも貧しい家のものではない。字が読めるのはもちろんのこと、魔術も他の学問を応用しているため学識も高い。
宮廷魔術師はときに、魔術の腕というよりも学識の高さを買われて高級官僚として扱われる。このように、魔術師というのは多くの教育を受けたエリートなのだ。そんな恵まれた人間が、盗賊まがいのことをする。どんな理由があろうとそれはちょっと納得できないことだった。
「どんな理由があろうと今のあなた達は罪人です。街の人を困らせるようなことはしないように」
「……は」
「それと、私は完全な《転移》ができます。それを肝に銘じておいてください」
凡百の魔術師は魔法陣の補助がないと転移をすることができない。私も普段は面倒なのでそうしているが、やろうと思えば個人の魔力紋をたどって直接その人物のところへと飛べるのだ。明快な脅しである。
最後の言葉で、もはや顔を上げることもできない魔術師をあとに、私は部屋をさった。
私は逃げるように足早に宿から出ていく。褐色娘がじろじろと珍しいものを見るように私の顔をみていた。
「はぁ……」
「……」
「なんですか?」
「すげーなー。あんたもなんだかんだいって賢者様なんだな」
「私はいやなんですけどね。ああいうの」
「いやいや、カッコ良かったぜ。いつもああしてたらちゃんと賢者っぽく見えるのに」
「い・や・で・す!」
結局、魔術師たちは私の監督下に入ることになった。ちょっとやりたいことがあって人手が欲しかったのでちょうどいいと言えばちょうどよかった。魔術師の組合に書類やらなにやらの面倒な手続きをしなければならなかったが。
思ったよりも扱いに困ったのが、主犯格をぬいた残りの傭兵たちだった。私はこの街で農夫兼護衛として雇えばいいと思っていた。街に人手は必要だし、もと傭兵の農夫がたくさんいれば街としても安心、傭兵たちは安定した職を得られる。みんなが笑顔になれる案だと思ったのだが、そう上手くはいかなかった。
「そらそーだろー。いくら下っ端だったからって自分とこの街襲ってきた奴を街の一員にはしたくねえよ」
「そーなんですよねー……。あぁ、なんでこんな簡単なこと気づかないんだろ」
文化や民族が違っても顔をあわせて食事をすればだいたい仲良くなれる。だが、加害者と被害者という関係ばかりはどうにもならない。他の街にしても盗賊くずれを受け入れる理由はないし、野放しにして同じことを繰り返されるのも後味が悪い。
私が頭を悩ませていると、褐色娘が思い出したように封筒を取り出した。
「あ、そうだ。忘れてた」
「なんです?」
「手紙。あんたあてに」
「私に? 誰でしょう……」
別にここにいることを隠してはいないので、近場からいろいろお誘いの手紙はくる。相手は貴族だったり教会だったり魔術組合だったりといろいろである。祭典があるので是非、魔術の指導をお願いします、賢者として公演などいかがでしょう? 今回もその手の勧誘だと思って手紙を受け取る。
「うわ」
「ん? だれだ?」
「勇者様です」
蜜蝋に押された印は、たしかに勇者様が王から頂いた紋章だった。私はいそいそと封を開ける。
手紙越しとはいえ、久しぶりの勇者様の言葉をゆっくりと読む。思えば、ずっと一緒に旅をしていたからお手紙を頂くなんて初めてのことだ。ちょっとクセのある字が懐かしかった。
近況や開拓地での暮らしぶりが事細かに書かれている。いろいろと苦労はあるようだが、開拓という生活は勇者様や女戦士には合っているようだ。
「なー、なんて書いてあった?」
「まだ読んでる最中ですよ……あ」
「ん?」
「頼みがあるから村に来て欲しいって言われちゃいました。と、とりあえず私、新しい服を仕立てに行ってきますね」
「落ち着け」
「だってちょっとお洒落していきたいじゃないですか!」
「まあ服はいいけどさー。頼みって何? 時間かかるもんか?」
私は街でそれなりに責任のある立場だし、先日ちょっと街をあけた隙に山賊騒ぎがあったばかりので、あまり街を離れるわけにもいかない。
