三十一日目 レイと教えあい
今日は術式の授業だ。二人だけの間はリオとやることになっているが、もし組む人数が増えたら他の人を入れることになるだろう。そうなったら、あの水学科の生徒を入れてみよう。
「レイ?どうかしたんですか?」
リオが聞いてきた。まあ、考え事をしていれば当然だろう。
「ああ、ちょっと面白い実験をしようと思ってね」
「実験ですか?」
「うん。サンドバッグをサンドバッグでなくならせる実験」
「は?」
まあ、リオもこういう反応するよね。
「弱者と強者をひっくり返す方法があると言われたら、どうする?」
「レイ。そんなことが出来るんですか?レイの言いたいことは分かりました。ですが、あんな弱者には何もできません。一生ああいうゴミに食いつぶされるだけの存在ですよ?」
言いたいことを理解はしてくれたけど、まあ、こういう反応だよね。
「うん。僕も失敗すると思うよ。それに、良いことは何一つない。だって、教えることで損失が起きるしね」
「そこまで分かっているのに、どうしてやるんですか?」
「ただの気まぐれ。だって、面白そうだしね」
「はあ……でも、私に迷惑をかけないでくださいね?」
「分かってるよ。リオには絶対に迷惑をかけないからね」
「ええ。それさえ守っていただければ良いですよ」
まあ、三人一組に変わることは無いよね。だって、急激に人数が変わらない限りどうしようもないし。
ーーーー
「さて、今日もいつも通り二人で作業をしてもらおうか」
まあ、普通だよね。いきなり三人一組みたいな変更は無いか。
「じゃあ、今日は……どうしよう?」
「そうですね……私も、レイに依頼することがありません」
この前の術式くらいか。
「ねえ、この前のアレは?」
「ああ、この前のアレですね。これです。それと、あなたの物はまだ不可能でした。訓練室で一人になれる機会が無くて実験できませんでした」
リオが作った術式を渡された。‥‥自分は影響を受けなくしてある。まさに凶悪魔法だ。
「レイが協力してくれたから出来ました。自分は光の中でも平然と動いていられますよ」
「へえ……凄く強力じゃない、これ?」
「ええ。おそらくかなりの威力だと思います。一時的とはいえ、効けばおしまいですよ」
リオの自信も当然だろう。何せ、これを食らえば相手は一時的に目が見えなくなる。そうなればすぐに倒せるだろう。
「そうだね。これが効けば一撃だよ」
「はい。レイのおかげで作れたので、レイにも渡します」
「ありがとう。リオ」
これは強力だから、使えるよね。
「さて、じゃあ今日の課題は何かな?」
クライズ先生の課題でもやって時間を潰そう。
「よし、今日はお前たちには術式を改良してもらおうか」
改良か。僕の得意分野そのものだね。
「レイなら一分もあれば出来るでしょうね」
「一分は言いすぎだけど、すぐに終わるよね」
これは何度もやらされていたし、楽勝だよ。
「じゃあ、これを改良してみろ」
そう言って渡されたのは回復魔法らしき術式。
「これは、回復魔法でしょうか?」
「みたいだね。さっさと改良して終わらせよう」
回復魔法の改良なんてしたことも無いけど、多分大丈夫だろう。いつも術式の改良をしていたし。いつも通りにやってみよう。
「ダミーを消して、コストを減らして、完成!」
「基本ですね。あっさり終了です」
まあ、これくらい楽勝だよ。
「うわあ……やっぱり凄い……」
「さすがに速いね……」
「勝てない……」
また色々言っているらしい。‥‥自分の事やっていなよ。
「まあ、お前たち相手にはこれだと失礼だったか。だが、改良とは何もコストを落とすだけじゃないぞ」
コストを落とす以外だと‥‥回復強化?
「レイもそう思いますか?やはりそれしか無いですよね」
回復魔法の効果を強くしたらどうなるのかなんて知らないけど、やってみたら面白そうだ。
「……ここを強化するべきだよね?」
僕がリオに示したのは魔法陣の大きさ。
「……やはり、回復力を強化するべきでは?」
リオが言ったのは回復力の強化。‥‥どうしよう。
「リオ、どうしてそう思ったの?」
「だって、自分にかけるんですよ?それなら、回復力を強化しておくべきです」
ああ、なるほどね。
「でも、これは他の味方にもかけられる、ううん。そっちをメインにしていそうだよ?」
この魔法、ヒールサークルはその名の通り、円陣を作って中の人を回復させるみたいだ。自分にも使えるだろうけど、こういう魔法って味方の回復用じゃないかな?
