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二十七日目(2) リオと水学科生徒の決闘

 第三者side


 闇学科の訓練室は異様な空気に包まれていた。本来そこで訓練するはずの闇学科の生徒はどこにもおらず、代わりに光学科と水学科の生徒が何人か来ていたのだ。先生は居ないし、特定のラインを超えることができないようになっており、介入は不可能であるが、見物は出来るのでわざわざ見に来ていたのだ。


「ふふ。物好きな人達ですね……わざわざ味方の負けっぷりを眺めるためにやってくるなんて……これから決闘と言う名の一方的な試合を始めるんですよ?」


「ふざけんな!負けんのはお前だ!」


「そうだ!今からお前を叩き潰すんだよ!」


 どちらも相手を叩き潰す気であった。お構いなしに相手を潰す気だろう。幸い、非殺傷結界の中では死にはしない。


「……それでは、決闘を始めたいと思います。制限時間は5分。両者、準備はよろしいでしょうか?」


 レイがものすごくやる気なさげに言う。クライズに無理やりこの争いに巻き込まれたのだ。やる気も無いだろう。しかも、クライズはレイに立会人をやらせてどこかに行ってしまった。


「ええ。いつでも良いですよ。早くあのゴミを潰させてください」


 リオは異常にやる気だった。


「早くはじめろ!」


「俺たちが勝つんだよ!やらせろ!」


 水学科の生徒二人も同じくやる気であった。


「では、試合開始!」


 レイの合図とともに、試合が始まった。その瞬間、リオの魔法が発動する。


「セイントサンダーボルト!」


 レイが使っていた魔法とそっくりな魔法を使ったリオ。セイントとつけてはいるが、その中身はレイの物とほとんど変わらない物である。扇状に広がって行った白い稲妻が一瞬で二人を貫いた。


「ぎゃあああああ!?」


「ぐああああ!?」


 リオの右手から放たれた電撃は二人には強烈過ぎたようである。一気に体力を奪われ、その場に崩れ落ちてしまった。


「おや、たったこれだけで終わりですか?じゃあ、これから時間が来るまでサンドバッグになっていただきますね」


 リオはこれから時間が来るまで小物を攻撃し続けるつもりであった。


「あ、が……体が……」


「動けない……」


「ふう。だからゴミはゴミなんですよ」


 すでに勝敗は決した。だが、リオは1つ大きな勘違いをしていた。ここは光学科の施設ではないし、決闘は光学科の行う模擬戦闘大会ともまた違う物なのだ。相手が倒れた段階で終了しなければならない。それが決闘のルールだった。レイがリオに近づいてきた。


「何ですか、レイ?」


 レイもこの二人を攻撃するのに参加するのだろうか?そう考えていたリオ。


「ものすごく言いにくいんだけど、決闘は光学科の模擬戦闘大会と違うからここで終わりにしないと駄目みたい」


「はあ!?」


 リオだけでなく、光学科にもざわめきがおこる。敗者を叩き潰せないなどと、こんな理不尽があるのか!そう言いたげな状態になってしまっている。


「ぼ、僕だってこのルールを読まなかったら止めなかったよ。でも、これを見た以上止めないといけないし……」


「見せてください」


 レイからルールの書いた紙を取って自分の目で見るリオ。


「なんですかこれは!ふざけないでください!ゴミへの制裁が出来ないじゃないですか!」


 普段は落ち着いた口調のリオが突然叫んだことに驚く光学科。その理由はリオ自身が読み上げたので明らかになった。


「戦闘不能にした時点で戦闘を終了しなければならない、よって相手側へのオーバーキル禁止。……これは我々への挑戦状ですか!?せっかくのサンドバッグを叩き潰すことを許されないというんですか!?」


 リオの言葉を聞いて「ふざけるな!」「何だそのルールは!」などと騒ぎ出す光学科の生徒たち。この決闘も自分たちの模擬戦と同じだと思っていたようだ。


「更に、倒した相手を助け起こす必要がある時は助けなければならない!?どうして私が処分したゴミを拾ってあげなければいけないんですか!?……まあ、これは実行する必要も無いですね」


