三十二日目 出会い
昨日は教えてくれと頼まれて仕方ないから教えてあげたけど、あんな無駄な事は今後ごめんだ。大体、どうして僕が何の縁も無い相手に教えなければならないんだ。そんなことをこれからもさせたければ、次からは対価でも要求しようか。そうでもしないと、一方的に僕が損をしてしまう。
「はあ……全く、どうして僕が他人に教える必要が……」
無駄としか言いようがない。僕には何のメリットも無い。あの二人もメリットなんか無いだろうに、どうしてあんなことをやっていたんだろ?
「ああ……だる……」
僕は今食堂に向かっていた。今日は自習の日だから、この食事の後は体を動かすつもりでもあった。そして僕は、廊下を曲がろうとした。その時
ドン
「うわ!?」
「きゃ!」
向こうから突然出てきた人にぶつかってしまった。
「痛……」
「ちょっと!どこ見て歩いてんのよ!」
‥‥こっちのセリフだよ。全く‥‥。
「ねえ!聞いてんの!」
「そっちが突然飛び出してきたんでしょ?ゆっくり歩いてただけだったのに‥‥」
ああもう。災難だ。
「何よ!そっちがのろのろ歩いてるのが原因でしょ!」
‥‥鬱陶しいな。
「って、ああ。こんなのにかかわってる場合じゃなかった。食堂に急がないと……」
この変な女にかかわってる場合じゃない。
「誰がこんなのよ!あんたなんかその辺の石以下よ!」
はあ、うるさいな。なにこれ。聞いてあげる気もしない。
「って、ちょっと!待ちなさい!」
無視無視。さてと、食事食事。
「もう!何で無視するのよ!」
今日は何が出るかな?
ーーーー
「……」
「ねえ、聞いてる?」
はあ、しつこい。どこまでついてくる気だ。鬱陶しい。
「ねえ!」
「……うるさい。君と話す気はないから」
ああもう、食堂までついてくるとか‥‥。本当にしつこいよ。この子。食事食べられないじゃん。
「って、何でそういう反応するのよ!人の話はちゃんと聞けって言われなかった!?」
「……わざわざ石以下の存在にずっと話しかけるなんて、君馬鹿以下だね」
こんなにしつこいのは初めてだよ。鬱陶しい。
「な!私は馬鹿なんかじゃない!あんたなんかよりずっと強いんだから!」
‥‥君は僕を馬鹿にしてるんだね?叩き潰してあげるか。最近戦ってないし。
「へえ……。一度叩き潰して上下関係を明確にした方が良いよね?」
「何よ!?私と戦うっての!?あんたなんかすぐに終わりよ!」
‥‥身の程知らずにはお仕置きが必要だね。
「じゃあ、実際に戦おうか。場所はどこの訓練室にする?」
「はあ?雷学科の訓練室で良いわよ。そんなの」
「そう。じゃあ、昼食より前に君に上下関係を叩き込んであげるよ。模擬戦で勝負しようか」
むかつくし、叩き潰すか。他の学科だからって遠慮はしない。
「上等よ!あんたが私に屈するのよ!」
覚悟してもらおうかな。
ーーーー
雷学科の訓練室に来た。‥‥さて、この高慢女を叩き潰してすっきりしていこう。
「ルールは普通の決闘で良いよね?」
「ええ。それでいいわ!」
「……あの、どうしてこうなったんですか?」
審判役にさせられた人には悪いけど、この女を叩き潰さないとすっきりしないから叩き潰させてもらいます。
「決闘の準備は良いよ。そっちは?」
まあ、即座に紫バリアを張ってからトルネードを食らわせて実力の違いを見せてあげるかな。
「もちろん良いわよ。早くはじめましょ!」
「え、えっと、それでは、決闘を始めます。‥‥試合開始!」
決闘スタートだ。一瞬で終わらせてあげる!