「いいえ。早ければ数日ですむことですよ。転移用の魔法陣を作って欲しいんですって」
「あ、なるほど」
「想い人に頼られることほど嬉しいことはありません。ついでに強力な破邪結界と防寒・防熱にもなる防護結界、月光や星明りを集光して明かりにする夜光結界を……」
「なんかわからんがとりあえず落ち着け」
転移用の魔法陣は、本来なら協力な魔術師が何十・何百という人数で造るものだ。必要な秘薬や宝玉も貴重なものなので、一個造るだけでもちょっとした国家プロジェクトである。私はそれを一人で、僅かな宝玉だけでやることができる。
新しい村に転移魔法陣があればそれは便利だろう。いろいろ物入りだろうし、必要なものを簡単に調達できる。ここのところ商いばかりやっているのでそういう発想になったが、勇者様は別件で必要にかられているようだ。
私に誘いのお手紙がたくさん来るように、勇者様もいろいろと雑事があるらしい。むしろ、私よりもずっとこの手のことは多いのだろう。何しろ、『勇者』だ。
勇者様は『転移』が使えるが、私のように完全転移ができるわけではない。用事のたびに近場の街まで転移して、そこから自分の村まで帰るというのはかなり大変なようだ。
「じゃ、私、カレが呼んでるので私行かなくちゃならないんです」
「うぜえ」
「道ならぬ恋……一夜だけのアバンチュール……うふふ……」
「脳が疲れてるみたいだな。しばらくそっちで休んできていいぞ」
準備やらいない間の指示やらで数日かかってしまった。ちょっと気取った服も買ってみたのだが、いざとなると気恥ずかしくて着れない。結局いつもの服装でちょっとだけ身綺麗にしていく。鏡を見ながらなんども髪をいじってから部屋を出た。
「じゃあ。しばらく留守にします。よろしくお願いしますね」
「あいよ、行ってこい」
「はーい」
転移の印を組む。いつもとは少し違う印だ。勇者様の魔力紋を追尾してそれに向かって飛ぶ。世界でも数名しか行えないと言われる完全転移である。
転移した先には、いかにも開拓中の村といった光景が広がっていた。真新しい丸太小屋。切り開かれた土地。岩や木を運ぶ男たち。大きな丸太を運んでいる青年に目が留まる。一緒に旅をしていたときはまだ少年といった顔立ちだったのに、しばらく合わない間にずいぶんと精悍な顔つきになっている。
「ゆ、ゆう、勇者さまー! おひさしぶりですぅう~」
かっこつけた挨拶を考えていたのに、顔を見たら全部わすれてしまった。ばたばたと小走りで勇者様にかけよる。勇者様もすぐに気づいてくれた。
「おお、久しぶりだな! 賢者」
「はい。お手紙ありがとうございます。お元気そうでなによりです」
「まったく。いきなりいなくなるから心配したぞ? 女戦士なんかすげー怒ってた」
「す、すみません……いろいろありまして」
まさかヤケ酒で酔っ払って考えなしに出ていったとは言えない。
「ま、おまえも元気そうでよかった。今は山間の街にいるんだって?」
「はい。覚えておられますか?」
「忘れるわけないさ。あの爺さんたちも元気か? 俺も一回行って礼言わないとなあ」
しばらくの間昔話に花をさかせていると、急に勇者様の表情が曇った。
「どうされました?」
「賢者。強く生きろ」
「はい?」
私がぼけっとしていると勇者様は走って行ってしまった。瞬間、背後に野獣のような殺気を感じる。その正体がなにかを悟り体が恐怖で金縛りにあったように動かなくなった。
「けーんーじゃ~? 久しぶりねえ」
「あがががが」
首根っこを掴まれて動物のように持ち上げられる。持ち上げられたままぐるりと後ろを無化されると、そこには怒り心頭の女戦士が立っていた。
「いきなり! いなくなって! 心配するでしょがーーーー! 好き勝手してガキかアンタは!」
「すみませんすみませんずみばぜん~」
その場に座らされ延々と説教を受けるハメになった。