 またしても「ありえないだろ!」「なんだそれは!」と騒ぎ立てる光学科。まあ、模擬戦で倒した相手に更に追撃する光学科には分からないのも無理はない。


「……レイ。このルールを作ったのは誰ですか?」


 今まで見たことも無い形相のリオがレイを睨む。


「……渡してきたのは、クライズ先生……」


 その瞬間「また闇学科か!」「ふざけるな闇学科!」「俺らの楽しみを返せ!」と更に騒ぐ光学科。一方の水学科は光学科を見て怯えているか、怒りに震えるかの2択だった。前者は単純に光学科が恐ろしいからであり、後者は仲間を叩き潰した挙句に再起不能に追い込もうとする光学科への怒りである。


「ふざけないでください!……でも、これには良い物が1つだけありますね」


 リオが見たのは決闘の勝利者が敗者に命令することができる権限である。


「では、決闘の勝利者として水学科に要求します。そこで寝ているゴミ2つを光学科の模擬戦闘大会に明日参加させるか、ここの決闘のルールを模擬戦闘大会に変えて続行するのか、どちらか選んでください」


 そう。リオは決闘の勝利条件を利用して、ここで模擬戦闘大会と言う名のリンチをさせるのか、明日この二人を参加させるのか選ばせて叩き潰す気なのだ。


「鬼だ……」


 レイが呟いた通り、光学科は鬼である。ストレスが溜まりまくっているため、発散する場所が必要なのだ。それは当然弱者に向けられる。リオは圧倒的な強者であった。ゆえに、光学科の生徒であっても叩き潰せるが、自分を不快にした雑魚を叩き潰す方を選んだのだ。


「さあ、どうするんですか?水学科?何も言わなかった場合、ここで勝手にルールを変えて叩き潰しますよ?」


 このままリオの思うとおりに進み、光学科に新しいサンドバッグが出来る‥‥とはいかなかった。


「そこまでです!」


 メリシアがアリエスを連れてここに来たのだ。二人はクライズに呼ばれてここまで来たのだ。


「メリシア先生……」


 リオが嫌そうな顔で見る。この後の結末を知っているからだ。


「まず、あなたは決闘の立会人、ご苦労様でした。生徒を止めたこと、礼を言います」


 突然レイに感謝の言葉を言うメリシア。レイは想像できないことが起きたためにぽかんとしている。


「リオ。これは一体どういうことですか?」


 リオに事のあらましを聞くメリシア。


「あの二人……そこで転がっている二人ですが、余りに頼み方も知らない屑なので頭にきて叩き潰した……いえ、叩き潰してあげようとしました」


 全く悪いとは思っていないようだ。実際、リオは悪いのは屑の方だと認識している。確かに彼らは悪いが、そのきっかけはリオが作ったのだ。一応リオも悪いのである。


「では、そこの二人にも聞きます。何がありましたか?」


 この言葉を聞いたリオの表情は「はあ!?」と言いたげな物であった。何せ、メリシアは叩き潰した生徒の側にも話を聞こうとしたのだから。


「……教えてくれと頼んでも教えてくれなくて……むかつく言い方だったから……」


「同じです……」


 実際、リオの対応はあまりにも失礼であった。「対価」を要求するわ、暴言を連発するわと無茶苦茶であったのも事実である。二人の話を聞いたリオがまた不快感を露わにした。メリシアやアリエスさえ居なければすぐにでも魔法を叩き込むであろう。


「はあ……大体の察しはつきました。要するに、あなたたちの頼み方が失礼だったのと、リオが教えるのを拒んだのがこの騒動のきっかけですね……」


 レイが横で聞いていた時の話と大体一致する。まあ、最初に断らなかったらまた違う未来もあったかもしれないが。


「じゃあ、アリエス先生。どうしましょうか?」


「……何をですか?」


「決闘の結果、光学科が勝ちました。これは事実です。ですが、彼らの模擬戦闘大会に水学科の生徒を巻き込んで犠牲にするわけにはいきません」


 この言葉に更に顔を歪めるリオ。いくら決闘で勝ってきても、リオや光学科の望む「生贄」は絶対に入らないのだ。何回勝ってもこうやって必ずメリシアが止めてしまうのだ。見に来ていた光学科の生徒も同じ気持ちだった。