「ああ、確かにそうですね。ですが、自分一人で戦う事を前提に強化した方が良いと思いますよ」
「うーん……本来の用途で使った方が良いと思うけどな……」
「……平行線ですね。どうしましょうか?」
「コストを上げてでも強化する?」
これしかないだろう。‥‥多分。
「そうですね。1を2にするくらいならそれほど影響は出ないでしょうしね」
「じゃあ、コストを上げて機能を強化してみようか」
「はい」
ヒールサークルのコストを2に上げ、リオの言っていた回復強化と僕の言った範囲拡大を同時に実行した。
「これで使えるのならば、私たちの戦力にも出来そうですけど……」
「どうなのかな?」
どうすれば正解かは結局分からない。
「ねえ、レイ。ちょっといいかな?」
アルが来た。でも、何で今なの?
「アル?」
「ちょっとレイにも手伝ってほしくて……」
「え?でも、今は……」
「レイ。行ってきても良いですよ」
リオと組んでるし、無理。そう言おうとしたけど、当のリオがあっさり許可を出した。
「え?良いの?」
「ええ。今日は一緒にしてもらう事は無いですし」
「分かった。じゃあ、アルの手伝いするよ」
「じゃあ、こっちに来て」
アルに言われるままついていくことにする。‥‥学科問わず何人も集まってるみたいだけど‥‥。
「ねえ、これどうやってやるの?」
「こっちはどうすればいいの?」
「これ教えて」
ああ、こういうやつらのための生贄ですか。教えて教えてって、その前に自分で何とかすればいいじゃん。
「レイ、お願い。僕とミリアだけじゃ教えきれないんだ……」
はあ、アルの自業自得でしょ‥‥。
「レイ、私からもお願い!」
ミリアまで‥‥。何でこういう馬鹿救済のための生贄に志願するのかな‥‥。
「……分かった」
はあ、とっとと終わらせて戻ろう。
ーーーー
「ほら、ここの部分どうすればいいの?」
「そこを消して、代わりにこれを書き加えるの」
「ねえ、この部分どうすればいいの?」
「それを改良してコスト減らして」
まあ、こうなるよね。教えあい?くだらない。自分で努力もせずに人に頼る奴らだ。だったら、適当に答えを与えるだけだよ。本当はもっと改良できる部分も手抜き答案にしてるけど別に良いだろう。
「レイ、やっぱりすごいね。すぐに片付いたよ」
アル、その前にこんなことを平然と頼んできたことに一言言いたい。
「ねえ、こんなことを引き受けてあげてさ、何かいいことあるの?」
「え?……だって、皆が困ってるのに助けてあげられないっていうのは……」
はあ、こんな理由か。
「使い捨てにされて、気分は良いの?」
「使い捨てって……いや、極端な言い方をすればそうなるけど、助けを請う人を捨てられないよ……」
アルは本当に甘い。甘すぎるよ。
「やっぱり、それがレイの見方なんだね」
まあ、ミリアには今日まで言わなかったけどね。
「レイ。レイは勉強をみんなでやったことってある?」
は?勉強なんて一人で教師の話を聞いたり調べてするものでしょ?ミリアは何を言ってるの?
「やったことないけど、やる価値も無いよ。だって、自分でやらないと意味が無い。というか、自分だけでやらないと」
「……レイに一緒にやることの楽しさを教えてあげるのってどうすればいいかな?」
ミリアはまた面倒事の算段でもしてるのかな?
「うーん……だって、レイが教えてもらう側に立つことが無いもんね」
先生以外には頼らないよ。多分。アルの言うとおり、僕は教えてもらう側にはならないから。
「ねえ、もう僕は向こうに戻っていい?」
いつまでもこっちに居ても仕方ないし、戻ろう。
「あ、うん。ありがとう」
「レイ、ありがとう」
二人に礼を言われた後、またリオの所に戻った。
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「大変でしたね」
「はあ……どうしてああいう物をやりたがるんだろ?」
「あの二人は仲間意識が強いですしね。落ちこぼれを見捨てられないのでしょう」
「……どうせ、教える側の僕たちには何一ついいことは無いのに」
だって、不利益しか生まないのは自分でも分かってるし。メリットなんかないよ。
「そうですね。いくら教えても、それで自分に利益があるわけではありません。それどころか、周りが強くなることで相対的に不利益を生みます」
「本当にね。どうして、あんな不利益しか生まない事を出来るんだろ?」
「さあ、私には分かりません。私には周りの同じような人間が教えてくれると言う感覚は分かりません」
「僕にも、さっぱりわからないよ。だって、一方的に損をするのに、どうしてそれができるんだろ?」
「レイは、気まぐれでやるつもりでしょうけど、損をしますよ?」
「本当に損をするよね。考え直した方が良いかもしれない……」
「ええ。気まぐれで自分の特権を失うのは避けた方が良いでしょうね」
うーん、どうしよう。自分の特権を失ってまで教えるのは嫌だけど、実験はしたいし‥‥。はあ、どうすればいいのかな?