たっぷり小言を言われたあと、勇者様と女戦士のおうちへと招待された。こじんまりとしているが小奇麗な家だった。
「なかなか良い地脈の上にあるので、数日あれば魔法陣が作れるとおもいます」
「そうか。ちゃんと宝珠の金は出す」
「い、いえ。いいんですよ」
「ダメだ。俺だけじゃなく村でも使うもんだからな。ちゃんと金のことははっきりさせないと」
「そ、そうですか」
勇者様と女戦士。二人の間にある空気は、冒険をしていたときとは随分と変わって見えた。夫婦になったからなのか、それとも昔の私はこれに気づいていなかったのか。どちらかはわからなかった。
話を聞くと、開拓という仕事はなかなか大変なようだ。とくに、勇者様というブランドに浮かれて気分でやってきた人が多かったようで、実際の仕事のキツさに出ていく人が後を絶たないのが困りものだという。
人手不足なのだが、先立つものもないので人を増やすのも難しい。村として形になるまでは我慢していくしかないと二人は言った。
どこでもなかなか上手くはいかないようだ。特に、開拓団という場所ではなにかと物入りなのだろう。
そこで私は気がついた。ちょうど、うちの街に処理に困っている人間がいるではないか。
「……あのう。こっちの街に二十人ほど扱いに困る傭兵がいるんですが。良ければこっちで引き取ってもらえませんか?」
「ん? 何? どういうこと? 詳しくきかせなさい」
「実はですね」
私は事情を話した。傭兵たちが仕事にあぶれた経緯を話すと、やはり二人も複雑な表情になる。
開拓団というのはもともと脛に傷持つ者が新天地を求めて参加することが多い。今の傭兵たちには合っているかもしれない。やり直すにはいい場所だ。それに、問題を起こしたとしてもこの街には勇者さまと女戦士がいる。これ以上の抑止力は存在しないだろう。
「なるほどな。よし、俺たちにも責任があるんだ。その連中。ウチで面倒みよう。傭兵出なら力仕事も大丈夫だろうしな」
「いや、あなたね。もうちょっと考えなさい。そりゃ人手は必要よ。でもアタシらの村の状態だと、食料的にあと数人が限界だってば」
勇者様は快諾するが、冒険をしていたときはみんなの財布を握っていた女戦士が、現実的な意見をいう。たしかに、まだ発展途上のこの村には多くの人数を賄う生産力はないだろう。
それも私は考えてあった。この村の食糧事情も解決する方法を。
「どうやって?」
「ええと、長い話になるんですけど、東龍の国で飢饉が起きているんです。私も現地に行きましたけど、冬にはたくさん餓死者がでるでしょう。それで私、こっちで余剰食料を買い集めて向こうまで持って行って安く売るってことをしてるんです」
「それをウチの村にも持ってこようってこと?」
「はい。転移で輸送するんで輸送費ゼロです。たぶん近くの町の市場で買うより安いですよ。今もお友達の商人が各地で食べ物を買い集めてるはずです」
褐色娘を使って各地に買い付けに行かせていた。山賊の魔術師たちを足がわりに使わせている。私がかき集めてきた絹や陶磁器を軍資金にしているのでかなりの量が手に入るはずだ。
魔術師たちをめんどうな手続きまでとって監督下においたのはこのためだ。人数がいれば東龍の国まで定期的に食べ物を運ぶことができる。
話していると、女戦士がまじまじと私の顔を見ていた。
「な、なんですか?」
「……あんた。えらく頭回るようになったわねえ……。旅のときなんか一人で買い物なんか絶対に行かせられない子だったのに」
「そ、そこまでばかじゃあなかったですよ! まあ。いろいろ勉強しましたからね。商人と一緒にいると学ぶことが多いですよ。ふふん」
「もうっ、まったく! 立派になっちゃって! お姉さんは寂しいぞ」
女戦士がまるで子供にするように抱きしめてくる。力任せに抱きしめられ、女戦士の豊満な胸で窒息しそうになる。
(く、くそう。胸またでかくなったんじゃないかこれ)
自身のつるぺたな体との差異に憤りを感じつつも、彼女に認められたというのは悪い気はしなかった。