「また、邪魔をするんですか……」


 彼ら「勝ち組」は弱者を徹底的に叩き潰すことを好むが、他の学科の生徒を叩き潰せた事は無い。リオもすでに5回このような決闘を挑まれて勝利しているのだが、全てリオが本当に欲しい「生贄」は手に入れることができなかったのだ。毎回メリシアがやって来て勝利したときの権利を「勝手に」使われてしまう。しかも最悪の方向で。


「……私には何を出せばいいのか察しがつきません……」


「では、決闘当事者の和解で」


 決闘当事者。つまり、リオと水学科の和解‥‥要するに仲直りで済ませよう。そうメリシアが言おうとしたとき、突然リオが口を挟んだ。


「そんなくだらない事を要求するくらいなら、初めから要りません。役に立たない屑との関係を持つなど私には迷惑です」


 さすがにメリシアもここまでリオが言うとは思わなかった。メリシアはいつも生徒同士の仲直りをさせるつもりでやっていたのだが、光学科の生徒が拒否するのだ。リオも当然拒否していたが、ここまではっきり「相手との関係自体私には要らない」と言い切られたのは初めてである。


「り、リオ……何を言っているんですか。これより良い話など……」


「ふざけないでください。いつも私たちの邪魔ばかりして……余計な物ばかり与えようとして……落ちこぼれに関わっても何も私たちに良いことは無いんです!勝手に決めないでください!」


 そのリオの言葉に光学科の生徒たちも「そうだ!余計な物より俺たちが本当に欲しい物を与えろ!」「迷惑行為の押しつけは要らない!」「落ちこぼれや屑、ゴミと関わるくらいなら何も要らない!」と口々に言い出す。リオの決闘を見に来たのはいずれも光学科でも上位に位置する者達ばかりである。彼らは全員決闘の賞品をメリシアに勝手に決められてうんざりしていたのだ。だが、そんな物に怯むメリシアではない。光学科の教師の権力と彼らのプライドを使えば、これくらいの状況はすぐに変えられるのだ。


「ふざけているのはあなたたちです!勝手に決闘を行って、勝った時の賞品は自由に殴れる他の学科の生徒などと……。そんなことをして良いと本気で思っているんですか!それが栄光ある光学科ですか!」


 もっとも、その原因は光学科の制度のせいなのだが‥‥。メリシアが出来ない子を落とす制度をとっているため、光学科は常にストレスが溜まってしまうのだ。


「それに!他の学科と関係を持てることの何が不利益なの?それこそ、周りと違って競争することは無いんですよ?あなたたちの周りの生徒と違って、潰しあいの相手にはなりません!」


 その理屈もおかしいのだが、一応あってはいる。光学科が仲が悪いことは知っているが、他の学科と関われば良いこともあるんだと言う事を説こうとする。大半の生徒は納得する。が、リオだけはそれでも納得しなかった。


「そうだとしても、使えない人間と組むよりは、組まない方が良いです。それに、私に取引相手が欲しいと言うのなら、すでに居るので構いません」


 そう。リオはレイと言う優秀な取引相手を見つけている。なので、これ以上関わる必要はない。むしろ、下手に組んだら損をするかもしれないのだ。なので組まない。それに


「それに、自分に喧嘩を売ってきた屑とわざわざ仲直りしてあげてわざわざ仲良くしてあげる理由は私にはありません。決闘の賞品は二度とそこのゴミが私に近づかないことで良いです。失礼します」


 そもそも、リオに絡んできてリオの態度に怒った相手が決闘を挑んでくるのだ。典型的な小物ばかりである。そんな連中と関わるくらいなら、決闘の賞品をも拒否する考えだった。今回は、こういう条件を叩きつけて相手の話を聞かないことで無理やり認めさせようとしたのだ。


「行きましょう、レイ」


 強引にレイの手を取って引っ張って行ってしまったリオ。


「な!待ちなさい!まだ話は……!」


 メリシアの叫びを無視して、リオは出て行ってしまった。

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