「エレメントバリア!トルネード!」
即座に紫のバリアを張ってから、トルネードを発動した。これで試合は終わるだろう。
「何ですって!?くっ!だったら!ホバーディスク起動!」
竜巻が発生する前に高慢女が取り出した紐のついた円盤が突然浮き上がり、持っている高慢女ごと空に逃がしてそのまま高速で移動し、トルネードを避けた。
「なっ!?……そうか、魔法機械!」
そうだ、相手は雷学科だ。どんな物を持っているのか想像もできない。トルネードは何もない場所で発動した。
「……危なかった。一瞬でも遅れたらお陀仏ね」
「……魔法機械持ちだったのを考慮してなかったのがミスの原因か……」
まさかあんなに早く動けるなんて。
「はあ……改造ホバーディスクでなかったら危なかったわ……」
「魔法機械……また面倒な……」
「まあ、一応説明だけはしておいてあげるわ。雷学科ではこういう機械を自作したり改良して作った物を自分で使えるのよ。だから、これを使ってもルール違反にはならないってわけ」
「ホバーディスク」…雷学科の魔法機械の一種で、見た目は持ち手をつけた輪っか。雷の魔力を入れると起動し、魔力を流した人間の意のままに動かせる。この魔法機械の真価は出力次第で自分の身体を浮かせたり浮遊したまま素早く動くことも出来るという物。つまり、この少女のように飛ぶこともできるのだ。ただ、これに意識を集中しないといけないため、使用は意外に難しい。
「なんとうらや……ううん。面倒な相手」
僕ですら飛行魔法は作れないのに。機械って便利だね‥‥。魔力流せば何でも出来るんだ。
「え?ちょっと。何、その目?……そんな目で見ても、あげないわよ?」
は?僕そんな目をしてるの?
「……まあいいや。決闘の対価に出してもらっても良いかも。必ず君を倒す!」
あれさえあれば、飛べるのかも!よし、叩き潰して決闘の対価に頂こう!
「げ!なんか急にやばくなった感じが……」
「必ずそれを頂く!サイクロン!サイクロン!」
二つのサイクロンを出して相手を襲わせる。さあ、さっさとやられて僕にそれを渡せ!
「嘘……いやあああああ!」
追いかけてきたサイクロンから逃げて、そのまま相手は場外に飛び出して行った。やった!これで僕の勝ちだ!あの魔法機械貰おう!
「あ……負けた……」
「さあ、その機械を貰うから!」
これで僕も飛べるよね!
「え?……いや、あんたにこれをあげても絶対使えないから無理。というか、意味が無いから」
「はあ!?雷魔法だって使えるのに!?」
サンダーボルトも使えるのに、僕にはそれが使えないの!?
「……だって、魔法機械って最初の使用者以外に悪用されないように細工されてるし……」
‥‥え?
「それってホント?審判?」
急に話を振って悪いけど、これは凄く重要な話なんだ。答えて!
「……そうですよ。だって、盗まれて使われたら困るでしょう?だから、雷学科の魔法機械は最初の使用者以外に使えないように細工がしてあるんです」
‥‥そんな。じゃあ、ここで奪っても駄目じゃん‥‥。
「……そんなに落ち込むこと?」
「はあ……結局無駄骨か……。帰る……」
ああもう、最悪だよ‥‥。疲れただけじゃん‥‥。帰る。
「……そんなにこれが使いたかったのかな?」
「結局決闘の勝利の権利は使わないまま帰ってしまいましたが……ん?これって、彼の?」
「何かの術式?さっぱり分からないけど、これって何?」
「何かは分からないですけど、忘れ物ですね」
「……私が持っていくわ」
ーーーー
はあ。雷学科の使っていた機械を賞品で奪えば空も飛べると思ったのに。‥‥でも、仮に使えてもあれって途中で魔力切れたら恐ろしいことになるよね?
「ん?あれ?術式は?」
シルフィウィングの術式が無い。まさか落とした!?
「やばい……。あれを解読されたら不味いなんてものじゃない!」
もしあれの効果がばれたら不味い!すぐにでも探しに‥‥!
「あ。居た居た」
さっきの。まだ何か用?
「はい、これ。忘れもの」
‥‥術式。まさか中身の解読されてないよね?
「……そんな目で見なくても。別にこれの中身には興味ないから。確かに渡したから」
そう。ならいいや。
「ありがとう。それじゃ……」
まあ、永遠に会わないしね。別れの挨拶くらい
「って、ちょっと。待ちなさい」
はあ?
「負けっぱなしは納得いかない。あんた、私に術式の組み方とか教えなさい」
「断る」
誰がそんな馬鹿な事するかっての。
「いや、別にあんたの術式をそのまま寄越せとか言わないわよ。そんな事しても意味が無いし、私は私の道を行くから」
はあ?じゃあ、何で僕にそんな意味不明な事言い出すの?
「単刀直入に言うわ。魔法機械の作成のために術式の技術も必要なの。でも、私だけだとそんなにうまく術式が作れない。だから、協力しなさい」
「またそんな意味不明な……。そんな事、周りの雷学科に頼めば良くない?」
「何言ってるのよ。雷学科にあんた以上に術式の作成が上手い人なんているわけないでしょ」
「でもなあ……」
無償の協力とか嫌だし。
「ああもう!良いから私に協力しなさい!」
「……対価」
「は?」
「協力するんだから、見返りは?」
「見返り?そうね、あんたが協力してくれたら、魔法機械の作成を私も手伝ってあげる。実際に作らせてあげるし、あんたが作った物はそのままあんたにあげる」
「分かった。手伝うよ」
あれで飛べるなら、それでも良い!最終的には魔法で飛ぶけど、機械でもやってみたい!
「早!さっきの態度は何だったの!?どれだけ損得勘定で動いてるのあんた!?」
何でそんな呆れた表情を浮かべてるんだろ?
「ああ……なるほど。あんたが問題児呼ばわりされる理由も納得……」
「はあ?」
問題児?誰が?
「自覚は無いみたいだけどね。あんた、変な噂が出てるわよ。無償の協力を嫌い、協力には対価を要求する、自分に突っかかる相手を叩き潰し、二度と立ち直れないようにするとか、悪評が出てるわ」
「そう。まあ、どうでもいいや」
そんな悪評、どうせ僕には関係ないし。むしろ、それで関わってくる人が減ったら助かるし。
「……こいつに手伝ってもらうことが吉と出るか、凶と出るか……」
「術式の技術ね。まあ、組み方のコツとかそういうのでよければ良いよ」
「私が欲しいのはまさにそれ。だって、ウォルト先生はそこまで術式を組むのが上手いわけじゃないから」
「そう。そんなのでよければ構わないよ。それじゃ、僕は食堂に行くから」
自分の秘匿技術を教えるわけじゃないし、それらを見せるわけじゃないなら構わない。
「って、本当にあっさりしてると言うか、興味も関心も無さそうと言うか……。そもそもあんたも私も名前知らないでしょ!それに、どこで教えるのかとか全然決めてないでしょ!」
「ああ、風学科の訓練室に勝手に来て。基本的にそこに居るから」
もう今は用は無いな。
「ああもう!自己紹介くらいさせなさい!というか、止まれ!」
この会話の間もずっと僕は食堂目指して歩き続けている。だって、昼食まだ食べてないし。
「もう!止まれ!」
前に回り込んできて身体を抑えられた。‥‥そんなのどうでもいいじゃん‥‥。
「良くない!」
「……はあ。さっさと名前だけ言ってどいて。こっちは早く昼食を食べたいんだけど」
「もう!人の顔くらい見ろ!」
「面倒だし。さっさと名前だけ言って」
うるさいから、とりあえず顔を上げる。紫の髪と真っ赤な目は目立つだろう。多分。
「ジェシーよ。雷学科の生徒。魔法機械部門では名実ともに一番」
「……レイ。風学科」
「……それだけ?」
「ほら、言ってあげたからさ。そこどいて」
「分かったわよ……。これ、本当に大丈夫なのかしら……?」
「さて、ご飯食べたら帰るか……」
はあ、面倒な相手。でも魔法機械だけ作ったらもう用は無いよね。対価払ってさようならだ。
「あっ、1つ聞き忘れてた。ねえ、いつ行けばいいのよ?」
ん?ああ。それも決めてなかった?
「だから、来たい時に来ればいいじゃん。と言っても、来ても居ない時があるけど」
「だから、その居ない時を聞いているのよ」
‥‥えっと‥‥
「薬学の日は学科で受けてるから終わるまで無理。術式のある日は術式に出ているから終わるまで居ない。休みの日は大抵どこかに行くから無理」
「……そう。じゃあ、それらの時間をさけて私の方も空いている時間に勝手に行くわ」
「うん。じゃあ、勝手に来て。それじゃ」
さて、食事を取ったら運動でもしようか。
「……本当にあいつ大丈夫なのかな?まあ、頼んだものは仕方ないか。時間割が被っていない部分を調べて行ってみるか」




